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北陸新幹線武生架道橋 斜角17°の桁を最小限の規制でかけるには?

北陸新幹線武生架道橋 斜角17°の桁を最小限の規制でかけるには?

公開日:2020.10.09

 鉄道建設・運輸施設整備支援機構は、9月14-16日の各夜間に北陸自動車道(北陸道)今庄IC~福井IC間31.6kmを通行止めして、福井県越前市内において北陸新幹線の武生架道橋、第3庄架道橋の桁架設を行った。武生架道橋は橋長335mの4径間連続鋼合成箱桁。今回送り出したのはその中央径間部でP2近傍部からP4近傍部の217.6m(鋼重約2,800t)。先端に手延べ桁(64.6m、150t)を付け、後方からダブルツインジャッキを用いて送り出す工法で、1夜間に85mずつ3夜間で265m送り出した。橋脚上にはエンドレス滑り装置を用いて桁の高さ調整や反力測定をしつつ、桁が逸脱しないよう送り出し能力毎分1mのところを、3分ごとに1m程度に速度を落として慎重に施工した。同日は、第3庄架道橋(橋長141m、3径間連続鋼合成桁)でも武生ICオンランプを跨ぐ桁(桁重28.5t)とオフランプを跨ぐ桁(47.5t)を550tオールテーレンクレーンと360tオールテーレンクレーンを用いて夜間架設した。(井手迫瑞樹)

 武生架道橋の線形的な特徴は、北陸道を17°の角度で跨ぐことである。そのため、北陸道の上を長く新幹線桁が覆う形となり、結果として架設に時間を要することになった。そのため、その時間をいかに短縮するか、が課題となった。

下部工 アーバンリング工法を採用

下部工
 武生架道橋は北陸道を緩やかに交差しているため、高速道路盛土法面内に下部工を建設しなければならない。そのような箇所には、北陸道(盛土構造)への影響を最小限にするため、深礎基礎杭施工にはアーバンリング工法を採用した。

アーバンリング工法概要図


アーバンリング工法の施工状況

 まずアーバンリング工法にて工事を開始するに際して、盛土法面内に所定の寸法を確保した水平な施工基面を設置しなければならない。
 施工箇所の地盤は玉石を多く含んだ硬質地盤であるため、先行掘削による地盤の崩壊(高速道路盛土への影響)を伴わない工法としてジャイロプレス工法による鋼管矢板土留め工法にて仮設土留めを施工した。P2、P3(門型のため2基換算)で約4mずつ、P4で約4.5m仕切った上で、基礎を施工していった。
 次に深礎杭本体の施工をアーバンリング工法にて実施した。
 アーバンリング工法は、工場製作された鋼製セグメント(分割組立土留め壁)を円形に組み立て、鉛直方向に積み重ねた躯体内部をクラムシェルによりバケット掘削しながら沈設する。
 圧入沈設は、事前に打ち込んだ沈設アンカー(Φ16.5、L=36.5m)を反力にして、リングの刃先を地盤内に貫入させ、内部を掘削しながら所定の位置まで沈下させる。一般的な現場打RC構造のオープンケーソンに比べ、周面のフリクションが大幅に軽減され、高精度な鉛直性の管理が可能になる。そのため、高速道路盛土路面への最小限とすることができた。また、鋼製セグメントを使用するためコンクリートの養生を必要としないため大幅な工期短縮が可能となった。
 施工基面からのアーバンリングの深さはP2がΦ8.0m L=24.5m、P3-1がΦ8.0m L=23.4m、P3-2がΦ8.0m L=23.3m、P4がΦ9.0m L=22.2m、P5がΦ8.0m L=16.5m。
 橋脚はP2、P4はRC橋脚でピア高は15.6m、16.5m、P3は鋼製門型橋脚で高速道路を横断する梁の道路面とのクリアランスは4.9mである。鋼製門型橋脚の梁部分の多くが北陸道の上空を跨ぐ。そのため事前に柱部と梁左右の両根元部4mずつを架設した上で、8月24日に鯖江IC~武生IC間を夜間通行止めし、高速道路を横架する残る36m(吊重量365t、部材高5m)について1,250tクローラクレーンを用いて一括架設した。

 次いで支承を設置する。サイズは「ちょっと他では見られない大きさ、重量となっている」(日本ファブテック・川田工業JV)。支承本体のサイズは幅2,370mm×長さ1,870mm×高さ324mm。ベースプレート含めたサイズは最大で3,250mm×2,350mm×979mm、重量はP2、P4が25t、P3が44tに達する。支承の設置は200tホイルクレーン、200tクローラクレーン、1250tクローラクレーンを用いて施工し、P2、P4は無収縮モルタルにより、P3門型橋脚では現場溶接でそれぞれ固定する。

