大成建設が開発したプレキャスト(以降、PCa)PC床版接合技術『Head-barジョイント』が大規模更新事業の床版取替工事で採用された。同ジョイントは、PCaPC床版の接合部に着目して、床版の設置や間詰部の施工性を向上させ、さらに間詰材に高強度繊維補強モルタルを採用することで疲労や塩害に対する耐久性を向上させたもの。Head-barと高強度繊維補強モルタルを用いた間詰材の併用により、PCaPC床版接合部での鉄筋応力の伝達性能を向上させたことで従来のループ継手と比べて間詰幅を約1/3の110mmに縮小できた。このことにより現場での間詰材の練混ぜ量を減らせ、その製造機械や打ち込み機材、底型枠も簡略化できる。また、間詰部に軸直角方向の鉄筋も配置する必要がなく、配筋作業を省略できる。床版の設置は上から吊下ろすだけで設置できる簡易さも特徴の一つだ。架設枚数が多いほどメリットがあり、例えば、PCaPC床版52枚を設置する場合では、施工日数を27%も短縮できると試算されている。(井手迫瑞樹)
従来工法とHead-barジョイントの違い/PCaPC床版52枚を設置する場合で、27%も工期を短縮
高速道路2主鈑桁橋の床版取替で実適用
Head-barは上下2段配置 Head-barと互いのパネルとの離隔は16mm
対象橋は、1980年に暫定2車線、83年に完成4車線で供用された橋長約70mの鋼2径間連続鈑桁橋(4主桁)。交通量は1日当たり3,000~4,000台と少ないが、山岳部に位置しており、凍結防止剤を多く散布していることによる塩害や経年劣化によって防水層がかなり傷んでいたということもあり、床版上面においては一部で被いコンクリートが土砂化、下面では水の浸透により鉄筋がさび、コンクリートが剥離して(剥落防止用の)ネットが一部で剥離している事象も生じていた。そのため、床版取替を行うものだ。
対象橋梁の鋼鈑桁RC床版の損傷状況
対象橋ではPCaPC床版を37枚(標準版34枚、異形版3枚)用いて取り替えた。また、端部は延長床版を使用しているが、ここもPCaPC床版を採用している。配置は、端部の遊間をまたぐ形で5枚の床版を縦配置し、横締めPC鋼材で緊張するもの。延長床版と通常の横配置されたPCaPC床版は、Head-barジョイントで接合している。
PCaPC床版の製作に当たっては、水切り部と地覆まで一体化させ、蒸気養生(最高温度60℃以下3時間以上)および水中養生(3日間)を行い、品質を向上させる。現場打ちする壁高欄部の地覆立ち上がり部の打継目処理は硬化遅延剤を用いて脱型後に高圧水で目粗しし、付着強度が高まるよう工夫している。
対象橋は最大6%の横断勾配を有する
床版の製作状況
水中養生/打継ぎ目の目粗し処理/6%勾配を模擬した受け台
本現場での施工上の最大の特徴は、間詰材に97N/mm2の圧縮強度(設計基準強度)を有する高強度繊維補強モルタルを用いるHead-barジョイントを適用したことである。Head-barは従来から橋脚などにおいて使われているプレート定着型せん断補強鉄筋である。床版継手用にプレート仕様を再検討した。プレートと鉄筋は従来と同様に摩擦圧接で接合されている。Head-bar単体の引張試験では、破断は母材鉄筋側で生じることが確認されている。また、Head-barジョイントによる接合部の疲労耐久性については輪荷重走行試験により確認されており,継手部の耐久性は高いといえる。間詰材は収縮補償タイプの仕様となっている。鋼繊維は応力分散および終局時の間詰部の破壊を防止することに寄与している。鋼繊維は長さ15mm、φ0.2mmで混入率は2.3vol.%とした。
Head-barジョイント/モルタルに混入されている鋼繊維/6%勾配にも打設できる鋼繊維補強モルタル
床版端部は断面の中央にせん断キーを設けた凹状の形状になっており、Head-barは上下2段配置とし、かぶり厚はいずれも40mmとして配置した。Head-barジョイントの応力伝達のメカニズムであるが、鉄筋の引張り力に対し、最終的には間詰材を介して、プレート背面の圧縮で抵抗する構造となっている。
