車線規制が難しく、舗装の打ち替えが困難な箇所において試験的に採用
名高速 都心環状線などに高耐久グースアスファルトを施工
名古屋高速道路公社は、10月31日~11月7日にかけて高速都心環状線鶴舞南JCT~山王JCT~明道町JCT間の約5.2kmと3号大高線高辻(「辻」は1点しんにょう)出口~鶴舞南JCT1.2km、4号東海線尾頭南出口~山王JCT間1.2km、5号万場線黄金出口~新洲崎JCT1.0kmを全面通行止めして、RC床版では床版の補修、複合防水の設置、舗装の打ち替え、鋼床版では舗装打ち替えなどを主とするリフレッシュ工事を実施した。今回は鋼床版の一部に高耐久グースアスファルトを採用している。(井手迫瑞樹)
内訳は鋼床版が約45,000㎡、RC床版が約58,000㎡。舗装のほか、遮音壁補修、高欄塗装、クッションドラム補修、伸縮装置取替え、照明柱点検、その他の付属工事、構造物点検も合わせて行った。リフレッシュ工事に係わるのべ人員は約5,500人に達した。
都心環状線の1日平均交通量は、平日:約5.1~6.6万台/日、休日約4.1~5.1万台/日(H30年間平均)、大型混入率は14.6%(H27センサス値)。1985年5月に供用され、平成17年度に舗装(表層)の打ち替えを実施したが、その際に床版防水は行っていなかった。なお、今回工事区間(都心環状線)の設計上のRC床版厚は平均で230mm、最小個所では210mmである。
RC床版部の舗装打ち替えは、まず舗装を撤去し、ショットブラスト(投射密度100g/㎡)で研掃する。次に目視および打音検査で損傷箇所を確認する。はつりの目安は外観から明らかに土砂化など損傷が確認できるか、またはスケルカ(電磁波レーダ)による事前調査にて異常の確認された箇所と、打音検査で異常音が重複した箇所、としている。対象箇所はコンクリート劣化部をカッターで縁切りしてチッパーやブレーカーなどではつり、腐食した鉄筋はさびを落とし、防錆剤を塗布し、鉄筋防錆を行う。
舗装の撤去
それが終わった後、はつり部に接着剤を塗布し、ポリプロピレン補強繊維入り超速硬ポリマーセメントモルタルを打設して断面修復する。そして、複合床版防水工、基層(密粒度As(13)改質Ⅲ型-W)40mm、表層(排水性舗装)40mmを舗設した。今工事では端部は立ち上げまで塗膜防水し、成形目地を設置し、防水を実施した。
床版の点検
RC床版の断面修復工(深さ50mm程度)は超速硬モルタルを使用しているが、それに用いているひび割れ防止用の補強繊維はPP(ポリプロピレン、萩原工業製「バルチップ」)を使用している。
床版の補修
RC床版においても防水工の前工程の舗装除去工では、鋼床版と同様にショットブラスト(投射密度100kg/㎡)を施工して表面を研掃した。
複合床版防水は、今回全体で約58,000㎡施工するが、そのうち約9割の51,600㎡でデンカの「デッキコート複合防水工法」、約1割の6,400㎡で菱晃の「ドーロガード工法」を使用している。いずれも、まず床版コンクリート上面及び地覆立ち上がり部までアクリル樹脂系の浸透材を塗布し、次いでその上にアスファルト加熱型塗膜系防水材を設置する工法。
鋼床版基層打替えは約10,500㎡
IH式加熱機を4台活用
鋼床版については、基層のグースアスファルトまで除去する必要のある個所を事前調査(舗装表面の変状箇所を確認)した上で施工箇所を絞り込んだが、昨年(4,800㎡)より大幅に増え10,500㎡で、IH式舗装撤去工法を採用した。同工法はIH式加熱(電磁誘導加熱)を利用し、低騒音で鋼床版を傷付けずに舗装を剥離する工法で、電磁誘導加熱により鋼床版と舗装の接着界面を60℃程度まで加熱することで舗装と鋼床版との縁を切り、除去しやすくするもの。昨年は3台用いたが、今年はさらに1台増やし4台体制で施工した。
IH式舗装撤去工の施工
その後はショットブラスト(投射密度は300kg/㎡)で下地処理を行い、接着樹脂を塗布、グースアスファルトの基層、排水性舗装の表層に打ち替えたが、ここで一部の区間に採用したのが高耐久グースアスファルトだ。
高耐久グースアスファルトは、ポリマー改質アスファルトを適用し、混合物の強度を従来のグースアスファルト混合物より向上させた改質グースアスファルト混合物で、従来の天然グースに比べて4倍の耐流動性、10倍の曲げ疲労抵抗性を有していることから約7,300㎡で採用した。
