現場での工期短縮を可能とする構造 衝突試験により通信管路の影響を確認
横河ブリッジ PCaRC壁高欄『ラピッドガードフェンス』を開発
横河ブリッジは、大規模更新等の現場において、急速施工を可能とするプレキャストRC壁高欄「ラピッドガードフェンス」の開発を完了した。同社は、基本構造に加えて通信管路用の孔(外径φ60)を5段ほど設置して製作された試験体を用いてNEXCO総研で定めた基準により衝突試験を行い、通信管路を内包していてもなお安全性を有していることを確認した。今まで通信管路が配置されたプレキャスト壁高欄はあったが、NEXCOが定めた耐荷性能を確保することを確認するまで至っていなかった。壁高欄と床版地覆の一体化は、地覆補強筋と壁高欄との接続用の孔を開け、壁高欄側から伸びるD41の太径鉄筋を差し込み背面からモルタルを充填することで一体化させる。また、壁高欄同士の接続は主筋にD13、配力筋には先端にM16全ネジ(ナット付き)が装着されたD16を用いて薄くなる接続部の耐衝突性を向上させている点も特徴だ。(井手迫瑞樹)
壁高欄下部から伸びたD41を地覆の孔に挿し込むシンプルな継手構造
鉛直接合部の通信管路はPPシートで型枠してモルタル打設
構造及び施工手順
ラピッドガードフェンス(リンク先はYouTube動画)は鉛直接合部(壁高欄同士の接合)にせん断キー、下部に地覆に挿し込むための太径鉄筋(D41)を有している。地覆には壁高欄から伸びるD41を迎えるための孔(φ100mm、ボルト対角長は70mm)がプレキャストPC床版製作時に250mmピッチで明けられており、地覆補強筋も予め設置されている。そこに挿し込み、四隅に備えている高さ調整用ボルト(M20)で、表側が30mm、裏側が45mmの高さになるよう調整する。裏側が比較的高いのはモルタルを充填する際に空気が抜けるための勾配を付けるためだ。そして最後にモルタルを打設して一体化する。地覆部に設けた孔に突出した太径鉄筋を差し込む構造なので、設置に関する要する時間は短く、4mの長さの供試体では調整を含めて10分程度であった。
鉛直接合部(壁高欄同士の接続)は基本的に鉄筋が連続化しておらずせん断キーを用いたせん断接合構造となっている。また、管路を接続するため、背面側は100mmの隙間(表側は15mmの隙間しかない)を開けて手が入りやすくしている。そして主筋(D13)を長方形に各通信管路を包む形でせん断キーの凹部に配置し、通信管路に沿う形でモルタルを打設する箇所まで配力筋D16+M16全ネジ(ナット付き)を突出させている。ただし継手などで連続化はされず、あくまでモルタルの補強筋として位置付けている。
接続部の通信管路用の型枠は、まず円状にポリプロピレンシートを設置して形状を保持し、次にその外側に1mm厚のゴムを巻き、インシュロックで固定する。その上で上からモルタルを打設して接続する。供試体では通信管路1本につき5分弱で接合した。
なお、モルタルの現場打設は、透明のFRP型枠を使うことで、打設状況を目視で確認できるようにしている。
耐衝突性能 「壁高欄の耐力相当」の3割増しの衝撃にも耐える
通信管路がある薄い構造でも十分な性能を証明
耐衝突性能の確認
耐衝突性能の確認はNEXCO試験法441-2019の「プレキャスト壁高欄の性能試験方法」に基づき、緩衝ゴム材を挟んで重錘を壁高欄に衝突させる手法に基づいて実験した。設計荷重相当の衝撃は3kJ(車両質量25tの大型車が65km/hで、角度15°で壁高欄に衝突した場合の衝撃相当:規定値2.8kJ)で実施したがほとんど、損傷は見られず、次いで「場所打ち壁高欄における耐力相当」として30kJ相当の衝撃(規定値28kJ) を与えたがそれでもほとんど損傷が見られず、36kJの衝撃試験を2回行い漸く大きな損傷が見られた。よって、通信管路があるため通常の壁高欄よりコンクリートの抵抗断面厚が薄い構造であり、その構造の中でも後打ちモルタル部のため最も弱いと考えられる接続部においても、通常予想される衝突事故では損傷が生じないことが実証された。
通信管路を内包した供試体の試験前に通常の壁高欄でも試験している
3kJ(左)および30kJ(右)の衝撃試験ではほとんど損傷が見られなかった(下)
36kJ相当の衝撃試験1回目でようやく円状のひび割れが分布し
同2回目で漸く接続部近傍に大きなくぼみが生じた
同社では、大規模更新の橋面上での工期を短縮できる製品として積極的に適用を図る方針だ。(2020年8月19日掲載)