国土交通省近畿地方整備局は、奈良市が所管する鶴舞橋(1960年供用、97m、単純PCプレテン床版×11連)において直轄診断を実施している。同橋は近鉄奈良線学園前駅と同けいはんな線学研奈良登美ヶ丘駅を結ぶ市道登美ヶ丘中町線上に位置しており、第2次緊急輸送道路指定されている道路で、1日約1,000台のバスが通る重要路線であり、さらに1日当たりの交通量は平成27年度センサスで1万7千台を超える事から、市民の生活を支える重要な路線である。ただし、奈良市が建設した橋ではない。近畿日本鉄道が一帯を宅地開発した際に、建設した橋であり、それを奈良市が譲受したという経緯がある。そのため「どのような示方書に基づいて建設したかもわからず、さらにはその後の補修補強工事など、竣工図書や補修補強工事の図面や履歴がほとんど残っていない状況」(近畿道路メンテナンスセンター)だ。そうした理由から、補修・補強の要否判定や補修・補強が必要となった場合の補修設計や施工計画の立案には高度な技術力が必要であり、奈良市へ技術的助言を行うための直轄診断を実施するものだ。
鶴舞橋の側面図及び位置図
鶴舞橋
独特な下部工 下段の柱を施工後、梁を一旦構築し、上段の柱を製作
上部工 漏水により、床版の損傷や鋼板接着の鋼板剥がれなどが発生
同橋はまず、下部工が独特だ。パイルベントのような橋脚の中間部に横梁のような構造がある。通常ならば、後から耐震性を上げるために設置した梁とみなすであろう。しかし、写真を見ると、柱の下段と上段との通りがおかしい、下段が若干斜めに歪んでいる。そう、これは橋脚施工時からの構造と思われる。すなわち下段の柱を施工後、梁を一旦構築し、さらに上段の柱を製作した。竣工当時から柱が歪んでいるようだ。また、フーチングの深さや規模、鉄筋の有無も調査する必要がある。加えて耐震性能を有しているかどうか抜本的に確認することも必要だ。
ただし、下部工の耐震補強が必要となっても桁下ヤードは狭く、家屋や店舗が隣接しており、さらには空頭も極めて低く、構造変更は死荷重の大幅増につながるため、基礎耐力の詳細なチェックは不可欠といえる。もう一つあと施工されたと考えられる地中梁の調査も重要だ。
下部工の形状
さらに上部工も独特である。同橋の両脇には歩道橋があるが、実は、同橋そのものにもともと歩道部があった。それを車道部狭小のための拡幅の際に、歩道部を下面から鋼板接着して補強し、縦目地を車道用に交換した上で車道として供用したようだ。幅員構成は、北行き車線が車道3,250mm、路肩1,000mm、縦目地位置は地覆内から1,200mm、南行き車線が車道3,240mm、路肩900mm、縦目地位置は地覆内から1,200mmとなっている。ちょうどバスやトラックの輪荷重が載荷される付近といえる。また、単純PCプレテン床版×11連という構造であるが、ジョイントが路面上から見えず、舗装で埋設された状態になっている。おそらく遊間が狭いため、「遊間部は詰め物をした程度」(近畿道路メンテナンスセンター)なのであろうが、その代償として、すべての径間でジョイント部舗装にひび割れが生じている。これらの継ぎ目部から生じた漏水により、床版の損傷や鋼板接着の鋼板剥がれなどが生じており、橋梁全体の耐荷力に確実に悪影響を与えている。さらには床版防水の記録がなく、舗装をはがしたうえでの調査も行っていないため、床版上面の土砂化が起きている可能性もある。
縦目地
ジョイント部直上と思われるひび割れ
床版キャッチャーやSingle i工法など様々な点検方法を駆使
レーザー測量による点群データの取得で復元設計することも検討課題
こうした状況から、下面補強鋼板の打音及び板厚測定(局所調査)、下部横梁及び地中梁のシュミットハンマー(局所調査)、下部横梁及び地中梁の鉄筋探査(局所調査)、レーダーによる床版性状調査(路面上から、床版キャッチャー)、下面補強鋼板の付着確認及び床板部のひび割れ確認(局所調査、Single i工法)、中性化試験(局所調査)などを行った。その結果、前述したとおり鋼板接着部では鋼板の浮きや剥離が見つけられた。また、継ぎ目からの漏水は確実にあることがわかり、それが床版端部や、桁下の支承などに損傷を与えていることも確認できた。さらにSingle i工法では、床版内部に水平方向のひび割れが生じていることが分かった一方、ジャンカなどは生じていなかった。また、PC桁の損傷は見受けられなかった。ただし、点検は局所的なものであるため、詳細調査を施せば損傷状況はさらに変わる場合がある。
事前調査の対象と項目および方法
本調査の対象と項目および方法
調査箇所図
Single i工法
床版キャッチャー
一方で、今後の補修補強を行うためには、抜本的なデータ取得が必要であり、ドローンやウェアラブルカメラを用いたレーザー測量による点群データの取得で復元設計することが必要になる可能性があるだろう。また、今後は必要に応じて追加調査を検討しているようだ。現地調査補助を行った日本インシークの角和夫技師長は「今回、直轄診断チームのご指導・ご助言をいただきながら調査計画作成から調査業務までを実施させていただきました。完成後60年経過した『鶴舞橋』を長く使い続けるために、知識・知恵を出し合う直轄診断に参加できて光栄です」と話していた。(井手迫瑞樹)(2021年5月27日9:03分一部修正)