東日本高速道路(NEXCO東日本)東北支社は、東北自動車道の国見IC~白石IC間の一級河川白石川渡河部に架かる宮城白石川橋の床版取替工事を実施している。5月14日から7月22日までの70日間、終日車線規制および終日対面規制を行い、同橋下り線のPA1~A2までの床版全面積約2,500m2を取替えた。新型コロナウイルス感染症対策を行いながら、プレキャストPC床版の全面採用や超高強度繊維補強コンクリート(UFC)を用いる床版接合工法「スリムファスナー」の採用により、工程短縮と高耐久化に取り組んだ同工事について取材した。
過去に設置した床版下面のeプレート周辺のコンクリートが剥離
鉄筋近傍の塩化物イオン量は最大で16kg/m3
橋梁概要と既設床版の損傷状況
宮城白石川橋(下り線)は、橋長276.9m、幅員10.9m(有効幅員9.2m)の3径間連続非合成鈑桁橋×2連で、平面線形はR=1,200m、縦断勾配0.7%、横断勾配4%だ。桁は、PA1側は70度、A2側は60度の斜角を有している。
宮城白石川橋全景。手前が下り線(NEXCO東日本提供。注釈なき場合は同)
宮城白石川橋 橋梁一般図 ※拡大してご覧ください
1975年の供用から44年が経過していて、2015~2017年度には、床版上面に土砂化による鉄筋露出が発生していたことから63カ所でプレミックスモルタル打込みなどの応急処置を繰り返した。床版下面は抜け落ち対策で数カ所にeプレート(炭素繊維強化プラスチック板)の設置を2015年3月に行っている。しかし、その後の調査で、床版下面で亀甲型のひび割れやエフロレッセンス、さらにeプレート付近の床版の剥離・浮きが確認された。また、舗装面のポットホール、床版上面の土砂化も発生していた。
床版下面の状況
舗装面と床版上面の状況
国見IC~白石IC間の2017年度平均交通量(下り線)は約16,800台/日で、大型車混入率は約33%。凍結防止剤の散布量は、福島管理事務所管内(本宮IC~白石IC)で過去平均約2,500t/年で、鉄筋近傍の塩化物イオン量は健全部で0.2~9.8kg/m3、損傷部で最大16kg/m3となっていた。
床版の損傷原因としては、凍結防止剤散布の影響による塩害に加えて、「走行車線側が水勾配の高い側にもかかわらず、走行車線側でも床版上面に損傷が発生している」(NEXCO東日本)ことから、車両の大型化による輪荷重の繰り返しも推察された。
今回、抜本的な対策として、190mm厚の既設床版を220mm厚のプレキャストPC床版に取替えることにした。
中・上段足場に「クロスリンクステージ」を採用
組立て・解体作業をシステム化して作業時間や作業人員を削減
作業足場
本工事にあたり、足場は吊り足場にスパイダーパネル(PA1~P4)とVMAX(P4~A2)を採用し、既設床版撤去後の桁上フランジのケレンおよび塗装作業を行うための中・上段足場には大林組とタカミヤが共同開発した「クロスリンクステージ」を採用している。
(左)PA1~P4間のスパイダーパネル/(右)P4~A2間のVMAX
クロスリンクステージは、従来の足場材と桁間の足場に特化した専用の部材を組み合わせることによって、組立てや解体作業をシステム化したもの。同足場を採用したことにより、「部材数が少なく、ワンタッチでの組立て、解体が可能なので、作業時間や作業人員を削減できた。また、作業員の技量によらず、安全な足場を組立てられた」(元請の大林組・横河ブリッジJV)という。
組立中のクロスリンクステージ
(左)クロスリンクステージ下面。専用部材を組み合わせて設置
(右)中段足場(下2枚写真:大林組・横河ブリッジJV提供)
クロスリンクステージの構造(弊サイト掲載済み)
現場の施工人員を半分程度に抑制
感染者が出た場合のバックアップ体制も考慮
新型コロナウイルス感染症対策
現場での特筆すべき点は、徹底した新型コロナウイルス感染症対策を行ったことだ。緊急事態宣言が全国に拡大された4月16日以前から「現場の3密回避」をNEXCO東日本と大林組・横河ブリッジJVで検討、協議して、工事着手の5月14日より対策を実施している。具体的には、通常の感染防止対策は当然のこと、現場に入る施工人員を半分程度に抑えるとともに、現場事務所や作業員詰所に入れる人数も制限した。施工段階や24時間施工での昼間と夜間とでは制限の基準は異なったが、対策は緊急事態宣言解除後も工事完了まで継続した。
この対策には、「当初予定していた作業員数を確保した上で、万一感染者が出た時にその感染者と接触していないグループをバックアップ部隊とすることにより、工事を止めることなく行えるようにする」(NEXCO東日本)という考えもあったという。
施工人員を制限したことにより、工程では床版切断工や床版取替工、プレキャスト壁高欄の無収縮モルタル充填工などで大きな影響を受けた。そのため、計画では、集中工事期間は5月14日から7月3日(予備日を含む)までだったが、22日まで19日間の延長を行った。
2台のクレーンを用いて両開きで床版を撤去・架設
1日あたりの撤去・架設枚数はコロナ対策で計画の半分に
既設床版撤去・新設床版架設
終日対面通行規制は5月19日から実施したが、その前の16日から路面切削を開始し、その後、コア削孔、既設床版の切断などを行った。既設床版はロードカッターと地覆部分はワイヤーソーを用いて、橋軸方向2.2m×橋軸直角方向5.5m(重量約9.5t)のブロックに切断。中央分離帯側と路肩側ともにガードレールが設置されていたため、あわせて撤去をしている。
コア削孔と既設床版の切断(大林組・横河ブリッジJV提供)
既設床版の切断/地覆部分はワイヤーソーを用いて切断(右写真:大林組・横河ブリッジJV提供)
また、白石高架橋との掛違い部にあたるPA1の伸縮装置撤去はWJで行ったが、対面通行規制前の昼夜連続車線規制時に追越車線の斫りを行い、対面通行規制後に走行車線の斫りを行って、工程短縮を図っている。
(左)対面通行規制前に追い越車線の斫りを行った(大林組・横河ブリッジJV提供)
PA1伸縮装置の撤去
既設床版の撤去・新設プレキャストPCの架設は5月26日から開始して、基本的に夜間に既設床版撤去、昼間に桁上フランジの研掃と塗装、夜間に新設床版架設および新設壁高欄架設、そして既設床版撤去という作業を繰り返して、6月20日に完了した(計画は5月22日~6月3日)。
既設床版の撤去(中央写真:大林組・横河ブリッジJV提供)
新設床版の架設①(左写真:大林組・横河ブリッジJV提供)
新設床版の架設②(大林組・横河ブリッジJV提供)
全長に渡る約2,500m2の床版取替を行わなければならないため、工期を考慮して施工区間のほぼ中央のP4付近からPA1およびA2に向かって、2台の360t吊オールテレーンクレーンを用いて、両開きで施工した。
1日あたりの撤去ブロック数は、計画の24ブロック(片側12ブロック)に対して、コロナ対策により半分の12ブロック(片側6ブロック)となった。合計では、276ブロックを撤去している。新設床版の架設も同様で、計画12枚(片側6枚)に対して1日に6枚(片側3枚)、合計132パネルを施工している。新設床版のサイズは、標準版で橋軸方向2.2m×橋軸直角方向10.7m(重量約16.5t)である。