床版架設前に壁高欄を構築するフルキャスト壁高欄で工程短縮
NEXCO西日本 中国道・大谷橋で半断面床版取替工法を採用
西日本高速道路(NEXCO西日本)中国支社は、中国自動車道の作東IC~美作IC間に位置する大谷橋(上り線)の床版取替工事を実施している。本工事の最大の特徴は、半断面床版取替工法を用いて、上り線1車線の交通を確保しながら施工することだ。これはNEXCO西日本管内では初の事例である。5月中旬から着手した追越車線側の1期施工は8月上旬に完了し、8月下旬からは走行車線側の2期施工に取り掛かる(12月上旬完了予定)。2016年に行われた同道・道谷第二橋(上り線)での試験施工からの変更点や安全対策などについて取材した。
供用後44年経過の橋長106.5mの鋼3径間非合成鈑桁橋
凍結防止剤散布の影響により床版下面に損傷が発生
橋梁概要と損傷状況
大谷橋(上り線)は、一級河川吉井川水系杉坂川と市道大谷田原線を跨ぐ橋長106.5m、総幅員10.0m(有効幅員9.11m ※床版取替後の幅員)の鋼3径間非合成鈑桁橋。平面線形はR=600m、横断勾配は中分側へ上り5.0%、縦断勾配は作東ICに向かって上り0.35%となっている。同橋を含む作用IC~美作IC間上下線の2017年度平均交通量は、約12,500台/日で、大型車混入率は約34%である。
大谷橋全景(NEXCO西日本提供。以下、注釈なき場合は同じ)
橋梁一般図
1975年10月の供用から44年が経過していて、建設時の床版厚は200mmだったが、1996年度に10mm切削して鋼繊維補強コンクリートでの50mmの増厚を行って床版厚240mmとしている。同時に、床版補修と防水工、高機能舗装Ⅰ型の施工も行った。
母床版と増厚の界面剥離は確認されていないが、アスファルト舗装面には部分的にポットホールの発生、床版下面にはひび割れや浮き、剥離、鉄筋露出などの損傷が確認されている。
舗装面と床版上面の状況
床版下面の状況
作東IC~美作IC間の凍結防止剤の散布量は約120t/年で、同橋近傍の橋梁では塩化物イオン量が健全部で平均2.34kg/m3、損傷部で最大2.60kg/m3と発錆限界値を超えていた。同橋も同レベルにあると推察され、「凍結防止剤の影響による塩害により、鉄筋の腐食などが進行したものと考えられる」(NEXCO西日本)ことから、抜本的な対策としてプレキャストPC床版への取替えを行うこととした。面積は、A1~A2の全径間で1期・2期施工あわせて961m2だ。
現場は上下線セパレート区間でICが近接
ICの閉鎖を防ぐため半断面での施工を採用
半断面床版取替工法の採用
床版取替工事では、対象車線(本工事では上り線)を通行止めのうえ、反対車線を対面通行にして、全断面で施工することが一般的だ。しかし、同橋周辺は上下線がセパレート区間となっていて、さらに同橋に近接して作東ICがあるために、対面通行規制を実施すると規制区間が長くなるととともに、作東ICを工事期間中閉鎖しなければならなかった。そこで、「作東ICへの出入りを考慮した上で、最良の方法として半断面での施工を採用した」(NEXCO西日本)という。
上下線が高低差のあるセパレート区間となっている(大柴功治撮影。以下=*)
今回採用した半断面床版取替工法は、NEXCO総研と本工事の施工者であるピーエス三菱が共同開発したもの。片側1車線の交通を確保できるために、本現場のように閉鎖が難しいICやSA/PA付近に用いられる。
壁高欄と同等の耐力を有する鋼製防護柵を設置
ガイドキーと床版架設機を改良
試験施工からの変更点
NEXCO西日本は2016年に中国道の道谷第二橋(上り線)で半断面床版取替工法の試験施工を実施している(施工は今回の工事と同じピーエス三菱)。試験施工は上り線を通行止めにして行われたが、本工事では1車線を供用しながらの施工であるため、安全対策として橋梁区間に鋼製の支柱式防護柵を設置した。これは、床版撤去時に一時的に床版がなくなる場面が生じるが、その際の走行車両の規制内進入による転落を防ぐとともに、施工者の安全確保が目的だ。防護柵は神鋼建材工業製で本工事のための特注品で、壁高欄と同等の耐力を有するSB種相当となっている。
鋼製支柱式防護柵の設置
施工時の鋼製支柱式防護柵(*)
設置にあたっては、車両衝突の際にアンカー止めでアンカーが先に壊れるかどうかの静的載荷試験を行って性状の確認を行った。さらに、防護柵が設置される張出床版には交通荷重および防護柵への衝突荷重が考えられたため、その耐力照査確認で床版内部の水平クラックの非破壊調査も実施している。振動に対する対策としては、既設床版撤去時の振動が供用車線に伝わらないように、事前に縦目地の設置を行った。
半断面床版取替工法では、2期施工で1期施工分との床版接合が必要となり、縦目地部に接続ガイドキーを用いるが、その改良も行っている。試験施工時には、ガイドキーのオスメスを違うメーカーで製作していたことから製作精度に誤差が生じてしまったため、今回は同じメーカーで製作した。メスキーの材質についても試験施工ではセラミック製で割れる可能性があったため、炭素繊維を巻いて補強をしたが、POM(ポリアセタール)製に変更したことで炭素繊維補強を不要とした。形状も試験施工では、ガイドキーに抜き勾配が付いていたが、水平としている。
試験施工時のガイドキー(左/弊サイト掲載済み)と本工事でのガイドキー(右)
新設プレキャストPC床版側面。
PC鋼より線を挿入するための孔(黄色丸囲み部分)とガイドキーのメス部分(赤四角囲み部分)
床版の撤去・架設は専用の門型形状の床版架設機を用いるが、撤去・架設後に次の撤去・架設を行うためには移動する必要がある。その移動時間短縮のための改良として、①試験施工では自走ができず、前方からチルホールとチルタンクを使用して牽引していたが、後輪駆動での自動走行を可能にしたこと、②各脚間の水平度をセンサーで感知、制御することで架設機本体のレベル保持を自動化したこと、③転倒防止のフェイルセーフとして、脚部4点をワイヤー固定すること――を行っている。
据付が完了した床版架設機