中日本高速道路金沢支社は、北陸自動車道の金沢市清水谷町に架かる清水谷橋(上り線)の更新工事を進めている。同橋は1974年10月に供用され、橋長は158.38m、総幅員は11.4m(有効幅員10.51m)の鋼2径間連続トラス+PCI桁橋だ。1日交通量は約33,000台で大型車混入率は約25%となっている。北陸道全般に言えることであるが、特に本現場は山間部にあり、谷間に架かっている橋梁であるため凍結防止剤を多量に散布する。そのため、塩害の影響を受けており、抜本的な対策として、床版厚220mmのプレキャスト(PCa)PC床版に取替えるものだ。鋼トラス橋ということで施工的に配慮した同工法の現場を取材した。(井手迫瑞樹)
規制区間の総延長は9.5kmにおよぶ
完全な対面通行規制区間も6.5kmに達する
今回取替えるのは、清水谷橋(上り線、写真右、井手迫瑞樹撮影)の主構造物である2連の鋼トラス橋部(橋長133.4m)の床版である。取替にあたっては、5月20日から7月28日までの70日間、上り線を通行止めにして、下り線を用いた対面通行が必要となる。この規制区間が長い。線形からトンネル3か所も含めた対面通行が必要となるためで、完全な対面通行区間は6.5㎞、渡り線も含めると規制区間の総延長は9.5㎞におよび、現状においては。大規模更新における金沢支社管内で最長の規制延長となる。対面通行規制は、5月11日から19日の9日間で規制材の設置を行った。11日から上り線を追越規制、下り線を走行規制、13日に下り線を追越規制に切り替え20日の早朝に対面通行規制へと切り替えた。
対面通行規制の中央帯には、水充填式仮設防護柵(トンネル部はポストコーン)により車線分離を行っている。なお、路肩部の拡幅舗装はGW期間前に予め施工した。
最大塩化物イオン濃度は最大で3kg/m3に達する
凍結防止剤の影響と見られる損傷が散見
同橋は、山深い個所に架けられているため、凍結防止剤の影響と見られる損傷が散見されている。2017年には、鋼主構の腐食が確認されており、先行して塗替えを施すことで補修を完了している。床版は舗装表面にポットホールが多く発生しているため、パッチングにより部分補修してみると、既設舗装を撤去した後に床版上面のコンクリートの剥離や鉄筋露出が散見され、下面にも漏水が生じていた。凍結防止剤を含んだ水による影響か、鉄筋近傍の最大塩化物イオン濃度は最大で3kg/m3弱に達していた。既設RC床版厚は210mm、床版支間は2.79mで疲労由来の損傷は見られない。過去に増厚や床版防水工の設置は行われていなかった。
舗装表面にポットホールが多く発生しており補修を繰り返していた
既設床版上面の損傷状況(NEXCO中日本金沢支社提供、以下写真、図面とも注釈なきは同)
壁高欄は仮置きヤードで施工
勾配など現場条件に合わせて地組した上で打設
PCaPC床版の製作
同橋のPCaPC床版は全部で55枚配置し、両端部2.3m弱ずつを斜角調整のため場所打ちで施工する。床版は北海道登別市のドーピー建設工業(本工事の元請である)幌別工場で製作し、室蘭港から敦賀港まで船で運び、さらに仮置きヤードである金沢テクノパーク(金沢市北陽台)まで陸送した。架設の際は壁高欄まで一体化した形で運ぶが、テクノパークまではトラックに積載する重量を調整するため、壁高欄を打設しておらず、床版及び地覆立ち上がり部のみ一体化した状態で製作し、運搬する。ただし壁高欄の打設は、橋梁上では行わずにこの仮置きヤード内で3月~4月にかけて順次施工した。規制を伴う橋梁上での作業を短縮するためだ。
壁高欄の配置のずれを招かないために、PCaPC床版を実際施工する橋梁の平面および縦横断の勾配に合わせて仮置きし、その上で鉄筋の組立て、型枠の配置、コンクリートの打設を行った。
橋梁の平面および縦横断の勾配に合わせて仮置きして壁高欄を現場打設した
その上で、現場では壁高欄まで一体化したプレキャストブロックとして架設している。ただし、2箇所の緊張材定着のため床版下面に突起部を有するパネルのみは、壁高欄を現場で打設することにして運搬・架設時の重量を調整した。
床版及び壁高欄の鉄筋は、塩害対策のためエポキシ樹脂塗装鉄筋を使用している。
定着部の床版は壁高欄部を現場打設する(井手迫瑞樹撮影)
P1を起点に両径間を同時に施工
既設壁高欄を先行撤去
現場施工
橋面上の施工はまず床版上の舗装を切削した後、壁高欄の撤去から始めた。通常は床版と同様の延長ずつ撤去していくものであるが、同橋では、規制後最初の4日間で全ての壁高欄をワイヤーソーにより1ブロック最長6m(重量9t)に切断し、70tトラッククレーンを2台用いて、P1を起点に両径間を同時に施工する形で撤去した。
壁高欄撤去計画図
具体的には、まず縁石を先行撤去した後、両端部からP1に向けて2台のクレーンを使って壁高欄を撤去していく。撤去にあたって、あらかじめ断面方向をワイヤーソーで切断しておき、70tクレーンで玉掛けした後にコンクリートカッターで橋軸方向を切断する(切断時は吊りながら施工)。また、A1橋台ウイング部・P2擦り付け部の壁高欄については、断面方向および水平方向をワイヤーソーで切断した。A1橋台ウイング部は約11.5mを2分割、P2擦り付け部は1mの範囲を撤去した。
舗装の撤去(左、中)、縁石の撤去(右)
ワイヤーソーを用いて壁高欄を切断
壁高欄の撤去状況(編注:切断工の二次下請は東海カッター興業)