道路構造物ジャーナルNET

エンドバンド継手とPC縦締めを併用

NEXCO西日本千種川橋 トラス橋上の床版取替

公開日:2020.12.16

間詰部内の床版端部に定着部を設ける構造
 シース設置部は両側に20~30mmの施工のための余裕しろを稼ぐ

 架設はトレーラーで運ばれた後、研掃および再塗装を完了させ、シールスポンジを設けた桁上に220tオールテーレンクレーンを用いて据え付ける。次いでスタッドを溶殖し、無収縮モルタルを打設し、間詰コンクリートを施工して一体化させるオーソドックスなものである。ただ、ここではその他に縦締めPC鋼材の挿入および緊張、定着が必要だ。

トレーラーで運ばれてきたPC床版
 その緊張作業の負担を軽減するため、定着部は従来の下面に定着突起を設けるのではなく、間詰部内の床版端部に定着部を設ける構造とした。従来のやり方ではジャッキを下に設置しなければならず、機材や施工の際の手間がかかるが、「定着部を端部の間詰部内にもってくれば、カーブチェアを使った施工が可能で、PC鋼材の挿入も緊張も桁上から施工できるため大きく手間を省ける」。また、定着突起版を製作する必要もなくなり製作上のコストも縮減することができた。


 ただし、挿入や緊張作業を行うため、シース設置部や定着部と隣接する添接部には床版上面を少し切欠き、定着部の添接板側に50mm、シース設置部は両側に20~30mmの施工のための余裕しろを稼いでいる。また、定着部には一部のエンドバンド継手を後からはめ込むことのできる機械式継手とし、カーブチェアが入るためのスペースを作った(施工後に継手を設置する)。シース同士の接続はポリエチレン製の蛇腹状のジョイントシースを使って接続した。シース設置部も切欠きを付けて施工しやすくしている。

定着部とエポキシ樹脂塗装鉄筋(青)、シースは蛇腹状になっている
(白は床版から出ているシース、黒はジョイントシース)(井手迫瑞樹撮影)

切欠き部(井手迫瑞樹撮影)

PC鋼材の挿入は人力施工
 スープロストランド、アルファテックAT840を使用

 PC鋼材の挿入は、写真のように人力で施工した。通した後は中間部の間詰コンクリートを打設した上で緊張作業を行い、グラウトを充填して定着させた。今回、PC鋼材にはスープロストランドを採用した。ストランドとシースの径差が比較的広く、グラウトが入りやすく、安定的に施工できると判断したことが理由だ。上り線では他の工法を採用していたが、上り線施工での作業性を踏まえ作業効率のよいものを下り線で採用した。間詰コンクリート内部の定着部直上はアルファテックAT840を使用し、止水性をさらに高めた。



縦締めPCの施工(井手迫瑞樹撮影)

緊張作業

グラウト注入工

間詰コンクリートの施工
 大規模リニューアル工事においては、取替える床版の両端2~3mは場所打ち部を設けていることが多いが、今回はそれを極限まで減らし、場所打ち部は伸縮装置近傍の900mm程度に縮めた。

クイック壁高欄を採用
 耐久性高めるため全てエポ鉄筋を採用

 床版を全て架設した後にプレキャスト壁高欄を設置していく(架設ステップは右図参照)。プレキャスト壁高欄はクイック壁高欄(製作:ケイコン)を採用した。同橋の上り線で架設したのが初の事例で、今回の同橋下り線を含めて2年間で5例目の施工となる。クイック壁高欄は施工スピードと耐久性の向上を両立すべく、構造のシンプル化と接合面の極小化を図っている。本工事では1ブロック当たりの長さを4,270mmとし、500mmピッチでプレキャスト床版側に予めD22鉄筋にφ34mmのグリップを圧着した鉄筋を配置し、地覆天端に高さ調整用の15mmのライナープレートを設置した上でクイック壁高欄の下側の挿込み口にはめる。壁高欄内部の挿込み口側にはスパイラル筋が予め埋め込まれている。その鉄筋及びグリップ鉄筋は全てエポキシ樹脂塗装鉄筋(安治川鉄工製)を採用しており、高い耐久性を有している。

クイック壁高欄の標準構造


クイック壁高欄の施工
 通常のプレキャスト壁高欄では300mm程度になる高欄の下端と地覆の天端の隙間を、今回は15mmと極小化しており、型枠も小さくて済む。背面下部の注入口から無収縮モルタル(40N/㎟)を注入し、同じく背面にある排出口から漏出を確認することで空隙を充填していく。クイック壁高欄同士の接合は目地部のせん断キーに無収縮モルタルを充填するだけで一体化できる。

グリップ鉄筋/ブロック目地部(ケイコン公開資料より)

