縦締めPC鋼材と壁高欄一体型PCaPC床版の採用
最大58本のPC鋼材を配置 シースの仕口合わせが難しい
特徴は、縦締めPC鋼材を用いることによる間詰部の極小化と施工期間の短縮、二方向PC構造にすることによる床版の完全PC化と壁高欄一体型プレキャストPC床版の採用である。間詰部を極小化し、さらには壁高欄も一体化したプレキャストブロックにすることで、橋上での工期を「二週間程度短縮することができた」(元請の富士ピー・エス・安藤・間JV)。
プレキャストPC床版構造図③/PC鋼材配置図①
PC鋼材配置図②
PC鋼材配置図③
間詰部は極めて狭い(井手迫瑞樹撮影)/壁高欄一体型のプレキャストPC床版(NEXCO中日本金沢支社提供)
縦締めのPC鋼材を用いる際の難しさはシースの仕口合わせである。金沢支社以外の現場で、パネル同士を継手構造にするのは、この継手部の仕口合わせを行う際にバッファが十分取れることがその採用動機の1つだが、縦締めの場合、間詰部が極端に狭くできる長所とトレードオフの関係で仕口合わせが非常に難しい。それはシースの仕口合わせに他ならないからだ。シースの内径はφ25mm(ここではφ21.8mmのPC鋼材を用いている)しかなく、これが通常版で29本、定着版では58本配置されている。
縦締めPC鋼材は通常版で29本、定着版では58本配置されている(NEXCO中日本金沢支社提供)
補助シースを用いる
金鉄治具を倍以上に増やす
左右の壁高欄を端に満遍なく配置されており、この仕口を全て合わさねばならない。そのため架設した床版側のシース先端にはφ28mmぐらいのフレキシブルに動く補助シース(右写真<NEXCO中日本金沢支社提供)を刺しておいて、それにまず差し込みガイドとして使って支口を合わせる。クレーンだけで穴を合わせるのはかなり難しい。こうした差し込みガイドは九頭竜川橋から使い始めた。
前田建設工業が施工した縦締め構造を採用した太田川橋床版取替工事では、このガイドにドーナツ状のスポンジを入れていた。ドーナツ状の形状だと、床版がずれた時にスポンジが潰れてしまって、うまく入らなかったため補助シース(栗本鐵工所製)はその代わりに用いたもの。
しかし、「29本ないし58本装着するとなかなか動かない」ため、やはり最終的にはクレーン操作と、地上の手による支口合わせに細心の注意を払っている。さらに床版架設の際に仕口が変形すると、目地モルタルがシース内に入り閉塞することからPCグラウト注入に支障が出てしまう。そのためシースの金鉄治具を倍以上に増やしたのと固定治具も動かないように再度ボルトで縫う様に工夫したりして、極力ケーブル自体のずれが出ないようジョイントシースの直線性を保てるように、改善した。
慎重に仕口を合わせなければならない(NEXCO中日本金沢支社提供)
縦締めPC鋼材の緊張作業
グラウト注入および床版間の間詰工
高い製作精度を要求
高欄の工場製作時の型枠の固定方法を改良
製作面でも、工場サイドにはシースのずれにより生じる架設上の課題や調整のし辛さを入念に伝え、高い製作精度を要求した。検討会を開いて、現場と工場とで、議論して、A1~P5間の課題を反映して精度の良いパネルが作られた。
プレキャストPC床版の工場製作 ①配筋状況(NEXCO中日本金沢支社提供)
プレキャストPC床版の工場製作 ②コンクリート打設状況/冠水養生(NEXCO中日本金沢支社提供)
プレキャストPC床版の工場製作 ③脱型状況/シース位置の確認(NEXCO中日本金沢支社提供)
さて、次の課題は壁高欄である。平面線形や勾配、キャンバーの影響などで上下や壁面のラインが微妙にずれる懸念がある。記者が取材した際も、A1~P5間の壁高欄は微妙にラインがずれているきらいが見られた。その反省を踏まえて、高欄の工場製作時の型枠の固定方法を改良した。特に斜め版であると壁高欄の断面に対して、妻枠を斜めに入れなければならない。昨年度はその固め方が甘かったせいもあって精度があまり良くなかった。そのため、シース端部を固定する座金をコンクリートの振動でも緩まない構造にしたり、角度変化にも対応できるよう型枠の止め方の構造を改良して精度向上に努めた。
壁高欄の製作状況(NEXCO中日本金沢支社提供)
A1~P5の壁高欄は通りの悪い個所も見られたが、P5~A2の通りは大きく改善されている(井手迫瑞樹撮影)
また、床版と桁の一体化はオーソドックスなスポンジシール(モルトメール)を使用している。ただし裏面にフィルムがコーティングされている。これはシースの仕口合わせのため、クレーンで吊られたパネルをぎりぎりまで落として手前に横スライドして落としていかないといけないためだ。そのため上面がナイロンコーティングされたようなスポンジを採用することで、パネルが滑りやすくかつ、型枠も損傷しにくくなるよう配慮している。
ナイロンコーティングされたようなスポンジを用いて一体化(NEXCO中日本金沢支社提供)
ジョイント部の施工状況
高性能床版防水を採用
舗装表層は高機能舗装Ⅱ型用混合物(寒冷地用)
床版防水はグレードⅡを採用している。具体的にはニチレキのHQハイブレンAU。舗装基層はFB13、表層には高機能舗装Ⅱ型用混合物(寒冷地用)が用いられている。高機能舗装Ⅱ型用混合物は改質アスファルトを使用し、アスファルト量は5.3%である、表面は高機能舗装と同等のキメ深さを持ち、内部は密粒系の舗装と同等の密実性を持つ、耐久性と機能性に優れていることが特徴。防水工は4日、舗装基層1日、表層1日で施工する予定だ。
床版防水工
舗装工
橋梁全体で18,200m2を塗替え
塗膜剥離剤は『NE-1』を用いる
床版取替以外のメニューとしては、鋼桁補修をP5~A2で18箇所(A1-A2全体では57箇所、主に下フランジ部で生じている腐食による減肉箇所を当て板補修)で施工、塗装塗替えはP5~A2で約6,700m2、A1~P5合わせると18,200m2で行う。現在はA1~P4(11,000m2)塗替え塗装を施工中だ。素地調整は1種とした。既存塗膜500μm程度でありPCBおよび鉛を含有しているため、塗膜除去は塗膜剥離剤(ネオス『NE-1』)を使用して除去し、その後ブラストで素地調整した。塗膜剥離剤は2~3回の塗布としている。検査路も塗装完了後に現行基準に合うよう追加設置する。
塗膜剥離工
塗替え工の施工
塗装に関しては、東名の火災などを受けて、安全対策を充実させている。場内空気循環はプッシュブル方式を採用。4主桁の3隔間にすべて機械を投入して、空気循環している。火災報知機等は作業エリアに連動式の火災報知機を付けて遠くに離れている人でも聞こえるような配置をしている。ガス検知器も可燃濃度の25%で警報が鳴るように設定し、避難の周知をしている。夏場を迎えての暑さ対策は、冷感式ウエア+保冷剤を付けられるチョッキを着て対応している。
最盛期は元請側技術者が10人、技能者は110人が現場に入った。
元請は富士ピー・エス・安藤・間JV。一次下請はアイピーエス(床版取替工)、青木重起(クレーン、PC床版運搬)、光和(足場工・塗装塗り替え工)、辻広組(防水・舗装工)、下東建設(断面修復工)、コンクリートコーリング(WJ)。
(2020年8月5日掲載)