縦締めPCケーブルを通すためのシースの位置合わせを慎重に施工
PCケーブルと同じ直径を模擬した3~4mの長さの塩ビパイプをシースに通す
プレキャストPC床版の架設は、午前8~10時の約2時間強で前日撤去した部分に施工する。架設パネルは標準版で2,350mm×11,150mm。重量は標準版で18.3tとなっており、壁高欄がある分既設パネルより重くなっている。床版厚は標準版が210mmで、定着突起部は、210mmに突起部のみ200mmを加えた厚さとなっている。
床版の架設状況
プレキャストPC床版架設に際して注意を払わねばいけないのは、縦締めPCケーブル(φ21.8mm)を通すためのシースの位置合わせだ。PCケーブルが全体に配置されねば縦締めを設計通り行うことはできない。その通りを事前確認するため、プレキャストPC床版を架設するたびにPCケーブルと同じ直径を模擬した3~4mの長さの塩ビパイプをシースに通し、隣接する床版間に通ることを確認して、次の床版を架設することを繰り返した。
シースの位置合わせに注意が必要(井手迫瑞樹撮影)
新設パネル換算で63枚を11日で施工
現場の施工性・耐久性及び経済性に配慮した床版設計を実施
今回取材した上り線の既設床版撤去・プレキャストPC床版架設は新設パネル換算で63枚を11日で施工した。新設パネルの総重量は1145.3tに達した。
スタッドジベルの溶植
目地モルタルの打設(「Denka スプリードGV TYPE-P」を採用した)
プレキャストPC床版パネルの架設完了後は、目地部のモルタル打設(61箇所)、縦締め緊張およびグラウトを行う。縦締め緊張に用いるPCケーブルの数は定着突起版付近(主に橋脚支点付近たすき掛け部)で26本、標準版でも13本配置している。
PC継手の設計においては、目地部からの漏水が耐久性に大きく影響することから目地部における導入プレストレス量が重要である。このため、様々なケースで検討した結果、耐久性と経済性の観点から、ある程度の引張応力を許容する設計とした。こうした設計段階の取り組みから結果的にPCケーブルの量を減らすことができ、耐久性と経済性に関して合理的な設計に取り組むことができた。
また、目地部の耐久性向上を目的とし充填材には収縮率が少ないポリマーセメントモルタル「Denka スプリードGV TYPE-P」を採用した。その後、スタッドを溶植し、版下モルタルとジベル孔のコンクリート打設により桁と床版を一体化した(右上写真)。
主ケーブルの緊張及びPCグラウト
端部にはプレキャストRC底版を配置した上で、さらに延長床版を架設
延長床版部のみコッター継手構造
さて、次に端部である。端部にはプレキャストRC底版を配置した上で、さらに延長床版の架設を行う。底版、床版とも幅員方向を5分割(幅員方向に約2.1m程度ずつ)し、延長方向には4mほどの長さの形状とした。底版と延長床版の目地位置は異なる位置になるよう配置することで荷重分散し耐久性を高めている。また、延長床版パネル左右の連結部は継手構造とし、コッター継手を配置した。当初は延長床版部も含めた縦締めも考えたが、橋台パラペットの改良や底版の配置などを考慮すると、延長床版の架設まで3週間程度の時間を要する(特にA1部は鋼桁上の床版撤去・配置に使う160tクレーンを退出させてからしか延長床版施工のための準備工に入れない)ため、工期時間の短縮を図るべく、延長床版部のみコッター継手構造にした。縦目地部分は継手構造ながら20mmと狭く、施工性だけでなく、長期耐久性にも優れている。延長床版と鋼桁上の床版との遊間直上を含む連結部950mmはRC継手とし現場打ちにより施工した。
踏掛版撤去状況(左写真)/延長床版を設置予定の端部掘削(中、右写真、井手迫瑞樹撮影)
底版を打設して延長床版を架設
延長床版の設置状況
伸縮装置の据付け
場所打ち床版部のコンクリート打設状況
壁高欄の現場打ち施工
延長床版完了後は、床版全面に高性能床版防水工(HQハイブレンAU工法)を施工し、次いで基層及び表層を施工した。延長床版部も合わせた施工面積は1,573㎡で、防水工から舗装まで8日間の工程を費やしている。
床版全面に高性能床版防水工(HQハイブレンAU工法)を施工
防水工から舗装まで8日間の工程
作業用足場はスパイダーパネルを採用
秋までは塗膜剥離剤で塗膜除去、来春に素地調整及び塗替え
防食
プレキャストPC床版に用いる鉄筋は全て安治川鉄工製のエポキシ樹脂塗装鉄筋、PCケーブルは全て被覆タイプを使用し、防食性能の向上に努めている。
床版取替以外では上下り線ともに4,040㎡ずつ鋼桁の塗替塗装を行う。既に供用時から2回、3種ケレンによる塗替えがなされており、膜厚は最大で500~600μmに達している。また、鉛など有害物質を含む塗膜であることが確認されていることから、塗膜剥離剤を使用した塗膜除去を行い、その上で再利用できる研掃材によるブラストを施して素地調整を行い塗替える。但し、冬を迎えるまでに一種ケレンを施し、塗膜の塗替えを完了させることが難しいため、次善の策として、この秋までは塗膜剥離剤で塗膜除去を行うまでにとどめ、来春に素地調整及び塗替えを行う方針だ。なお、塗膜剥離剤は大伸化学製の『ペリカンリムーバーアクアDX』を採用している。平滑部は2回、添接部や隅角部は3回程度の塗布・掻き落としで全厚が除去できるとみなしている。
加えて、上下り線合わせて60個所の支承も交換する予定だ。
塗膜剥離工の施工状況
作業用足場はタカミヤのスパイダーパネルを採用した。現場は桁下クリアランスが最低で2.5mと低いが、足場の設置はスムースに行えたようだ。
足場はスパイダーパネルを採用した
元請は日本ピーエス・昭和コンクリート工業JV(詳細設計も同JV)。一次下請は、喜多重機興業(クレーン)、コンクリートコーリング(カッター)、辻広組(防水・舗装)、信栄工業(PC工事)、エブリ(塗装)。