NEXCO中日本金沢支社では北陸自動車道の金津IC~加賀IC間に架かる橘高架橋の床版取替工事を進めている。同橋は橋長151.8m(有効幅員10m)の鋼連続非合成鈑桁橋(床版取替後は鋼連続合成鈑桁橋)で、今回取材した上り線が2+3径間連続、今秋に施工する下り線が3+3径間連続となっている。既設RC床版の取替の他塗替塗装、支承取替などを行う。本橋は曲線橋であり横断勾配は最大5%、さらにR=600mに対応するため、プレキャストPC床版の形状を工夫している。その現場を取材した。(井手迫瑞樹)
凍結防止剤の累計散布量は1,142t/km
床版防水層は未施工の状態
同橋は1973年に供用され、48年が経過している。凍結防止剤の累計散布量は1,142t/kmに達する。塩化物イオン量の鉄筋近傍値は2.59kg/㎥と腐食限界値をはるかに超えていた。既設RC床版の厚さは標準で210mm。但し2015年に部分的に補修を行っている。その内容は、床版上面を40mm削り、SFRCを60mm打設したもの。増えた20mmは80mmの舗装厚を60mmに薄くして対応した。但し、床版防水工は同補修時にも施工しておらず、防水層は未施工の状態であった。過年度に点検した結果、床版下面にひび割れが生じており、漏水箇所も散見されている。鋼桁も下フランジ付近に塗膜劣化が生じていた。そのため床版取替に至った。床版取替面積は上り線が1762.6㎡、下り線が1770.4㎡。取替パネル数は上り線63枚、下り線65枚に達する。
着手前の橘高架橋(左:金津方面から、右:加賀方面から)。曲線状況がわかる(NEXCO中日本提供、以下注釈なきは同)
床版裏面の損傷状況写真
塗膜の劣化および下フランジの損傷状況
長方形の標準版と台形版を併用
平面の通りを優先して位置決め
まずプレキャストPC床版製作であるが、長方形の標準版(長さ2,350mm)と台形版(長さ1,848~2350mm)を併用している。これはR=600mに対応するためだが、実際に配置される標準版は全体の6~7割程度で、「多くの床版寸法が微妙に変わる」(日本ピーエス・昭和コンクリート工業JV)。そのため、「現地測量を入念に行い、細心の注意を払いながら床版を製作した」(同)。さらに床版製作後は工場でそのまま壁高欄まで打設して、現場に運搬するが、その壁高欄製作に当たっては、1枚ずつ現場における縦横断勾配を工場内に再現して壁高欄を打設している。それでも計画高さについては、クレーンなどを載荷して微妙に動く現場におけるキャンバーの変化は読めない。本現場は継手方法が縦締めPCケーブル(スープロストランド)によるPC継手を採用していることから、平面の通りを優先して位置決めし、計画高さについてはクレーン荷重除荷後に高さ調整ボルトを用いて調整している。
線形図(上:上り線、下:下り線)。Rと横断勾配がよくわかる
舗装切削はTSファイン・ミリング工法を採用
切断を1径間程度進めた後、1日4~6枚ずつ、撤去・架設
今回施工した上り線はA2→A1、今秋に施工する下り線はA1→A2方向に撤去・架設していく。クレーンは160tオールテレーンクレーンを採用した。交通規制完了後、まず両側のガードレール(本現場は壁高欄ではない)を切断・撤去する。さらに撤去時の床版重量を減らすため、既設舗装を切削するが、施工箇所付近に民家が点在するため、施工時の騒音を減らすべく、切削時の騒音を従来工法に比べて15dB低減できるTSファイン・ミリング工法を採用して施工した。舗装切削はアスファルト舗装だけでなく、SFRC化している基層も切削する必要があるため、舗装切削には2日を要した。次いで橋面全体のカットラインの測量を2日かけて行い、カッター班が現場に入って、切断を1径間程度進めた後、床版の架設撤去を行う班が入り、1日4~6枚ずつ、撤去・架設を行っていった。交通規制が始まって床版の撤去・架設を行うまで1週間程度の時間を要した。
PC床版架設図/クレーンは160tクレーンを採用した(井手迫瑞樹撮影)
既設舗装の切削状況(TSファインミリング工法を採用している)
床版部のカッター切断/地覆部のワイヤーソー切断
床版のコア削孔状況
床版撤去・架設用のクレーン組立
鋼桁直上のハンチ部は、標準でも250mm、300mmを超える厚さに達している箇所も
撤去パネルの総枚数は140枚、総重量は約1,142.3t
撤去する床版パネルのサイズは、架設する床版パネルに合わせて、橋軸方向に2,350mm、橋軸直角方向は既設床版総幅員のちょうど半分となる5,825mm付近で切断し、160tクレーンで吊り上げ撤去していく(右図はプレキャストPC床版取替図)。切断作業は横断ラインを先行し、架設クレーンの位置に合わせて縦断ラインも切断した。縦断のラインとなる中央部は210mmと薄く、直下に何もないため難なく切断できるが、横断部の鋼桁直上のハンチ部は、横断勾配が大きいことから標準でも250mmあり、300mmを超える厚さに達しているところもある。こうした箇所では、通常2回に分けて施工する切断をさらにもう一回切断のためのカッターを入れて、深く刃が入れられるよう工夫した。ただし、桁を傷つけないために一番低い箇所でも20~30mmコンクリートが残るよう確認しながら施工した。勾配が高い箇所では80mm程度残った箇所もあったというが、そうした箇所ではセンターホールジャッキ(本現場では50tセンターホールジャッキを4台使用した)で引き剥がそうとしてもどうしてもハンチの箇所にある鉄筋が残ってしまう。そのため、ジャッキで上げながら下からガス切断して撤去することも行った。
撤去パネルの1枚当たりの重量は約8.8t、140枚を撤去するが、その総重量は約1,142.3tに達する。既設床版の剥離撤去は13時から開始し、16時ごろに完了する。並行して15時ごろから鋼桁上に残ったガラの撤去や鉄筋の除去及び上フランジ上面のケレンおよび防錆処理を行っていく。センターホールジャッキで剥がした後、桁上は20mmから最大80mmのコンクリートが残っているため、その部分はチッパーやジェットタガネではつり取り、次いで鉄筋をガス切断し、表面をディスクサンダーでケレンして、防錆処理を施し、さらに新設プレキャストPC床版配置のための墨出しを20時ぐらいまで作業していた。鉄筋はところどころひげ筋のようなものは出ているものの、ハンチ筋のスパンはそれほど過密ではなく、合成桁のジベル筋のような太さもないため、切断にはそれほどの手間を要すことはなかった。
既設床版の剥離作業(井手迫瑞樹撮影)
床版の撤去作業状況(上3枚は井手迫瑞樹撮影)
鋼桁のケレン/上フランジへのジンク塗布