首都高速道路は、1号羽田線と11号台場線の分合流区間である浜崎橋JCT~芝浦JCT間にある11号台場線の橋梁のロッキング橋脚に対する耐震補強工事を実施している。同工事では、ロッキング橋脚の転倒防止対策以外に、日本初となる落橋防止機能付き流動抵抗型粘性ダンパーとダイス・ロッド式摩擦ダンパーの設置や支承交換などを行っている。狭隘な現場に加え、高架下の街路ではインフラ関係の工事が輻輳しているため規制調整に苦労しながら進められている本工事を取材した。
ロッキング橋脚は19柱
ダンパー設置で変位と上揚力を抑制
浜崎橋JCT~芝浦JCT間の対象橋梁は、1993年に供用された橋長442mの鋼3径間連続鋼床版I桁橋×3連+鋼2径間連続鋼床版箱桁橋×2連だ。幅員は約33m だが、これは1号羽田線を挟む形で11号台場線の上下線があり、1号羽田線を含んだものである。設計示方書は昭和55年道示を適用している。下部工は、鋼門型ラーメン橋脚12基+鋼ラケット型ラーメン橋脚1基で、鋼門型ラーメン橋脚の橋軸直角方向外側にロッキング橋脚が19柱ある。基礎工はすべて杭基礎となっている。阪神・淡路大震災後の1998年には、鋼製橋脚で部分的なコンクリート充填と縦リブ増設の耐震補強を実施した。
施工対象橋梁 一般図(首都高速道路提供。注釈なき場合は以下、同) ※拡大してご覧ください。
本現場でのロッキング橋脚の耐震補強は、幅員の限られる歩道のなかに橋脚があることに加えて単柱となっているため、通常行われる巻立てや壁化、柱間のブレース設置といった対策が困難だった。
そこで、「動的解析を行って橋梁の挙動を検討し、橋梁の変位を抑えてロッキング橋脚のピボット支承に負荷をかけない補強方針を策定」(首都高速道路)した。具体的には、①ピボッド支承の許容回転角を超える箇所が確認されたため、上部工の変位を抑制するために可動支承部に流動抵抗型粘性ダンパーを設置、②直角方向加振時にピボッド支承に過度な上揚力が発生するため、固定支承部にダイス・ロッド式摩擦ダンパーを設置、③上記対策でもピボッド支承が損傷した場合に備え、ロッキング橋脚の変位を拘束する転倒防止装置を設置――という方針のもとに工事を行うこととした。
各橋脚の対策 ※拡大してご覧ください
落橋防止機能付きダンパー(ACO-DP)を採用
PC鋼棒抵抗タイプ10基、直接抵抗タイプ11基の合計21基を設置
①の粘性ダンパーについては、狭隘な現場で設置スペースが限られ、粘性ダンパーと落橋防止装置を個別に設置すると鋼製橋脚の横梁内部の補強量が多くなり、点検スペースも確保できなくなることから、落橋防止機能付きダンパー(ACO-DP)を設置することとした。
首都高速道路・横河ブリッジ・オックスジャッキ共同特許製品であるACO-DPは、粘性ダンパー「パワーダンパー」(横河ブリッジ・オックスジャッキ共同開発製品)に、上下だけでなく横方向に可動可能で設計方向以外の桁挙動に対応するダンパー用クレビス(取付金具)「ユニバーサルクレビス(U-CLV)」(首都高速道路・横河ブリッジ・オックスジャッキ共同開発製品)を適用したもの。これにより、制震デバイスとしての機能に落橋防止構造としての機能を付加させた。
ユニバーサルクレビス概要図
落橋防止構造としての水平力に対しては、ダンパー外部に増設した落橋防止用部材(PC鋼棒)で抵抗するタイプと、本体がストロークエンドの状態で直接抵抗するタイプの2種類がある。
ACO-DP(PC鋼棒抵抗タイプ)と構造図
ACO-DP(直接抵抗タイプ)と構造図
「落橋防止構造とダンパーというエネルギーを減衰させるものを一緒にするのは相応しくないという考えもあった」(同)ため、同ダンパーは日本初となるもので、採用も本現場が日本で初めてとなった(編集部注:都心環状線・浜崎橋付近と赤羽橋付近のロッキング橋脚耐震補強工事でも採用されているが、工期上、本工事が最初となる)。首都高速道路は前述の現場条件での採用となったが、「落橋防止装置と制震ダンパーを個別に設置すると補強構造が複雑になる。また、一体施工もできる」と同ダンパーの特徴をあげる。
本工事では、PC鋼棒抵抗タイプ10基、直接抵抗タイプ11基の合計21基を橋軸方向に設置。動的解析時に設定したダンパー抵抗力よりも、落橋防止装置の設計水平力が大きくなる場合は落橋防止装置として機能するPC鋼棒抵抗タイプを採用している。ダンパー抵抗力が最大なのは、芝浦JCT側の台-44橋脚に設置したもので、外径457.2mm×全長3,234mm、抵抗力2,000kN、ストローク±250mmである。それ以外のダンパーは、抵抗力200kN~2,000kN、ストローク±100mm~300mmとなっている。
ダイス・ロッド式摩擦ダンパー(DRF-DP)を橋軸直角方向に設置
設置後の上揚力は約3割減少
動的解析で過度な上揚力が生じた上り線側の橋脚(台-37・台-41)には、ダイス・ロッド式摩擦ダンパー(DRF-DP)を固定支承部に橋軸直角方向に設置した。同ダンパーは、首都高速道路と青木あすなろ建設が共同で開発したもので、金属製の外筒に取り付けられたロッド(芯棒)と内筒に取り付けられたダイス(環)で構成されている。外筒内のロッドにそのロッド径よりも少し細い内径のダイスをはめ込むことで生じる締付け力を利用したダンパーだ。大地震時には、ダイスがロッド上を摺り移動する際に摩擦力が発生し、振動エネルギーを摩擦熱に変換して吸収することで、地震時の上部工の揺れを抑え上揚力を減衰させる。
ダイス・ロッド式摩擦ダンパー(DRF-DP)と構造図
DRF-DPの仕組み
所定の荷重未満では変位せず(固定)、所定の荷重に達すると一定の摩擦力を維持して変位する仕組みであることから、「橋軸直角方向にL1地震時は固定、L2地震時にダンパー機能が発揮するようにゴム支承と併用したかったため」(同)、本ダンパーを採用したという。さらに、「下部工の耐力が小さい場合、上部工を動かせば、下部工に伝わる水平力を低減できる(橋脚基部の損傷が低減)。大地震時にヒューズのような役割を期待している。ロッキング橋脚の補強ではまだ困っている管理者がいると思うので、そのようなところへの提案になればいい」(同)と、日本初採用となった本ダンパーへの期待を寄せた。鋼材ダンパーとは違い、多数回の地震に繰返し使用できることも特徴だ。
本工事では、摩擦荷重650kN、最大ストローク±200mmのものを2基、同1,000kN、同±150mmのものを4基設置した。ダンパー設置前の上揚力は台-37橋脚で2,351kN、台-41橋脚で2,114kNであったのに対し、設置後には台-37橋脚が1,576kN、台-41橋脚が1,423kNとなり、約3割減少させることができた。
DRF-DP設置前後の上揚力の変化