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床版接合部にサスティンクリートを採用 橋脚補強をまず施工

NEXCO中日本 名神道長良川橋の大規模リニューアルが進む

公開日:2021.12.16

 中日本高速道路は、名神高速道路長良川橋の床版取替を含む大規模リニューアル工事を行っている。同橋は岐阜県羽島市~大垣市間の長良川渡河部にかかる昭和39年に供用された鋼3径間連続合成鈑桁橋×3連(上下線合わせて計6連)の橋梁である。橋長は630m、現況の有効幅員は上下線それぞれ10.4mで、平均断面交通量は約53,000台、大型車混入率は約22%に達している。名神高速道路の岐阜羽島IC~大垣IC間は開通後50年以上が経過しており、当該橋梁においては、輪荷重の繰り返しによる床版の劣化に加えて、凍結防止剤の散布による塩化物の侵入に伴う床版劣化の進行が主な原因とされる損傷(床版下面の浮き・剥離・アスファルト舗装路面のポットホール)が発生している。ただし塩化物イオン量の鉄筋近傍値は1.1kg/㎥と基準値以下であることから、どちらかといえば、疲労が卓越した損傷といえる。現場は交通量が約53,000台と多く、現状でも渋滞が起きている状況で、従来のように対面通行規制や車線規制による断面分割施工を行えば、大渋滞が発生する可能性が高い。そのため、更新工事中に供用車線数を減少させず、大渋滞の発生を防ぐために、同橋の上下線が近接していることを利用し、上下線の中間部に増設桁を架設して床版を新たに設置し、上下4車線(車線幅3.25m)を確保しながら中央→下り線→上り線の順に3分割で床版取替を行う手法を採用した。また、他現場のような集中工事期間下での施工ではなく、通年施工ができることから週休2日制を適用しての施工も行える予定だ。詳細設計及び施工は三井住友建設・瀧上工業・日本ピーエスJV。(井手迫瑞樹)

床版の損傷状況

3断面分割して施工する/主な工種とその規模

長良川橋橋梁諸元

基本設計と比べて補強部材を約4分の1に減らす 増設桁は400tほど増やす
 プレキャスト床版厚は190mmと薄くし、検査路も軽量化図る

 基本設計と比べて、詳細設計では鋼構造物の補強量を減らしている。基本設計では鋼構造物の補強部材の製作が4,110t、増設桁が791tであったが、これを補強部材は約1,000tに減らし、逆に増設桁は1,200tに増やしている。増設桁は既設桁(G4)の補強をしなくて良くすするため、剛度を調整した。また、プレキャストPC床版の厚さを190mmとし、床版接合部にサスティンクリートを採用することで大幅に死荷重を低減した。概略設計では床版厚を220mmとしており、耐久性を確保しつつ薄くすることで桁の補強を縮減したもの。さらには高欄もRCからアルミ製とし、検査路も上部工がFRP、下部工がアルミとするなど徹底した死荷重低減を行った。
 床版厚を薄くし、付属物の軽量化を図ったのは、基礎の補強が不要となる上部工重量に抑えるためだった。これらの対応をしなかった場合の解析結果では、増設桁を含む床版取替を行った後は、すべての橋脚において、主に橋軸直角方向のせん断耐力が1.5倍程度不足する結果となることが分かった。

基礎工の増杭はほぼ不可能
 高水敷はRC巻立て補強、低水敷は炭素繊維巻立て補強

 当然要補強となるが、河川内での補強となるため非出水期(10月~5月)での施工が必須条件となる。加えて橋脚基礎は補強できない。各橋脚は斜杭が外側に円状に開くように配置されており、その合間を縫って増杭をするのはほぼ不可能であるためだ。こうした斜杭は名神高速道路ではかなり使われているということだ。

 その結果、補強方法は高水敷にあるP1・P2・P7・P8橋脚ではRC巻立て補強、低水敷にあるP3~P5は炭素繊維巻立て補強をそれぞれ選択した。高水敷にある橋脚については桁下への進入および資機材搬入が容易であり、架設工はオープン掘削が可能になることから経済的に優位なRC巻立てを採用した。低水敷にある橋脚については桁下からの資機材搬入が困難であり、締め切り工が必要で作業空間が限られていることから、狭小空間でかつ施工期間の短縮を図ることのできる炭素繊維シートによる補強を行った。補強量はP4、P5が600g目付×7層、P3、P6が同3層巻立てた。河川内にあるため施工後の石などの衝突やサンドブラストから炭素繊維シートを保護するため、ポリマーセメントモルタルで表面保護している。

低水敷の橋脚補強一般図

鋼製止水壁は舟形のような鉄板で打設
 川の流れに沿った整流壁も必要

 低水敷橋脚の施工において、仮締切り形式は河床から突出している既設フーチング天端を利用し、その上に鋼製の止水壁を配置して締め切った。内部の足場はクイックデッキを採用している。鋼製止水壁は舟形のような鉄板で打設していき、断面的にはL型となる。L型にH鋼を立ててその横に鉄板を張る構造となる。さらに川の流れに沿った整流壁も必要になるなど最上級の対応を行った。仮締切りや足場材など重量のある資材などの搬入出は、夜間に車線規制して、クレーンで揚げ降ろしした。炭素繊維など比較的軽量で、かつ人力による運搬が可能なものは吊り足場を経由して搬入している。


施工前の低水敷の橋脚/クイックデッキ

仮締め切り工

施工が完了した低水敷の橋脚補強

 高水敷橋脚の施工は、既設橋脚が上下線一帯の壁式と大きな構造であるため、特に鉄筋組立を考慮した継手位置に検討を要した。具体的には、狭隘な足場内に大きなフープ筋を立て込むのに苦労した。人力でいったん横に入れてRの鉄筋を巻いていかなくてはいけないが、どこかで縦起しをさせないといけないため、その位置を検討している状況だ。

高水敷の橋脚補強一般図(P8)

 また施工においては、河川水位や上流側も含めた降雨量に注意が必要であった。上流側の降雨や下流側の堰により水位が変化するため、降雨情報や河川水位観測所のデータを見計らいながら、臨機応変に施工した。高水敷の施工は今次非出水期からであるが、非出水期であっても高水敷が浸水することがあるため、資材などが流されないように退避の判断に注意が必要となる。

洗堀防止対策工も施している

(左端)止水壁の設置/(左中)仮締切り工/(右中)袋詰め玉石設置工
(右橋)橋脚のフーチング周りを石で保護し、さらに形状を工夫することで洪水時にも水の影響を最小限にするよう施策している

高水敷橋脚補強状況

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