PC橋部施工ではヤード確保に苦心
熊本県 鋼・PC混合の長大橋・第二天草瀬戸大橋の上部工が進捗
熊本県は、熊本天草幹線道路の一部である「本渡道路」の(仮称)第二天草瀬戸大橋(以下、「(仮称)」省略)の建設を進めている。本渡道路は天草上島と天草下島をつなぐ延長約1.3kmの道路で、橋長1,148m(幅員9.5m)の同橋がその大部分を占める。下部工は橋台2基、橋脚27基ですべての施工が完了し、上部工施工が進捗中だ。今回は、鋼・PC混合橋である同橋の設計上の特徴とPC橋部の施工を中心にレポートする。
熊本天草幹線道路の西側起点部に位置
現道の天草瀬戸大橋周辺では毎朝2kmを超える渋滞が発生
天草地域は、熊本県の重要施策である熊本都市圏と県内主要都市を90分で結ぶ構想(90分構想)を唯一達成できていない地域で、国および県で天草市中心部と熊本都市圏を結ぶ全長約70kmの地域高規格道路「熊本天草幹線道路」の整備を進めている。
熊本天草幹線道路路線図/本渡道路概要図(熊本県提供。以下、注釈なき場合は同)
第二天草瀬戸大橋を含む「本渡道路」は、その西側の起点部に位置する自動車専用道路で、90分構想の実現に寄与するとともに、現道の国道266号天草瀬戸大橋(交通量約30,000台/日)周辺の渋滞緩和や災害時の代替路としての整備効果が期待されている。とくに、天草瀬戸大橋付近では朝夕の通勤時間帯や休日などに慢性的な渋滞が発生しており、「毎朝の渋滞は上島(熊本)側で2kmを超える」(熊本県)ことから、地域住民にとってはその整備は切実なものだ。事業は2013年度に着手し、2022年度に開通予定となっている。
現道の国道266号天草瀬戸大橋(大柴功治撮影。以下、*)/天草瀬戸大橋付近の渋滞状況
起点側と終点側がPC橋、渡海部を含む627mが鋼橋
渡海部の最大支間長は100m
第二天草瀬戸大橋の上部工形式は、PC5径間連続中空床版橋(G1、153m)+鋼4径間連続細幅箱桁橋(G2、200m)+鋼4径間連続細幅箱桁橋(G3、191m)+鋼3径間連続鋼床版箱桁橋(G4、236m)+PC6径間連続中空床版橋(G5、180m)+PC5径間連続中空床版橋(G6-1、156.5m)+PC単純中空床版橋(G6-2・3、31.5m)である。G2とG4が渡海部、残りは陸上部で、G2の本渡港渡航部となるP6-P7の支間長は65.7m、G4の本渡瀬戸渡航部となるP14-P15の支間長は100.0mとなっている。
第二天草瀬戸大橋 立面図
同 平面図
鋼橋 風景との調和を図れる鋼床版箱桁橋に
PC橋 中空床版橋を採用し圧迫感を低減
橋梁の景観コンセプトは、「海と山の織りなす本渡の風景と調和し、天草の次代を担う橋」とした。橋梁形式やデザインの決定にあたっては、予備設計段階と詳細設計段階で計2回のオープンハウスを実施して住民から意見を聴取するとともに、有識者の意見を参考にした。1回目のオープンハウス(9日間)では延べ1,160人が来場し、247枚の意見シートを回収、2回目(2日間)は延べ720人が来場し、342枚の意見シートを回収している。
橋梁形式では、本渡瀬戸渡航部(G4)が支間長の長い形式となることから予備設計段階で、鋼床版箱桁橋、鋼斜張橋、PCエクストラドーズド橋の3形式を提案。経済性、構造性、施工性、維持管理性などの総合評価に加えて、住民からの意見を踏まえ、周辺環境に馴染みやすい鋼床版箱桁橋を選定した。
また、渡海部のG2とG4に挟まれた陸上部のG3は、経済的で桁裏の煩雑感を低減可能な鋼細幅箱桁橋とした。陸上部のG1、G5、G6は渡航部のようにコスト増加に直結する大きな制約がないため、極力支間長を短縮しコスト削減が可能で、かつ桁高縮小による圧迫感の低減効果が最も高いPC中空床版橋を採用している。
完成イメージ
橋梁としての一体感のため、側面ウェブは逆台形で統一
鋼橋とPC橋の掛け違い部は擦り付けを行う
橋梁デザインは「風景との調和」を図るとともに橋梁としての一体感を出すために、さまざまな工夫を行った。上部工の断面形状はスレンダーでコンパクトな印象となるように、側面ウェブを下向き斜めにした逆台形で統一し、鋼床版箱桁橋とPC中空床版橋の掛け違い部は、桁の高さと幅をスムーズに擦り付けることで連続性を確保している。橋脚についても、P1~P25橋脚をイチョウ型のデザインとすることで上部工の逆台形断面形状との一体感を保つとともに、柔らかい印象となるような配慮を行った。付属施設では、G2~G4間は海への眺望を阻害しないように透過性に優れる鋼製防護柵を採用、陸上部のG1、G5~G6は飛沫防止や住環境へ配慮して半壁式高欄を採用している。
橋梁としての一体感を出すための工夫(右写真=*)
鋼橋部(G2~G4)の鋼桁塗装色は、CGによる検証と塗装板サンプルを用いた現地確認を行ったうえで、天草特有のエメラルドグリーンに光る海や周囲の山並みと調和する「明るいブルー」(5B7.0/2.0)を選定した。
塗装板サンプルによる現地確認
G2・G4の渡航部は送出しで架設
G4・本渡瀬戸渡航部では国内最大級の支間長100mの送出しを実施
上部工施工は、G1~G6の6つの工区に分かれて進められている。前述したとおり、G1、G5、G6がPC橋、G2~G4が鋼橋だ。
G3(P9~P13)は200t吊クローラークレーンを用いたクレーンベント工法により桁架設を行い、本年2月にすべての架設を完了した(工事竣工は5月31日)。
G3の桁架設
工事竣工後。右写真は起点側から(左写真=*)
G2(P5~P9)では、P5~P6間およびP7~P9間をクレーンベント工法(200t吊クローラークレーン)で架設後、本渡港渡航部となるP6~P7間を送出しでの架設を行った。桁長は55mで手延べ機(50m)などと合わせた総重量は約252tとなり、これをP7~P9間上で組立て、送出し全長98.5mを4日間(11月18/19/21/22日)で送出した。
【関連記事】熊本県 (仮称)第二天草瀬戸大橋 航路上の桁を4日間で送出し
送出し架設前/送出し架設中(右写真=*)
19日の送出し架設完了時/送出し架設完了(左写真=*/右写真=日立造船提供)
G4(P13~P16)は、本渡瀬戸渡航部のP14~P15が送出し架設で、支間長100m(送出し全長160m)は国内でも最大級となるうえに、曲線桁のために難易度が高い施工が求められる。架設桁は桁長90m、手延べ機(69m)などを含めた総重量は約700tとなり、G3側で組立て後、今年度末の送出しを予定している。送出し前には、P13~P14、P15~P16の順番でクレーンベントによる架設を行っている。(編集部:鋼橋の施工については、来春に詳細記事を掲載します)
G4の桁架設/本渡瀬戸渡航部のP14~P15径間。国内でも最大級の送出し架設を来春に行う予定だ
G4全景、起点側から