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制震・免震的な補強を選択、塗膜除去および素地調整は循環式エコクリーンブラストを採用

NEXCO西日本 中国道千種川橋で耐震補強と塗装塗替えが進捗

公開日:2021.06.07

 西日本高速道路関西支社が大規模更新を進めている中国道千種川橋は、床版の取替などを完了し、上部工の耐震補強および塗装の塗替えを行っている。同橋は1975年10月に供用された橋長上り線210.1m(下り線191.6m)の鋼2径間連続上路式トラス橋+単純合成鈑桁橋であり、供用から45年が経過している。依拠した設計示方書は昭和47年道路橋示方書でありH24道示に基づく耐震性能を照査した結果、①橋軸方向の移動量超過、②上弦材の応力超過、③鉛直材の応力超過、④支承における耐震性能不足が見られたことから、それらに対応するため様々な製品、工法を採用している。一方で、既設塗膜は、鉛が45,000~47,000mg/kg、クロムが1,500~1,700mg/kgあるため、湿式かそれに伴う塗膜処理方法が必要だ。近年剥離剤使用に伴う火災死亡事故やアルコール中毒の疑いによる死亡事故の発生等を考慮し、塗膜除去、素地調整共に循環式エコクリーンブラストを用いている。その現場を取材した。(井手迫瑞樹)

千種川橋上下線

トラス桁の端部となるA1とP2にそれぞれ制震(粘性)ダンパーを設置
 対傾構を座屈拘束ブレースに取替 鋼部材でジャッキ支点周りの補強

 現在の橋梁の耐震的な課題は、もう少し具体的にいうと、①に関してはA1橋台およびP2橋脚が可動支点、P1橋脚が固定支点であり、P1橋脚と重量の大きい上部工からなる1橋脚固定支持構造であるため地震時の端部移動量がかなり大きくなる。その一方で遊間量が最小で200mm程度しかなく移動量を満足しないため、柱に衝突し、破損する危険性がある。②は、橋軸直角方向レベル2地震時にP1橋脚周辺における上弦材において、応力超過が見られた。③は、橋軸直角方向レベル2地震時に支承直上の鉛直材において応力超過が見られた。④は、既設支承がレベル2地震動に対する耐震性能を満足しておらず、トラス桁の慣性力重心位置が高く、とりわけ端部の支承に大きな上揚力が発生する。こうしたNGの部分を補強する必要があった。

 しかし剛な耐震補強を行うと補強量が非常に多くなるため、ゴム支承、座屈拘束ブレース、制震ダンパーを用いて制震・免震的な対策を行うこととした。
 ①については、トラス桁の端部となるA1とP2にそれぞれ制震(粘性)ダンパーを設置する。A1橋台は上下線とも750kN級(BM-S)を2基ずつ設置し、P2橋脚に対しては、上り線に1,500kNを2基、下り線に750kNを2基設置する。上り線P2のみ倍の能力を必要とするは解析の結果遊間の幅が200mm以下になることが予想され、より制震性能を必要とすると判断されたためだ。
 ②については、上弦材の応力超過を無くすため、上弦材箱断面のウェブ外側面に12mm厚の当て板を上下線で4個所ずつ施す。閉断面や狭小部の当て板施工においてはハック高力ワンサイドボルトを用いている。
 ③は、鉛直材の中間部に水平材をトラス桁端部のA1、P2に1基ずつ設置し、有効座屈長を短くすることで応力の低減を図るとともに、対傾構を座屈拘束ブレースに取り換えることで支承上揚力を低減することとした。座屈拘束ブレースは、日鉄エンジニアリングのアンボンドブレースを採用した。対傾構(座屈拘束ブレース)は上りA1、P2に1,750kNタイプを4基ずつ、下りA1、P2に1,450kNタイプを4基ずつ設置する予定だ。
 ④への対応は、耐震性能が確保できていない支承をゴム支承に取り換える。

上り線トラス桁部補強一般図

同下り線一般図

鈑桁部補強一般図

 ダンパーの設置においては、桁側取付け部は鋼材による補強だけで座屈に対応することが難しいことから、トラスの箱内部に無収縮モルタルを充填した上で取付ける。
 支承取替に必要なジャッキアップ部の補強だが、端支点部においては平成14年度に支承取替を行っている個所(上り線のA1、P2、下り線のP2)があり、それを参考にして補強工を施工した。具体的には鋼部材でジャッキ支点周りの補強を行う。座屈を防止するため、必要な個所にはコンクリートを充填する。ただ、事前に設置する場所も過去の工事で落橋防止装置を取り付けるために補強材を撤去しているところもある。今回支承取替を施工するに当たり、撤去で不足した補強材は追加で施工する。仮受け箇所には基本軸力のみ作用する構造であるため、仮受け箇所から1格点間の下弦材全体を補強しないと支承交換はできない。

