首都高速道路は、昨年度末、都心環状線の一ノ橋JCT~浜崎橋JCT間にある浜崎橋付近と赤羽橋付近のロッキングピアに対する耐震補強を完了した。いずれも高速上は交通量が多く、高架下は鉄道や河川が近接するうえに狭小なヤードしかなく、通常の巻き立て補強は実施できないことから、難易度の高い施工となった。その内容について2回に分けてレポートする。(井手迫瑞樹)
ロッキングピア 東海道新幹線を支える2基の橋脚の上にさらに載る形
P3 接道していない箇所での施工を強いられる
浜崎橋付近の当該橋梁は、昭和39年に供用された橋長74mの2径間連続非合成RC床版鈑桁橋(8主桁)である。設計示方書は昭和31年道示を適用している。下部工はP1がSRCラーメン橋脚(杭基礎)、P3橋脚が同橋脚(直接基礎)であり、真ん中のP2がロッキングピア(杭基礎)である。P1-P2とP2-P3間は33m、41mと若干不等径間になっている。平成9年にP1、P3共に鋼板巻き立てを施し、上部工は平成17年に変位制限装置と落橋防止装置を設置済みだ。
浜崎橋(今次の耐震補強前)の構造一般図(以下、首都高速道路提供、拡大してご覧ください)
ロッキングピア(P2)とP3は形状に特徴がある(下写真及び図)。ロッキングピアは基礎と直接つながってはいないのだ。東海道新幹線を支える2基の橋脚の上にさらに載る形で左右に1本ずつ立っている。P3も変わっている。3本柱の門型橋脚であるが、うち2本は河川内にあり、1本は護岸内にある。左右両岸とも民地であり、接道していない箇所での施工を強いられる。右岸の護岸上には細い通路があり、そこを歩き、橋脚近傍まで進み施工することが要求された。
ロッキングピア近傍を東海道新幹線と在来線高架(JR山手線、京浜東北線、東海道線)が交差し、至近には古川が流れている。近接箇所には港区が歩行者用道路の建設を進めている。また都道3号線の建設も近接箇所で計画されている。新幹線が通る個所とロッキングピアのすぐ脇には鉄道特別高圧線を移すための工事が進んでいる。現在、P1脇の橋梁に添架されている鉄道特別高圧線を、港区道の整備に伴う橋の架替えに対応して、JR施工で高圧のケーブルを載せる鋼桁を2本、ロッキングピアと今回新設する橋脚の間に設置するものだ。とにかく施工空間に乏しいのだ。
非常に厳しい施工条件のため、とてもではないが通常行うロッキングピアを巻き立てて壁式化するような耐震補強は望むべくもない。
次善の策として試みたのが、上部工を含めた橋梁全体をモデル化して、上部工の変位を抑え、ロッキングピアの回転角を緩和する手法だ。両側の端支点(P1、P3)上の沓を機能分散型のタイプBに取替え、水平力を懸けるような抑えを設置し、さらにMOVE側には粘性ダンパーを設置してさらに変位を抑えようとした。
浜崎橋(今次の耐震補強)の構造一般図
P1橋脚の耐震補強構造配置図/P1橋脚支承詳細図
P1橋脚水平力分担構造詳細図/P1橋脚落橋防止構造図
P3橋脚の耐震補強構造配置図/P3橋脚支承詳細図
P3橋脚水平力分担構造詳細図/P3橋脚ダンパー装置詳細図
P1、P3の補強①(左)タイプB支承、(中)SEリミッター、(右)落橋防止機能付きダンパー
P1、P3の補強②(左)落橋防止ケーブル、(右)落橋防止機能付きダンパーと落橋防止ケーブル
新設橋脚に水平力分担構造を設置
不等径間という課題に対応する苦心の策
しかし、これだけではロッキングピアの回転角を許容値内に抑えられなかった。そのため、追加策として、ロッキングピアの近傍に新設橋脚を設置して、そこでも変位を抑える水平力分担構造を設置することでようやく回転角を許容値内に抑制することが可能となった(下表)。
もっとも、新設橋脚を建てるのであれば、ロッキングピアを無くして、そこに荷重や変位を移し替えてしっかりとした構造にすればよいのではないか? と普通は思うものである。それを阻むのが不等径間という課題だ。位置的に両径間のスパン長がさらに歪になってしまうのだ(主桁フランジの応力度が約2.5倍増)。そうすると当然上部工の補強が必要になるが、運の悪いことに、スパンが長くなるのはJRを跨ぐ側の桁であった。鉄道上の作業になるため施工時間は限られ、補強期間は長期化してしまう。そのため、新設橋脚だけで支えることを断念し、鉛直力は従来通りロッキングピアが負担し、水平力のみ新設橋脚が受け、倒壊を防止するという設計に落ち着いた。なお、仮にL2地震動を超える水平力がかかった場合、ロッキングピアが新幹線側に転倒しないためのフェールセーフとして緩衝チェーンを設置した。また、ロッキングピアの下側もブラケットで囲っている。
基礎はPCウェルを採用 左右で直径異なる
横梁 長さは45m、梁高は2.6m
新設橋脚は基本的に現行道示に準じて設計した(下図)。2本柱の丸型鋼製橋脚で、施工はまず両柱を設置してさらに横梁を通す。横梁の長さは間にある古川を渡河せねばならなかったため45mとなり、梁高は2.6mと桁高よりも高くなっている。
基礎形式は狭小なヤードに配慮してPCウェルを採用した。基礎の深さは25~27mに達する。但しPCウェルの直径は右岸がφ5,500mm、左岸がφ3,000mmと異なる(下図)。理由は左岸側に都道環状3号線の建設予定地があるためだ。そのため右岸側は横梁と丸柱を溶接で繋げられるが、左岸側は基礎が水平力に耐えきれないと判断、丸柱と溶接することができず、支承構造を余儀なくされた。