累積変位を確認できる記録計を備えた二重鋼管座屈拘束ブレースを採用
鋼方杖ラーメンを擁する 横浜横須賀道路 第二田浦高架橋の制震・免震的補強
東日本高速道路は、横浜横須賀道路の横須賀IC付近にある田浦第二高架橋の耐震補強を進めている。同橋は上下セパレートの橋梁であり、上り線が3径間連続鈑桁(128m)(33.4+44.1+39.4m)+4径間連続鋼方杖ラーメン橋(173m)、下り線が2径間連続鋼鈑桁(44+44m)+4径間連続RC中空床版橋(13.22m×4)+鋼3径間連続方杖ラーメン(51+72+51m)橋であり、上下線とも昭和58年(1983)年12月に供用している。L2地震動に対する照査において下部工の一部で曲げ応力およびせん断応力度が許容値を超過しており、上部工の一部でも曲げ応力が許容値を超過していることから既存支承の免震支承への交換や、累積変位を確認できる記録計を備えた二重鋼管座屈拘束ブレースの採用などによる免震ないし制震的な補強を行っている。その現場を取材した。(井手迫瑞樹)
着手前全景(NEXCO東日本およびJFEエンジニアリング提供、以下注釈なきは同)
上下線の橋脚位置が微妙に異なる
鋼方杖ラーメン橋基部の支承の応答値が許容値の10倍程度に達する
1支承当たりにかかる引き抜き力は4万から5万kNに達する
耐震能力の不足
同橋は鋼方杖ラーメン橋の脚柱や脚柱下部の支承が損傷すると早期復旧が困難になることから、大規模地震時の緊急輸送路としての供用性・修復性の観点から耐震補強を行っている。
同橋の補強前の耐震照査では、下部工において、直角方向加振時の方杖橋脚本体(脚柱と横支材)と方杖橋脚基部の支承が許容値を超過している。今回の耐震補強では、全部材について弾性範囲内に抑え塑性化を許容しないという目標を掲げた。許容値は鋼材の降伏点となるが、補強対策前の応答値はそれに対して3倍程度となる状態であった。特に方杖橋脚基部の支承の応答値は、許容値の10倍程度に達していた。具体的には、ピボット支承の上下をはめ合わせているリング、橋台側のアンカーの引き抜き照査に対して10倍程度の超過があることが分かった。押込みに対する照査においても支承球面部や橋座コンクリートが許容値を超過していた。
1支承当たりにかかる引き抜き力は4万から5万kNに達する。これは直角方向の加振によりロッキング挙動が卓越するためである。基部の支承や巨大なピボット支承であり、支承自体は回転機能を持っているが、脚の上の方で拘束されているので、それが固まりとなって転倒するイメージだ。
上部工においては、橋軸方向加振時に鉛直方向に波打つような変形をしてしまう。その時に方杖橋脚の上部の剛結部に力が集中し、応答値は許容値である降伏強度を数割程度超過していた。
支承をSPR-Sに交換
落橋防止システムは4箇所に16本のPCケーブルを配置
制震あるいは免震的な補強
上記のような詳細設計の結果、橋軸方向に地震応答を抑制する方策の具体的な案として支承を免震支承に取り換える方法と、ダンパー等の制震デバイスによる変位抑制が考えられたが、既設支承が現行基準に対応したものではなく、かつ橋軸直角方向地震時においても水平力が耐力を超過するため、免震支承に取り換えることとした。免震支承はなるべく減衰効果を高め、特に方杖橋脚支承の応答を低減することを目的とし、全方向に動く高減衰積層ゴムとスプリング拘束型鉛プラグを併用したタイプ(SPR-S)を用いることとした。具体的には、方杖ラーメン橋の剛結部以外の橋脚・橋台5箇所×2基全てにおいて既製の鋼製ピボットローラー支承をSPR-Sに交換した。
SPR-Sの能力は、上りP6を除いては、2,000kN程度、200tクラスのものを用いている。上りP6に関しては中間支点であるため、4,000kN程度、400tクラスのものを用いた。
落橋防止システムはH24道示に準じて各構造の必要性を判定し、4箇所に16本のPCケーブルを配置した。
全体補強一般図(上り線)
全体補強一般図(下り線)
SPR-S/落橋防止装置の設置状況
力を逃がす設計
各橋脚基部にPCケーブルを設置
また橋軸直角方向については、方杖ラーメン橋脚の横支材を剛な箱断面からI断面に取り換えることで、橋脚全体の剛性を低減することとした。当て板補強や剛なブレースの追加による対策でも橋脚自体は照査を満足するが、橋脚の剛性が大きくなることによって橋脚基部の支承の応答値はさらに増加し、最も照査が厳しい引抜き力は補強前が1基当たり4万kN程度であるのに対し、補強後は6万kN程度に達する。脚自体の剛性はどんどん大きくなるため、結果的に橋脚基部の支承に同じように力が集まってきてしまうことから「大方針として力を逃がす設計とした」(JFEエンジニアリング)。
但し、この対策のみでは剛性が過少になり常時およびレベル1地震時の照査を満足しない。そこで、二重鋼管座屈拘束ブレースを斜材として追加することで常時およびレベル1地震時に対しては同ブレースの応答を弾性範囲内として剛性の不足を補いつつ、L2地震時に対しては同ブレースを塑性化させることで橋脚剛性の低減およびエネルギー吸収を図ることとした。二重鋼管座屈拘束ブレースは圧縮時にも座屈することなく塑性変形し、紡錘形の安定した弾塑性履歴特性を有する制震ブレース材だ。軸力管を補剛管が内包する形で2重になっているブレース材で、外側の補剛管は軸力を伝達せず、圧縮時の軸力管の全体座屈を拘束するため、従来のブレース材と違い軸力管の座屈後も一定の強度を維持できる。またこうした制震部材は累積変位が分からず、「常時荷重や軽度の地震により、損傷状況が分からない」という懸念材料があったが、今回は累積変位値が目視できる記録計を設置しており、そうした懸念も解消した。同ブレース材はそれぞれの格点間に菱形に4本、上下線2橋のトータルで48本配置した。二重鋼管座屈拘束ブレースの能力は、上り線で1,100kN、下りが1,500kN(いずれも低降伏点鋼の降伏軸力)。
二重鋼管座屈拘束ブレース/それぞれの格点間に菱形に4本、上下線2橋のトータルで48本配置(井手迫瑞樹撮影)
変位や累積変位値が目視できる記録計を設置している(井手迫瑞樹撮影)
これにより橋脚基部の支承応答は低減され、引き抜き力は補強前の1基当たり4万kN程度が1万kN程度となった。ただし、引抜き力に対しては既設のピボット支承の設計荷重が小さいこともあり、支承耐力の超過が避けられなかった。この引抜き力に対する支承の固定機能を補完する構造として、各橋脚基部にPCケーブルを設置することとした。PCケーブルは1脚柱に4本、1支点に8本配置した。1本当たりのケーブル強度は3,000kN(300t)相当のものを使用している。同ケーブルの長さは6メートル程度。基部に近いほうが望ましいが既設のマンホールや新たに付ける横支材などとの取り合いを見て、一番低い個所に付けた。また、既設の橋脚のダイアフラムの位置を狙って、なるべく設置時の補強を減らしている。
各橋脚基部にPCケーブルを設置(井手迫瑞樹撮影)