採用した現場は、都心環状線の最初期(1985年)に供用された箇所にかかる、鋼床版支持間隔が3.5mから最大9.85mに開く、鋼床版箱桁形式のランプ分合流部など。鋼床版はUリブ形式でデッキプレート厚は12mm。鋼床版のシリアスな疲労損傷はないが、上面の既設グースがウエブの負曲げや添接板の影響により割れているケースが目立っていた。そのため「都心環状線ジャンクション付近の分合流部など、車線規制が難しく、舗装の打ち替えが困難な箇所において試験的に用いた」(名古屋高速道路公社)。コストは従来の天然グースの1.7倍ほどであるが、打ち換え期間は45年程度を期待している(現状は30年程度)。現場施工は、従来の天然グースと変わらないやり方で舗設できていた。
高耐久グースアスファルトの施工(井手迫瑞樹撮影)
今後はわだちや流動などを目視で点検すると共に、鋼床版裏面にひずみゲージを貼り、デッキの変形量がどの程度小さくなるかを継続的に計測していく。また、スケルカを用いて鋼床版と高耐久グースの接着性の経年変化も「二年程度の四季変動を確認していく」(同)。その上で問題が生じなければ同社の舗装設計施工要領にスペックインする考えだ。
その他の基層のグースアスファルトがそれほど傷んでいない箇所は、表層のみ切削し、打ち直している。表層には「ポリマー改質H型(13)」を採用した。舗装厚は基層(グースアスファルト)が50mm、表層が30mmとしている。
表層の舗設
ミストJET工法とSTスィンガー工法を小牧線の一部で試験施工
WJによる床版の斫り工の開発も進める
新技術の採用
RC壁高欄の補修分野において、名高速の新技術の募集に応募したサーフェステクノロジーが開発したミストJET工法とSTスィンガー工法を高速11号小牧線の一部で試験施工した。
名高速の壁高欄内側は、地形的、構造的な影響があり、凍結防止剤の散布量が多く、塩害が懸念されている。損傷部の補修と塩害対策に関する技術が求められている。しかし、従来の工法ではケレン作業で騒音が生じることから昼間にしか作業ができないが、交通量が多く渋滞が発生する。また規制回数が増えるなどのデメリットが生じていた。
そのため、夜間の1車線規制で補修作業における騒音が抑制でき、さらに規制回数そのものを抑えられる技術を求めていた。
ミストJET工法は、高圧水(水圧100~245MPa、水量40ℓ/分)の噴出機構を調整してミスト状の水を壁高欄にぶつけることで、既設塗膜やコンクリート表面の不純物を除去するもの。
はつり量はノズル間隔や圧力など適切な調整が可能となるよう工夫されている。名古屋高速道路の独特の地覆形状にも対応して、一度に高欄、地覆が研掃できるように開発した。また研掃と同時に吸引するため、表面の乾燥が早く、次のプライマー作業への養生時間も短縮できる。
小牧線で200mほどの区間、試験施工したが、「水による施工のため騒音がほとんど出ず、施工時の粉塵も抑制できていた。さらにミストによって確実に不純物が除去でき、新しい塗膜の付着力向上が期待できるようになった」(同社)。
施工後は追いかけでプライマーを塗布、その後防水塗料の母材となる高伸張、速硬性のポリウレタンを「ST-Swinger」と名付けた自動吹付装置を用いて700μm程度の厚膜で吹き付けていく。機械のアーム先端にスプレーガンを装着し、それが上下に揺動することで材料が放射状に噴出し、塗装していく。塗装施工時にはミストJETと同様にバキュームでスプレーミストを吸引しながらフィルターを通して排気することで周囲への飛散を防いでいる。開発にあたっては噴出量や噴出速度とバキュームによるエアー量などを最適化し、膜厚が一定化する閾値を見つけ出し、施工する。同工法も小牧線で試験施工した結果、「コストは手塗とほぼトントンであるが、施工速度の点で優れており、規制回数も大きく減らせることが期待できる」(同)と評価している。
同社では、今後、壁高欄補修の標準工法の1つとして採用していく方針だ。
床版では、都市内でも施工可能なWJによるはつり工の模索も進めている。同社では夜間車線規制の中で床版の補修が行えるように、騒音の低減が図れ発生水を漏出させずに既設床版にダメージを与えないように脆弱部を斫り、良好な断面修復工が行えるWJを模索している。小型の重機にWJのカバー付きヘッドを装着し、水やガラなどの漏出を防ぎつつ、鉄筋裏まできれいに斫ることができないか、供試体を作って試験施工した。その結果、「騒音も抑制でき、斫り品質も確保できるWJ工法のめどがついた。WJは足場付きで試験施工する必要があるが、既に床版裏面にアラミド繊維補強シートを貼り付けて補強した大高線などで試験施工を行い、現場での品質を確認したい」(同)方針だ。
元請はNIPPO、大有建設、前田道路、世紀東急工業、中部土木。
(2020年12月4日掲載)