ジャッキアップ部の補強状況

当て板補強状況

 現場は落橋防止装置が付いているなど、支点部周りには色々な部材があるので、それは難しく、基本的には鋼部材による補強を行うしかなかった。補強部材は支承取替後も将来的な維持管理を考慮して残置する。補強の詳細設計や施工計画は耐震補強の一次下請けであるショーボンド建設の協力を得て行った。
 中間支点(P1)は支承取替の補修履歴はなく、ジャッキアップ補強材は設置されていないため、ガセットを拡大するような当て板を格点部に設置して補強を行った。必要補強量はFEM解析を用いて算出して設計を行った。また、鈑桁部(P2-A2)については4主桁の両外桁(G1、G4)の両側端部(P2,A2)に緩衝チェーンを配置し、内桁(G2、G3)の両端部にはせん断ストッパーを配置し、落橋防止機能と水平力分担構造を新たに設ける構造とした。
 耐震補強はまず、ボルト取替、当て板補強、部材取替のコア削孔を完了し、支承や補強部材の製作を行い、車線規制を実施して本線上から部材搬入して補強を施していく。下部工においては部材取付箇所にコンクリートの損傷が見られたため、事前に断面修復を行った。

耐震補強にかかわる全ての材料は本線上から搬入
 上り線支承取替 全ての支承線(支承取替箇所)にジャッキを設置

 耐震補強はまず支承の交換から始める。交換に際しては、まず既存の段差防止構造を撤去し、新設支承用のアンカー孔を削孔する。次いでジャッキアップのための補強を施した後に300t(端支点)および500t(中間支点)ジャッキを全ての支承線に配置(理由は後述)してジャッキアップし、既設支承のアンカーボルトを切断して既設支承とソールプレートを撤去する。既設撤去を全撤去した後、WJで支承底面をはつり、撤去によって生じたスペースに沓座補強筋を組み、新設支承と鋼製架台をセットする。横断および縦断勾配に留意しながら微調整を行った後、主構にボルト締めする。エポキシ樹脂が充填されたアンカー孔にアンカーボルトを差し込み、支承の据付を完了する。据付完了後に無収縮モルタルを打設・養生して、モルタル強度を確認後にジャッキダウンを行い、支承取替を完了する。
 補強用当て板、支承、ブレース材など耐震補強にかかわる全ての材料は、前述したように本線上からの搬入に拠らねばならない。桁下クリアランスは30mと高く、現場進入路が狭く特殊車両の搬入が困難なため、一般的な高所作業車や25tラフタークレーン以下の進入しかできず桁下からの搬入は不可能なためだ。
 上り線の支承取替は2021年の正月明けからジャッキアップ補強を実施し、千種川橋の床版取替に伴う復旧作業による追越車線の規制期間を利用して、まずG2桁(追越車線)側のP2、A1、P1の順に1基ずつ取替える作業を行った。GW明けからは走行車線側を規制してG1桁(走行車線)側で同様の作業を行っている。


上り線A1のG2桁の支承取替状況

 上り線支承取替の特徴は、他工事との競合により、車線規制を自由にできないことから、支承線ごとの取替ではなく、全ての支承線(支承取替箇所)にジャッキを設置し、G2桁(追越車線)側を先行して取替えし、その後G1桁(走行車線)側の取替えを行っており、橋軸方向ごとの支承を1基ずつ取替えることを強いられた。
また、当て板補強は上下線とも上り線の支承取替と並行して施工している。

上り線A1のG1桁部への支承設置状況
 
上り線P2のG1桁部への支承設置状況

 

 一方下り線は、規制協議の結果、規制が比較的自由に取れるため、支承線(P2→A1→P1)ごとに支承を取替えることができる。そのためジャッキはA1とP2(いずれも300tジャッキを4基使用)で使いまわすことができ、作業も効率的に施工することができる見込みだ。
 それらが終わったのちに、既設対傾構の撤去および座屈拘束ブレース、水平材を設置し、耐震補強を完了させる予定だ。

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