隣り合うHead-bar同士は、コンクリート仮想圧縮ストラットが45°以内になるように幾何学的な配置を決定しており、プレート背面に生じた圧縮力により、その隣り合うプレートが相互に拘束されることで抵抗する。最終的にはプレートが有効に働くため、施工時の交通振動により鉄筋下方に隙間が生じても継手の耐力低下を招くことがない。
Head-barジョイントの配置概要図/Head-barと互いのパネルとの離隔は16mm
加えて、狭い間詰幅のため、母材であるPCaPC床版内の横配置の鉄筋や横締めPC鋼材の設置ピッチ内(200~300mm)に吸収されるため、軸直角方向の鉄筋を省略できるというメリットもある。これも構造面だけでなく、施工の省力化という点でも大きく現場に寄与できる。
輪荷重走行試験状況/静的曲げ載荷試験状況
高強度でありながらヤング係数は母材とほぼ変わらない
間詰材製造は専用の機械が不要
使用する間詰材は高強度でありながらヤング係数がPCaPC床版のコンクリートと同等かわずかに高い程度であるため、母材への引張り負荷がかからない。防水層施工前の研掃もスムーズに行えるような仕様としている。
さて、対象橋の現場では、間詰材は練混ぜ容量100 Lの汎用モルタルミキサーで製造して打設した。プレミックス材と水、鋼繊維を混入攪拌して製造するものであるが、「従来の超高硬度繊維補強モルタルのように練混ぜ性能の高い専用の機械を必要としない。間詰材の施工量が少ないため簡易なミキサを用いた現場練りで施工することができる。」(同社)ところが強み。練混ぜ時間や水量は現場の温度条件などによって決め、施工前に試験練りを行い、品質を確保するのは従来の間詰材と同じだ。収縮が小さく、鋼繊維で補強しているため、ひび割れを最大限抑制することができ、さらに勾配が大きい箇所でもそれに対応した打設が可能で、地覆部まで打ち上げることができる。対象橋では横断勾配が5.5~6%に達するが、間詰部について地覆はもちろん水切り部まで一体的に打設することができた。
間詰幅の短縮は、工程上のメリットにも寄与している。従来の接合幅の場合は、間詰材を打設する際、クレーンを使用したバケット打ちが使われることがあるが、その間は床版架設が(クレーンを別用途に使用しているため)できなくなってしまう。Head-barジョイントでは間詰材を小型ミキサで製造し、直接打ち込むことができるため、床版架設を行いながら間詰部を施工するということも可能になった。対象橋では、詳細設計の完了後に接合部の変更を行ったため、揚重設備等の制約から本来の施工の優位性を完全に発揮できなかったが、設計段階から同ジョイントを採用していれば、従来継手より27%ほど床版取替日数を短縮できる見込みだ。
床版架設状況
延長床版を除き架設が完了した状況/Head-barジョイント
下から見た間詰部および間詰部打設前の型枠設置状況
間詰部の高強度繊維補強モルタルは現場で製作して打設した
延長床版の施工状況/壁高欄設置状況/床版防水(レジテクトGS-M工法)の施工状況/表層舗装の施工状況
Head-barジョイントを応用した分割床版の接合構造を提案していく
同社では、Head-barジョイントを通常のPCaPC床版間の継手だけでなく、縦目地部分への適用を模索している。縦目地部分の接合は、現在は床版間にせん断キーを設けて繋ぎ、最終的には横締めPC鋼材で全幅を緊張することで一体化している。一方で目地部の詳細は活荷重時にフルプレストレスになることに加えて、過積載時(通常の1.7倍の活荷重)を想定した照査を行わねばならないことがH24道示で示されている。
分割床版は版自体の耐荷性能を確保するためのプレテンPC鋼材と不連続目地部の耐荷性能を確保するためのポステンPC鋼材が配置されることになっているが課題も多い。そうした課題を踏まえた上で「Head-barジョイントを応用した分割床版の接合構造を提案していく」(同社)方針だ。