線路閉鎖時間は113分、11回に分けて施工
JR東日本 横浜環状南線 線路9線を跨ぐ約100mの桁を送出し架設
本線桁とランプ桁をそれぞれ2回に分けて組立て
上り線桁上に縦取り後、横取りを行う
下り線桁の架設
下り線桁は、P6~P7間(約60m)と上り線桁上(約89m)に軌条設備(合計約149m)を組立てて架設を行う。P6~P7間は、上り線桁架設で使用したベント3基を用いるが、上り線桁上の軌条と高さを合わせるためにはそれぞれ約7mのかさ上げが必要だ。
施工は、本線桁をP6~P7間の軌条上で2回に分けて組立て、上り線桁上への縦取りと横取りを完了させた後、ランプ桁も同様に2回に分けて組立てを行い、縦取りをして本線桁と接合。上り線桁上から所定位置まで25.9mの横取りをして、桁降下という工程になっている。
下り線桁の架設計画図
当初はP5~P6間にも軌条桁を設置して本線桁、ランプ桁ともに全長での組立てを行う予定だったが、P6~P7間のみで桁半分を組立て縦取り後、残り半分の組立て、縦取りを行うことにした。これにより、P5~P6間のベントおよび軌条桁(約34m)の鋼重約400t分を削減することができた。
P8~P9間の一部は現場環境によりトラベラークレーンで架設
側径間の架設
P6~P7間はクレーン+ベント工法による架設で、2022年度上期ごろに着手する予定だ。
P8~P9間は柏尾川と市道226号を跨いでおり、市道側では国土交通省がランプ部の施工をしていて、施工ヤードが狭く輻輳している現場環境となっている。そのため、P8から渡河部までは国土交通省が河川上に構築した作業構台上にベントを設置してクレーンでの架設を行い、渡河部からP9まではトラベラークレーンでの架設を行っていく。着手は、P6~P7間の同時期を予定している。
施工ステップや各設備の詳細をBIM/CIMで作り込み
安全確保や作業効率向上に役立てる
BIM/CIMの活用
本工事、とくに線路上空の中央径間の架設では、BIM/CIMを活用したことも特徴だ。施工ステップや既設の鉄道施設物との位置関係などを可視化して、安全確保や作業効率向上に役立てている。今回は送出し設備や耐震設備、降下設備など、細かなところまで詳細に作り込むとともに、3次元モデルに時間軸を与えて施工ステップも把握できるようにした。
架設ステップを可視化し、各工程を具体的に把握できるようにした
P7側仮受設備と耐震設備/P8側仮受設備と耐震設備
P7側降下設備。それぞれ詳細な作り込みを行った
これらにより図面では難しい細部まで確認できるようになり、「発注者などの関係者の理解度も早く、詳細な説明や打ち合わせが可能となった。現場作業員との打ち合わせでも、(施工上の課題を)目で確認しながら早く気付けるため、経験のある職長クラスだけでなく、若い作業員も経験不足を補い、議論を深めることができた」(大林組・奥村組・戸田建設JV)という。
前述したように上り線桁の架設では、その桁形状により耐震設備の盛替えが都度必要になったが、その耐震設備の詳細やステップごとの状況、盛替えのタイミングなどが明確になったことが、その一例だ。さらに、列車の運転士目線の3次元モデルも作成して、架設後にどのように見えるのかをシミュレーションして、安全な運行に対する配慮も行った。
運転士目線の3次元モデル
既設構造物との離隔確認では、既設構造物は点群データから3次元データを作成。下り線桁架設時に使用する線路内ベント(B13)は根岸線と根岸貨物線の線路と近接していることから、構築時に架線や電柱との離隔をデータ上で確認して作業員と共有を図るなど、施工時に必要な離隔や干渉確認に役立てた。
点群データ
線路に近接しているB13の構築中と構築後(右写真:大柴功治撮影)
JR東日本では、BIM/CIMの取り組みを「JRE-BIM」と総称して推進しており、土木・建築・電気等一体で調査・計画から維持管理までの一貫した情報のやり取りを行うことによる生産性向上を目指している。2021年度には、新たに調査・設計に着手するプロジェクトに対して「JRE-BIM」の原則全件名適用を予定しており、さらなる活用に向けて取り組んでいる。
活用については、「まずは既設構造物を点群データで幅広く抑えて、その上に新設構造物の3次元モデルを作成して既設構造物との取り合いや営業線や旅客に近接する作業環境下で施工可能な構造、施工計画になっているか等を検討している。調査計画や設計段階では、今回より詳細度の低いモデルを作成することが一般的だが、施工段階では目的に応じた詳細なモデルを作成することに取り組んでいる」としたうえで、「すべての工事で今回のような細かな作り込みをしているわけではないが、取り組みの過渡期でもあり、桁架設という目的があったので、相談をしながら設備関係も細かく作ってもらった」とのことだ。
現場に施工ステップを投影する「DataMesh Director」を試行
本工事では、BIM/CIMデータをMR(Mixed Reality)技術を活用して現実空間に施工ステップを投影できる「DataMesh Director」の試行も行っている。同技術は、TISとDataMeshが大林組に共同で提供したもので、タブレット端末やMR用ゴーグル(Microsoft HoloLens 2)を使用して現場で施工ステップを視覚的に確認できるもの。「BIM/CIMで施工ステップを細かく作り込んだので、MRを採用すればより臨場感がある説明ができ、分かりやすくなると考えて試行を行った」(大林組・奥村組・戸田建設JV)。
DataMesh Director。現場にBIM/CIMデータを投影できる
実際の活用事例では「下り線桁の架設では上り線桁の上に桁を持ってくるので、工程をイメージしにくいが、それが分かりやすくなる。現場作業員の理解も早くなった」(同)といった効果があった。今後、絶対座標で正確に位置が取れるようになれば、既設構造物との取り合いの把握などにも活用していきたいとしている。
元請は、横浜環状南線交差部上部工新設共同企業体(大林組、奥村組、戸田建設)。一次下請けは、宮地エンジニアリング(桁製作、架設工)、二次下請けは、内宮運輸機工(クレーン工)、大瀧ジャッキ(ジャッキ工)、黒崎建設(橋梁とび工)、東京フラッグ(溶接工)、NITTO(塗装工)など。
(取材・文=大柴功治)