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ワイヤ吊り下げ式ロボット「Rope Stroller」を用いた橋桁や床版裏面変状の点検ロボット

中日本高速道路 イクシスと凸版印刷 「点検ロボットによる橋梁点検業務の高度化・省力化」について実用化目指す

公開日:2021.09.30

 中日本高速道路はイクシスおよび凸版印刷と「点検ロボットによる橋梁点検業務の高度化・省力化」について実用化を進めている。実証試験の結果、床版の裏面からの点検および画像解析を省力化する手段として、有用性が確認できたことから実用化段階へ移行したもの。同技術について取材した。(井手迫瑞樹)

徹底した簡素化と軽量化および確実な撮影を担保
 0.1mm幅以上のひび割れをその画像から検出

 中日本高速道路が、イクシスと実用化を目指しているのはワイヤ吊り下げ式ロボット「Rope Stroller」(右:全景写真)を用いた橋桁や床版裏面変状の点検ロボットだ。Rope Strollerは、橋脚間にステンレスワイヤを架設(最大支間長60m)し、ロボットにワイヤ間を移動させて桁下や床版裏面を撮影させるもの。画角は約120°であり、床版とカメラの離隔は2.5mほどで3m幅の床版裏面が撮影でき、0.1mm幅以上のひび割れをその画像から検出することができる。
 Rope Strollerの特徴は徹底した簡素化と軽量化および確実な撮影を担保していることだ。ワイヤは橋軸方向に2本、橋脚の桁端部の対傾構などにラッシングベルトやレバーブロックを使って水平に張る。そのワイヤにロボットの4本の足がぶら下がる構造だ(右上図および右下写真)。さらに腹の部分にも紐を通しているがこれはロボットの場所調整として用いる。ロボットは軽量化を図るためモーターやセンサを省いている。これは「現場にはオペレーターがおり、位置確認は機械の自動化を行わなくても目視で行える」(イクシス)ためだ。場所調整用のひもには1mごとに目盛りがつけられており、場所調整はワイヤを使ってその目盛り位置にロボットを持っていくことで行える。また軽量化しているためステンレスワイヤの弛みもほとんどない。加えて振動など撮影条件を満たさなければシャッターが下りないシステムにしているため、撮影ミスも確実に防ぐことができる。(右写真:Rope Strollerの操作画面)また、箱桁内の桁や床版の撮影については光量を確保するためLED製のストロボを設置しており、暗所においても確実に画像データを取得できるようにしている。

 取得したひび割れ画像抽出ソフトは、イクシスが独自開発したソフトを用いている。AI(セマンティックセグメーション)を用いたソフトで、橋梁部材の損傷個所を検出し、さらにピクセル単位でひび割れ検出・ひび割れ幅を取得し、サイズごとに色分けして表示することができる。点検を重ねれば経年変化解析もより詳細に行うことができる。


AIによる床版のひび割れ検出例

3つの要件にこだわったAI
 アルゴリズム、正確な教師データ、アノテーション

 イクシスのシステムのもう一つの特徴はこのAIである。同社のAIはアルゴリズム、正確な教師データ、アノテーション(タグ付け)という3つの要件にこだわった。AIは教師データが良いほど進歩するスピードが速い。そのため前述のように自動化にこだわるのでは無く、「撮影画像の質」にこだわった。また、アノテーション(右上写真)は蜘蛛の巣や落書き、藻などひび割れと誤解しやすいものをデータとしてAIに教えることで、ひび割れとして抽出しないようにするもの。同社は他のベンチャーと違い、こうしたシステムをすべて自社内で開発している。さらに開発者には土木の経験豊富な専門家を雇用し、彼らにシステム開発を担わせることによって、ノイズを除去したより精度の高いAI解析を実用化している。中日本高速道路と開発する前にも国交省や東日本高速道路と、別個の点検ロボットや解析AIを開発し、実装しており、それを中日本高速道路と実用化を図るシステムにも援用している。
 さらに凸版印刷のフォトグラメトリー技術(大量の様々な方向から撮影した画像を用いて3D化する技術)を活用して2D画像データを3D化し、ひび割れ画像を3D画像内に落とし込む技術も実用化している。データはCADと同期しており、2Dおよび3D的な位置を一つ一つ特定し、定期点検を重ねることで、経年劣化も把握できる。

橋梁上部工3D点群データ

3D点群へのAI解析結果画像重畳

 画像作成は1径間(30~40m)で、画像解析開始から出力まで2~3時間程度で完了できる。さらにひび割れ抽出は1日程度で解析データを出力し、提出することが可能だ。
 中日本高速道路はスクリーニングだけでなく、近接目視同様の詳細点検技術として活用することを考えている。ここでシリアスな部位の損傷が見つかった場合は、改めて打音検査などを施していく考えだ。

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