ひび割れ幅0.2mm以下、1.0~5.0mmにも対応
圧力調整注入技術研究会・栄組 圧力調整注入工法「SAPIS」の現場見学会を開催
圧力調整注入技術研究会(佐々木孝彦会長・栄組)と栄組は5月19日、千葉県睦沢町が所管する森長橋(橋長30m、1978年建設)で、圧力調整注入工法「SAPIS(サピス)」によるコンクリートひび割れ補修の現場見学会を開催した。当日は、近隣自治体の職員、施工業者など約35人が参加した。
有機系から無機系まで多様な補修材料を注入可能
注入機は繰り返し使用で産業廃棄物を大幅減少
「SAPIS」は、低圧から高圧まで注入圧力を自由に調整することにより、有機系(樹脂系)から無機系(セメント系)、含浸系など材料を選ばず、補修対象箇所にあわせた最適な材料をひび割れの深部から表面部まで的確に注入することを可能にした工法だ。注入材料により、ひび割れ幅0.2mm以下、および1.0~5.0mmにも対応可能で、深さ2,300mmまで注入実績がある。そのため、ひび割れ被覆工法や充填工法の代替工法としても適用可能となっている。
また、同じ注入口から複数の材料を連続して注入することが可能であること、注入機を繰り返し使用できるため廃棄物の発生が少ないことも特徴である。施工量は1班3人で30~40m/日が標準となっている。床版ひび割れへのエポキシ注入では、延長500mを2班6人で2.5日で完了させた実績もあるという(なお、同現場では注入以外に、ひび割れシール工にのべ13人で1日、仕上工にのべ6人で1日を要している)。
注入機と圧力調整注入工法の概要
自動式低圧注入工法との廃棄物の比較
幅が下部0.3mm、上部0.5~0.8mmの鉛直方向ひび割れを補修
真空吸着型注入機を用いて片押しで施工
現場見学会では、森長橋の橋台と同橋側道橋の橋台で同工法によるひび割れ補修を行った。施工時の説明は栄組の佐々木栄洋代表取締役が担当した。
森長橋
森長橋の橋台のひび割れは、幅は下部が0.3mm、上部が0.5~0.8mm、橋台下部から上部まで鉛直方向に延長2.6mとなっていた(なお、側道橋橋台のひび割れは、幅が0.2mm以下の平均0.15mm、橋軸直角方向に約2.5mだった)。
森長橋橋台の鉛直方向ひび割れ。左写真が下部、右写真が上部(大柴功治撮影。以下、同)
ひび割れには補修痕があり、「おそらく無機系の材料を低圧注入工法で注入したことが推察される」(佐々木栄洋氏)が、補修したにもかかわらず、ひび割れが発生して再劣化していた。「表面は開いているが、内部が詰まっているようなひび割れは、奥に材料を注入することが難しい」(同)という。
施工には、コンクリートを削孔する必要がなく表面から注入できる真空吸着型の注入機を用いた。シール材はどのような材料でも使用可能だが、今回は無機系の急結セメントを使用。同材料は、ハケのみできれいに仕上げることができるので、制約の多い箇所や施工時間が限られている場合には効果的である。
真空吸着型注入機
同橋側道橋での施工。急結セメントのシール材はハケのみできれいに仕上げることができる
注入口は30cm間隔で設置(同工法の基準では20~100cm間隔としている)し、下部から上部に向かって注入機を移動させながら片押しで注入していった。鉛直方向の場合、材料が下に流れていくため、下から積み上げる形で注入したほうが充填率が高くなるためだ。
片押しでひとつの注入口から施工することにより、内部にある空気だまりなどの注入を妨げる箇所をほぼなくす状態にできるとともに、確実に注入されたかを注入口ごとに確認できる利点がある。
注入材はポリマーセメント(アーマ#600P)で、ドライアウト防止のためのひび割れ内部湿潤化と同時に周辺コンクリートの緻密化促進が可能な改質剤(リバコン・リキッド)を先行注入した。
注入状況に応じて圧力を調整
コンクリート表面に注入材が流れ出てきたら注入完了
注入では開始時に圧力を上げることにより、その圧力で材料がひび割れ内部に流れていき、徐々に圧力が下がれば流れなくなるので加圧することを繰り返す。流れにくいボトルネックのような箇所では、圧力を高めることで対応する。その判断は、注入機に接続されたポンプを押している作業員が、注入圧力計を見ながら行っている。圧力は低圧注入工法の0.4MPaをひとつの目安としており、材料が流れていないと判断できれば中圧域の1MPaを目標に圧力を変化させながら、流れ方を確認していくことになる。なお、同工法の最大圧力は5MPaだ。
シール材を塗布していない表面に注入材が流れ出てきたら注入完了となる。現場では注入口の下側だけではなく、上側にも注入材が流れて出ていた箇所があった。注入状況によっては、すべての注入口から行うのではなく、1箇所飛ばして施工することもあるという。施工は10分程度で完了した。
下部から上部へ向けて片押しで注入していく。注入材が表面に流れ出てきたら注入完了
注入圧力は作業員が注入圧力計を確認しながら管理する
現場見学会では、別のひび割れに対してエポキシ樹脂材料の注入も予定されていたが、雨天のため、施工ができなかった。エポキシ樹脂の場合は、表面に座金を設置して注入を行う。粘度が低いことによる注入材のやせと流れ出る材料による施工面の汚れを防止するためだ。また、エポキシ樹脂が硬化するまで座金には円錐形のゴム栓を挿し込んでいる。
エポキシ樹脂材料の注入例と注入機。注入機を持っているのは、栄組の佐々木栄洋代表取締役
施工実績は31都道府県で375件
同工法について、佐々木栄洋氏は「装置を見ると高圧注入だと思われる方が多いが、現場では低圧の領域で終わることのほうが多い。高い圧力をかける注入工法ではなく、ひび割れの中に材料を確実に充填させることが目的で、それに適した圧力で注入することが重要。そのため、圧力調整注入工法という名称にしている」と説明を行った。
睦沢町の最初の長寿命化修繕計画に携わった日本大学の阿部忠名誉教授も見学会に参加し、「床版の水平ひび割れ補修では、空気溜まりになかなか接着剤が入っていかない。疲労試験とともに、注入の確認も行っているので、圧力調整注入工法でどこまで注入されるか興味がある。ひび割れ幅や深さに合わせて低圧から高圧で調整しながら接着剤が注入できる。また、従来は注入後、器具や器具内の接着剤の処理が大変であったが、この装置では必要な量のみ注入することから、産業廃棄物が少なく環境にも優しい装置および工法であると高く評価できる」と感想を述べた。
雨天の中、約35人が参加。右写真、中央左寄りが阿部先生
同工法はこれまでに市道柳場三貫線里吐橋補修工事、板谷線板谷橋橋梁修繕工事など、全国31都道府県で375件の施工実績がある。施工品質管理では各県に施工代理店(27都道府県、33社)があり、現場見学会を開催した千葉県は日本ラインサービスとなっている。