中日本高速道路金沢支社は、北陸自動車道の福井北JCTから約1km北にある、福井市北野上町の九頭竜川渡河部に架かる九頭竜川橋上り線の更新工事を進めている。昨年度までにA1-P5の床版取替を完了し、現在はP5-A2間の取替(1,773m2)を進めている。現場へは3月中旬に入り、足場養生を実施した後、5月21日から7月28日までの68日間、下り線を対面通行規制にして、上り線床版の取替など行っている。同現場を取材した内容をまとめた。(井手迫瑞樹)
増厚後も再補修を行った形跡
既設と増厚の界面剥離が見られる
同橋は1975年9月9日に供用された。交通量は26,942台/日、大型車混入率は30.4%と多く床版支間も3mあり縦桁も未設置だが、「疲労由来の損傷見られない」(NEXCO中日本金沢支社)。2007年に床版増厚を行ったが、それにもかかわらず最近の調査では床版上面には少なくない数のポットホールが検出されていた。床版下面はひび割れが生じており、漏水や遊離石灰が見られる(右写真)。舗装を剥いだ後の床版を見るとかなりの範囲で増厚後も再補修を所々で行った形跡がある。遊離石灰や漏水は増厚後も点検で確認されている。顕著な補修後の損傷として、既設と増厚の界面剥離が見られた。
母床版と増厚界面の接着剤は未塗布のようで、特に壁高欄近傍で床版撤去時も増厚の界面が剥離していることが確認できている。ただし上フランジ上面の腐食は見られなかった。防水工は増厚時に設置し、5㎝の密粒アスファルト舗装を設置している。床版支間は3.0m。疲労由来の損傷は見受けられない。今回抜本的対策として、床版厚220mmのプレキャストPC床版に打ち換える。ここでは、施工期間短縮と施工性向上などを目的として、PC鋼材による縦締め緊張を採用している。
再補修の範囲がよくわかる(井手迫瑞樹撮影)
70°の斜角を有する
九頭竜川橋(上り線)は、橋長454.9m、全幅11.4m(有効幅員10.51m)の鋼3+2+3径間連続非合成鈑桁橋(4主桁)で、平面線形はR=3,500m(クロソイド)、縦断勾配はP3-A2下り勾配1.54%、横断は路肩側から中分に向かって2.5%上り勾配である。既設床版厚は当初210mmであるが、2007年の床版増厚において40mm削り80mm増厚し、床版厚は250mmとなった。その際に床版防水工や舗装打ち換えも行っている。しかし、冒頭で記したように当時は床版はつり時の表面もそれほど平滑ではなかったことが推定され(不陸が多く)、新旧界面の間に、現在のような接着剤を塗布するようなこともしなかったため、付着強度が低くなる箇所もあり、写真のように断面修復材を用いて少なくない範囲を再補修している。桁は斜角(70°)を有している。
九頭竜川橋遠望/斜角が入っていることが分かる(井手迫瑞樹撮影)
基本的な施工フロー(右フロー図、NEXCO中日本金沢支社提供、図表類以下注釈なきは同)は、まず路面切削を行い、伸縮装置を撤去した後、下り線と隣接する側の壁高欄および地覆を切断し、既設床版を縦横断にロードカッターやコア削孔した後、220tクレーンを組み立てる。さらにジャッキアップ治具をセットしてセンターホールジャッキで床版を桁から引き剥がした後、スラブアンカーを溶断し、既設床版をクレーンで吊り上げて後方のトラックに載荷して場外に搬出する。露出した桁の上フランジ上面をきれいに研掃し、防錆処理を施した後、桁と床版を一体化する箇所のノロ止め工を設置(モルトメール)して新設床版を架設する。そして床版パネルを一体化するための縦締緊張を行うため、PC鋼材を挿入した後、目地モルタルを打設し、緊張を行い、スタッドジベルを溶殖して鋼桁と床版間のモルタルを打設してスタッド孔を充填する。これらの一連の工程を径間ごとに行っていく。
クレーンは200tトラッククレーンを用いて、A2からP5方向に片押しで施工していく。基本的に午後から夕方にかけて撤去~上フランジ上面の塗装養生を行い、翌午前中に床版を架設するというタイムスケジュールで1日当たり8枚撤去、4枚架設を繰り返していく。
切断状況(左:NEXCO中日本金沢支社提供、右:井手迫瑞樹撮影)
撤去の順番をふっている(井手迫瑞樹撮影)
中分側の地覆及び壁高欄は乾式ワイヤーソーを用いて撤去
なお、中分側の地覆及び壁高欄は乾式ワイヤーソーを用いて撤去する。下が九頭竜川のため、養生用の水が滴下するのを防ぐためだ。粉塵養生は、施工中に切断箇所に覆いを設けて、切り口にはバキュームを付けて粉を吸いながら施工していった。同様に床版切断の際のロードカッターは、床版下に樋を付けて養生した。床版切断は2回に分けており、最初に15㎝ほど刃を入れて、その際は湿式で施工してガラと水を上からバキュームして施工する。最後に施工する時は、養生用の樋にカッター切断に使う水が流れるようにして、切断の際に水が下に落ちないようにした。
床版の撤去状況(井手迫瑞樹撮影)
床版撤去時の桁養生/床版撤去時および架設時は供用中の道路の影響を与えないよう川側にブームを振る(井手迫瑞樹撮影)
新設床版を73枚配置 突起版は4枚
端部は、A2側で800mm、P5側で1,000mm長の場所打ちが必要
撤去パネル寸法は、橋軸方向が2,200~2,350mm、橋軸直角方向は5,500~5,950mm(全幅を半割で施工)、枚数は146枚、1枚当たりの重さは7.53~7.71t。新設床版は壁高欄まで一体製作した73枚を配置、トン数は標準版51枚が約20t、定着突起版(PC鋼材の緊張定着を床版下面に有する版)4枚が約25t。継手数は72箇所、継手長さは28mmとなっている。縦締めを行う際に1径間ごとの緊張を行うが、たすき掛け上にPC鋼材が配置されるため、突起版は4枚となる。端部(橋台部は)の緊張は端部固定とした。エポキシ樹脂塗装鉄筋は床版・地覆・高欄全部で使用。かぶり厚は床版が50mm、壁高欄が70mm。モルタルは無収縮モルタル(設計強度50N/mm2)を用いる。
プレキャストPC床版割付図①(以降、図はクリックして拡大できます)
プレキャストPC床版割付図②/プレキャストPC床版構造図①
床版の架設①(NEXCO中日本金沢支社提供)
床版の架設②(NEXCO中日本金沢支社提供)
斜角を有するが、中央部は直角版のパネル配置で、端部付近を調整版と平行四辺形版を8枚配置している。A2とP5側は直角から70°への斜角対応を各8枚で徐々に調整していくものだ。それでもなおA2およびP5の端部は、A2側で800mm、P5側で1,000mm長の場所打ちが必要となる。
プレキャストPC床版構造図②
床版設置状況/定着部の表示がなされているパネル(井手迫瑞樹撮影)