NEXCO西日本中国支社は、昨秋に実施した中国自動車道の六日市IC~鹿野IC間に位置する蓼野第二橋(下り線)の床版取替工事において、同社と三井住友建設が共同開発した超高耐久床版「Dura-Slab®」を高速道路橋に初採用した。Dura-Slab®は、鉄筋やPC鋼材に替わる材料としてアラミドFRPロッドを緊張材として用いた非鉄製床版で、腐食劣化の可能性を排除するとともに、耐久性の向上により長寿命化が図れることが特徴だ。また、壁高欄にも鉄筋の代わりにGFRPロッドを使用した超高耐久壁高欄「Dura-Barrier®」を採用した。
六日市IC~鹿野IC間の凍結防止剤散布量は約500t/年
同一環境でDura-Slab®とプレキャストPC床版の比較検討が行えることも採用理由
蓼野第二橋(下り線)は、一級河川蓼野川と県道12号線を跨ぐ1983年に供用された橋長103m、有効幅員8.5mの鋼2径間連続鈑桁橋(4主桁)。平面線形はR=500mで、縦断勾配2.4~3.3%、横断勾配6.0%となっている。既設床版厚は230mmで、これまで下面補強や増厚は行っていない。
蓼野第二橋(大柴功治撮影)/同橋 一般橋梁図(NEXCO西日本中国支社提供。注釈なき場合、以下同) ※拡大してご覧ください
六日市IC~鹿野IC間の2020年平均断面交通量は約2,800台/日、大型車混入率は約50%である。凍結防止剤は同区間で約500t(2020年度)を散布していて、その影響によるものと考えられる損傷が既設床版に発生していた。床版下面では張出部、鋼桁間に共通してコンクリートの剥離や鉄筋露出が多く見られ、コンクリートのひび割れ部では漏水跡も確認された。床版上面ではコンクリートのひび割れ、鉄筋の腐食、土砂化が確認されている。塩化物イオン濃度は、支間中央部付近の床版下面で最大6.57kg/m3に達し、鉄筋近傍(深さ60mm付近)では最大5.8kg/m3となっていた。
既設床版下面と上面の損傷状況
これら床版損傷に対する抜本的な対策として、床版全面(873m2)を超高耐久床版である「Dura-Slab®」に取り替えることにした。
同床版を採用した理由として、NEXCO西日本は「凍結防止剤散布量が多い区間であったことに加えて、一昨年に同橋(上り線)でプレキャストPC床版を用いた床版取替工事を実施しているため、同一環境における橋梁での比較検討を行える」ことを挙げている。
設計基準強度80N/mm2の高強度繊維補強コンクリートを使用
床版相互の継手は縦締め緊張力により接合 床版上面に孔を設けず耐久性を向上
Dura-Slab®では、シリカヒュームとPVA繊維を用いた設計基準強度80N/mm2(実際強度は120 N/mm2に達する)の高強度繊維補強コンクリートを使用している。このため、鉄筋配置が不要となり、かつ厳しい腐食環境でもまったく錆びることのないアラミドFRP(アラミド繊維の種類:テクノーラ)ロッドを緊張材として使用することで、「腐食因子を排除した」(NEXCO西日本)プレキャスト床版を実現した。
Dura-Slab®概要図
Dura-Slab® 上面/下面/工場製作時
アラミドFRPロッドは引張強度がPC鋼材と同等のアラミド繊維をビニルエステル樹脂で固めて棒状に束ねたもので、1本φ7.4mmの素線を、横締め(プレテンション方式)では4本束、縦締め(ポストテンション方式)では9本束を1ケーブルとした。今回の床版取替工事での縦締め総本数は47ケーブルとなっている。
縦締めの採用で間詰幅を30mmとすることができることや、床版上面にはスタッド部を含めて孔を一切設けていないことも特徴だ。さらに、床版厚を180mmと一般的なプレキャストPC床版よりも約2割薄くすることができ、軽量化を達成している。
間詰幅は30mm/床版上面に孔が一切ない(大柴功治撮影)
このような構造により高耐久化と長寿命化を図り、また軽量化で耐震性も向上することから、維持管理における人的および経済的負荷の低減に寄与する床版となっている。
1日に3枚、合計46枚の新設床版を架設
撤去・架設は220t吊オールテレーンクレーンで3ステップに分けて施工
終日対面通行規制後、路面切削を行い、既設床版をコンクリートカッターと鋼桁上はウォールソーにより、橋軸直角方向約2分割となる橋軸方向2.0m×橋軸直角方向5.1m(約8t)に切断した。壁高欄は路肩側のみでワイヤーソーで切断して、既設床版と一体で撤去している。
既設床版と壁高欄の切断
既設床版は1日にあたり8ブロック、合計154ブロックを撤去、新設床版は橋軸方向2.4m×橋軸直角方向10.2m(約18t/標準版)で1日あたり3枚、合計46枚を架設した。支点上3枚と95度53分の斜角を有するA2側端部付近3枚は調整版を用いている。
既設床版の撤去とDura-Slab®の架設
1日の標準的な工程は、午前中に新設床版を架設し、昼過ぎから既設床版の撤去、上フランジの研掃、塗装、スタッド溶接などの施工となっており、夜間作業は実施していない。
床版の撤去・架設は220t吊オールテレーンクレーンを用いて、3ステップに分けて施工した。まず、P1中間支点付近の既設床版をA1側からA2側に向けて撤去し、新設床版10枚を架設した後に、縦締めケーブル緊張を実施。次に架設・緊張済みのP1側からA2側に向けて撤去と架設(17枚)を行い、クレーンの解体、移動後、P1側からA1側に向けての撤去と架設(17枚)を完了させて、ケーブル緊張とPCグラウト(太平洋ハイジェクター(Premix-AD))注入を行った。最後に、端部版の架設をA2側、A1側の順番で実施し、ケーブル緊張を含めて68日で架設を完了させている。
施工概要
新設床版構造一般図 ※拡大してご覧ください