実際のP3支承と、同支承の設置状況

ジャッキダウン量を5,500mmから600mmに減らす
 ダブルツインジャッキと特殊な手延べ桁を採用

上部工架設
 次に上部工桁の架設である。まず桁は日本ファブテックの取手工場で製作したブロックをP5より敦賀方にベント(計31基設けた)と工事桁で構成した軌条設備の上で地組した。すべてのベント基礎は平板載荷試験で安全な地耐力があると確認したが、さらなる安全のため、厚さ500mmの基礎コンクリートの上にベントを建て込んだ。水路上では構台を設置し、その上にベントを建て、軌条設備を構築した。桁ブロックは200tクローラクレーンで吊り上げ桁同士の接合は、工程を考え、高力ボルト接合を基本にした。支点付近の極厚部で高力ボルト接合が困難な部分は現場溶接接合とした。

武生架道橋一般図

 さて、施工である。桁高は箱桁中心で3870mmで一定している。鋼重は約2,800tに達する。「これだけの鋼重の桁を送り出し、降下させるのはあまり過去に例がない」(日本ファブテック・川田工業JV)。

 送り出しには150t×4台のダブルツインジャッキを後方に配置し、揚重500t、1ストローク300mmのエンドレス滑り装置をP2~P5の4橋脚に配置した。また桁送り出し用台車の軌条梁(4列)はH鋼を用いているが、そのH鋼同士の継ぎ目部をゲルバー状にすることや5mm厚のステンレス版を軌条梁上に400mmピッチで溶接して設置することで、段差を生じにくくし、架設の際の安全性をより向上させた。1ウェブあたり下部のすべりジャッキ200t(ジャッキ下面にテフロン板を設置して摩擦抵抗を減らした物)が8又は10台、上部の反力調整用の鉛直ジャッキを300t×4台、台車は、送り出す桁に小刻みに配置し、全部で10台×2ウェブ合計20台を使用した。

ダブルツインジャッキ

エンドレス滑り装置

台車及び軌条梁

 一方、送り出し後のジャッキダウンは従来のやり方では5,500mmほど下げなければならず、多くの日数を要する可能性があった。そのため、「PC桁の工程を犠牲にして送り出し位置の高さをそもそも低くすることを考えた」(鉄道・運輸機構)。PC桁の橋脚をわざと梁部下の柱まで建設した所で止め、梁部を作らないことで桁下クリアランスに余裕を持たせ、送り出しの降下量を下げたわけである。さらに手延べ桁先端にはパンタグラフジャッキを取り付け、ジャッキダウンによらず1,000mmのたわみ(上げ越し)を取った。10月6日には今回と同様、北陸自動車道を夜間通行止めして桁のジャッキダウンを行うが、その降下量を600mm程度にまで抑制し、1夜間に施工日数を短縮することができる見込みだ。

梁部をわざと作っていない

その結果、降下量を600mmまで抑制

パンタグラフジャッキの概要図と仕様/同ジャッキ拡大写真

支承設置完了後、初日送り出し前の状況

送り出し初日の架設進捗状況

1日目到達状況

2日目到達状況

3日目到達状況

桁降下作業と桁降下完了後の状況

 送り出しに伴い後工程になっていた橋脚の梁建設およびPC桁の架設は、鋼桁のベント撤去と並行して施工していくため工程の工事調整が重要になる。構造は第6北BLCtp1(武生Bv起点側)が、橋長30m、第1庄BLCtp1(武生Bv終点側)が橋長35m、第3庄BLCtp2(第3庄Bv起点側)が橋長35m、第1大屋BLCtp1第3庄Bv終点側)が橋長25mで全てPCaPCT桁を採用している。

 施工後は、RC床版を現場打ちし、合成構造化していく。その後、レールなどの施設を施工していく。

防食
 基本的に鋼桁には重防食塗装を採用しているが、高速道路を跨ぐ箇所は防食の長寿命化やそれに伴う塗替え頻度の減少を図るため、溶射(亜鉛+アルミニウム、JIS溶射)を用いた。

 設計は日本交通技術。元請は下部工が竹中土木・宮本・南JV。上部工が日本ファブテック・川田工業JV。上部工の一次下請はミック(クレーン)、オックスジャッキ(ジャッキ)。二次下請は三美興業、葛和、誠架設工業、橋栄工業など。

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