壁高欄や水切り部にシラン系含浸材
 含水率7%でも施工可能な『レジソーク Type1』

 壁高欄や水切り部については、シラン系含浸材を採用した。今回採用したのは大日本塗料の『レジソーク Type1』。ロス率を3割程度に抑えることができ、含浸深さも5mm強程度が期待できる。「何より含水率が従来より1%高い7%でも施工できるため、施工時間のロスを大きく減らすことができる」(オリエンタル白石・日本ピーエスJV)ため使用した。

『レジソーク Type1』の塗布状況

 また、下り線の壁高欄施工に限るが、PCa壁高欄施工時の通信管内へのモルタル材の浸入を防ぐための管路ジョイント『プレキャスト壁高欄通信管接合部材』を全面採用している。
 1日8~16ブロックを施工し、11月2日~11月11日までの10日間で施工を完了した。

 床版防水は、ショットブラストで表面研掃した上で、高性能床版防水としてレジテクトGM-S工法を採用し、基層にFB13、表層に高機能舗装Ⅱ型用をA1~P1間は11月17日から、P1~A2間は11月21日から施工し11月25日に完了した。面積は1690.2㎡。

塗膜除去から循環式エコクリーンブラストを全面施工
 座屈拘束ブレースはアンボンドブレース

床版取替以外の各種補修補強
 塗替えは同橋上下線全てで行う。面積は合計10,829㎡。鉛が45,000~47,000mg/kg、クロムが1,500~1,700mg/kgあるため、湿式かそれに伴う塗膜処理方法が必要だ。近年剥離剤使用に伴う火災死亡事故やアルコール中毒の疑いによる死亡事故の発生、冬季施工を考慮し、塗膜除去、素地調整共に循環式エコクリーンブラストを用いる予定だ。

 耐震対策は、剛な耐震補強を行うと補強量が非常に多くなるため、ゴム支承、座屈拘束ブレース、制震ダンパーを用いて制震・免震的な対策を行うこととした。
 具体的には、支承取替が上下線6基ずつの12基、座屈拘束ブレース設置工が上下線2箇所(A1とP2)ずつの4箇所、制震ダンバーも座屈拘束ブレースと同様4箇所に設置する。座屈拘束ブレースは、日鉄エンジニアリングのアンボンドブレースを採用した。また、制震ダンパーにはBM-S(750kN)を設置する。支承は鋼製支承をゴム仕様に取替える。

 支承取替に必要な支点補強やジャッキは、過年度で支承取替を行っている個所があった(上り線のA1、P2)。それを参考にジャッキを受けるための支点補強を行う。具体的には鋼部材でジャッキ支点周りの補強を行う。座屈を防止するため、必要な個所にはコンクリートを充填する。ただ、事前に設置する場所も落橋防止装置を取り付けるために補強材を撤去しているところもある。今回支承取替を施工するに当たり、撤去で不足した補強材は追加で施工する。曲げ応力がかかるため1格点間の下弦材全体を補強しないと支承交換はできない。

既存の耐震補強設備が輻輳している/支承取替の準備

コア削孔状況(トラスの箱内部に無収縮モルタルを充填する)

支承取替などのために鋼部材による補強も
 一部で無収縮モルタルも充填

 RCやPCで巻き立てるやり方もあるが、現場は落橋防止装置が付いているなど、支点部周りには色々な部材があるので、それは難しく、基本的には鋼部材による補強を行うしかなかった。補強部材は支承取替後も残置する。補強の詳細設計や施工計画は元請のオリエンタル白石のグループ会社である日本橋梁や耐震補強の一次下請けであるショーボンド建設の協力を得て行った。P1は格点部を外側にまくような形で補強する。耐震補強は既に着手しており、現在はボルト取替、当て板補強、部材取替のコア削孔を完了し、それを図面化し、支承や補強部材の製作に入っている。ダンパーの設置においても桁側取付け部は鋼材による補強だけで座屈に対応することが難しいことから、トラスの箱内部に無収縮モルタルを充填した上で取付ける予定だ。

 元請はオリエンタル白石日本ピーエスJV。一次下請は床版関係が、廣内工業(床版撤去・架設・床版工・壁高欄工)、コンクリートコーリング(床版切断工、WJはつり工)、アオイハリマ(スタッドジベル溶接)、日東運輸(コンクリート圧送)、佐藤渡辺(アスファルト切削)、第二開発技工(測量)、など、耐震関係その他がショーボンド建設(耐震対策工)、大陽塗装工業(塗替塗装)、ケミカル工事(下部工断面修復)、国際建設技術研究所(鋼桁損傷調査)、エイテック(3D測量)、二次下請が澤田運輸建設(大型クレーン)、谷口興業(足場、床版撤去・架設)、山新重機(ラフタークレーン)、東海カッター興業(床版カッター)など。壁高欄製作はケイコン(2020年12月16日掲載)

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