FC船による相吊架設とジャッキ搭載台船による架設を実施
東京都 隅田川テラス連続化事業でステンレス橋2橋を架橋
東京都建設局は、隅田川沿いに設置されている遊歩道「隅田川テラス」を連続化する整備事業で、月島川水門部および大島川水門部に架かる橋梁の桁架設を4月15日と23日に行った。両橋では主部材にライフサイクルコストに優れる省合金二相ステンレス鋼(SUS821L1)が採用された。二相ステンレス鋼を主部材に適用した橋梁は、国内ではまだ2事例しかなく、橋長が約40m~50mのものでは初めての架橋だ。両橋の桁架設までの工程をまとめた。
橋長が50m近い二相ステンレス鋼の橋梁は国内初
ライフサイクルコストを勘案 部材はSUS821L1を採用
橋梁概要と採用部材
隅田川(月島川水門)テラス連絡橋(以下、月島川水門橋)は橋長39.5m、有効幅員3m、隅田川(大島川水門)テラス連絡橋(以下、大島川水門橋)は橋長47.5m、有効幅員3mの人道橋で、いずれもステンレス鋼単純木床版鈑桁橋だ。両橋とも直線橋で、大島川水門橋の縦断勾配はレベルだが、月島川水門橋は船舶航行のために支間中央が約1m高くなっている。
月島川水門橋(左)と大島川水門橋(右)の上部工構造一般図(東京都提供。以下、注釈なき場合は同)
両橋の最大の特徴は、上部工の主部材に二相ステンレス鋼を使用したことだ。これは、同じく隅田川テラスの一部を構成する清澄排水機場部に架かるテラス橋(橋長18m)、および復元にあたり水中梁に二相ステンレス鋼を使用した史跡鳥取城跡擬宝珠橋に次ぐ事例となるが、橋長が50m近い橋梁としては国内で初めてとなる。部材は、両橋ともに日鉄ステンレス製の省合金二相ステンレス鋼(SUS821L1(NETIS:QS-120023-VE))を採用した。
月島川水門橋。ステンレス特有の光沢を放っていた(大柴功治撮影、以下=*)
ステンレス鋼には、Ni(ニッケル)を含まない「フェライト系」や、SUS304などの一般的なステンレス鋼として知られるニッケル(Ni)を含む「オーステナイト系」などがあるが、省合金二相ステンレス鋼は、Cr(クローム)を25%程度増やし、Ni(ニッケル)を5%程度に減らすことにより、フェライトとオーステナイトがほぼ半々の二相組織としている。
二相組織とすることで、SUS304の約2倍の強度と約40%の軽量化を実現とするとともに、ステンレス鋼のコストを左右するNiの含有量を減らすことで経済性を確保した。さらに、SUS304と同等の耐食性があり、溶接がしやすいというオーステナイト系の特徴を持っている鋼材で、ダムや水門をはじめとした土木構造物での採用が増えている。
東京都では部材選定にあたり、「100年程度使用する想定のもと、ライフサイクルコスト(LCC)を勘案してステンレス鋼の採用を決定」している。100年間のLCCの試算では、通常の鋼桁と比較してステンレス鋼では若干経済的となる結果になったという。
また、両橋では船舶の航行があるが、桁下クリアランスが特に月島川水門橋では1m程度と小さく、塗装塗替え時の足場設置が難しいために、塗替えが不要な部材である必要があったことや、水門の門扉も維持管理の観点からステンレス鋼が増えていることも採用の理由となった。
周辺の景観に配慮して主桁断面は溶接での接合
1橋目の製作・施行会社へ積極的なヒアリングを設計に反映
設計
両橋のデザインは、江戸情緒を模した水門と調和するように木床版や桁側面に化粧板を設置し、ボルトが剥き出しにならないように主桁断面は溶接での接合を行うなど、周辺の景観に配慮して設計された。さらに、橋中央部を0.5m拡幅して溜まり空間を設けることで視界が広がるとともに隅田川の水面を見ることができ、水との一体感を得られるような工夫も行っている。
月島川水門と大島川水門
月島川水門橋の完成イメージ図
大島川水門橋の完成イメージ図
構造設計にあたっては、二相ステンレス鋼による橋の施工事例は水中梁での採用の史跡鳥取城跡擬宝珠橋を除けば、過去に清澄排水機場部に架かる1橋しかないことから、日本鋼構造協会が作成した「ステンレス鋼土木構造物の設計・施工指針(案)」のみに頼ることなく、「1橋目の製作・施工会社へ構造や溶接の詳細などのヒアリングを積極的に行い、設計に反映した」(設計担当のパシフィックコンサルタンツ)という。
両橋とも人道橋としては橋長が長く、歩行時に共振が生じることも設計上の課題となった。そのため、固有振動数が規定値を超えないように、歩行者の歩調による共振に配慮して主桁の断面寸法を決定していった。また、月島川水門橋は支間中央が1m高くなっているため、縦断勾配が8%を超えないように傾斜路や踊り場を配置する複雑な縦断形状を考案しなければならなかったことも設計で苦労したことだ。
矯正作業が難しいため、溶接時のひずみを極力発生させないように作業 地覆角部の折り曲げに苦労
桁製作
桁の製作は2019年9月から着手した。桁製作・上部工工事の元請である矢田工業では、部材が炭素鋼よりも硬質なステンレス鋼であることを考慮して、ステンレス鋼の切断、加工、製作の実績を持つ一次加工会社の協力を得ながら製作を進めた。
製作はプレス機器の大きさに制限があり、2主桁の月島川水門橋では橋軸方向6.7m~9mの10ブロック、3主桁の大島川水門橋では同6.23m~11mの15ブロックに分割して行った。硬度が高いステンレス鋼では矯正作業が難しいため、溶接時のひずみを極力発生させないように細心の注意を払って作業を進めるとともに、横桁に添接部を2箇所設けてひずみを吸収する設計上の工夫も施した。
地覆(板厚6mm)の角部は全延長でR=30をつけて90°折り曲げなければならず、加工にあたり苦労したことのひとつとなった。鋼材の折り曲げ時にはスプリングバック(曲げ戻し)が発生するが、硬質な鋼材ではより大きなスプリングバックが発生する。そのため、スプリングバックを考慮して、これまでのノウハウから90°以上の角度を設定して折り曲げ加工を行い、さらに曲げ半径としては非常に小さいR=30もR30の押型を使いスプリングバックを考慮して仕上げていった。
また、3主桁の大島川水門橋では、主桁同士を斜めに繋ぐ横構の取り合いに注意したほか、斜角があるA2側支承部に変位制限装置があり、部材同士が近接しているために溶接と仕上げに苦労したという。
完成した各ブロックは郡山にある矢田工業本社工場で仮組立を行い、放射線透過試験と超音波探傷試験を実施後、千葉県内のヤードに陸送して地組みした。主桁断面と横桁の上フランジは溶接、横桁のウェブ・下フランジはステレンス鋼(SUS630)高力ボルトで接合を行った。溶接の際には熱による影響を最小限に抑えるべく、溶接管理記録を作成して管理を行った。地組後、非破壊検査を再度実施している。
月島川水門橋(左)と大島川水門橋(右)の地組
現場溶接は風防設備を設置して行った。月島川水門橋(中央)と大島川水門橋(右)の溶接工
ボルト取付とレントゲンによる非破壊検査
月島川水門橋。横桁のウェブと下フランジ部がステンレス鋼ボルトで接合されている(*)