カプセルホウ・パイラ工法、官民の連携で難工事を完工
徳島河川国道 新町川橋で80mの鋼管矢板井筒基礎を施工
「傾斜」という最大の障害の排除
80m付近までの測定に成功
傾斜の測定
本工事では精度(傾き)の目標値を本来の仕様書記載の規格値(100分の1)よりさらに厳しい150分の1とした。「単杭であればそれで良いが、矢板の場合は継手があり、所定の形状に対する締切を確保し、確実な止水性能を担保しなければいけない。井筒の中を掘削し、フーチングを構築する時の作業員の安全を確保しなければいけないため」(安藤・間)だ。止水方法として標準的に採用されているのはボーリングやWJで継手管を洗浄してセメントミルクを充填する方法だが、そのためにもホースや鋼管を継手管の中に挿入する必要があり、鋼管矢板の鉛直性確保は至上命題となる。
そのためには傾斜の確実な測定が必要だった(左写真は測定状況)。測定方法は鋼管の中にセンサーを下ろして超音波測定するしかなかった。一般的には深さ50m程度しか計測できない方法で、実際は内部の水の濁りもあり、45mぐらいまでしか計測できないことが多かった。「せめて70mまで測って傾斜の傾向を確かめなければ締め切るためにどんな対策を打てばいいかわからない」(安藤・間)。現在の測定器では図ることができない、とメーカーにも断じられた。しかし諦めずに試行錯誤した結果、センサーを下ろしていくスピードと超音波の強さをゲージで調整していくうちに、ある組み合わせで80m付近まで測定することに成功した。「幸運だった」(同)。この計測によって五里霧中が晴れ、「傾斜」という最大の障害が解除された。
閉合杭の確実な打設のため7本ぐらい前からゴールに向かって調整
傾斜精度は概ね250分の1以下に収める
もっとも、微調整なしで測定できるわけでは無い。管の傾斜によっては同じやり方でもデータが出ないこともあった。「メーカーに聞くとセンサーと鋼管の位置が近すぎると超音波が乱反射してしまうのではないかと助言されたため超音波の強さを微調整するなどして、1本1本傾斜の曲がっている方向や精度を確認し」(同)、次の杭の施工に生かしていった。出てきた値はmm単位で信用してはいなかったが、傾斜の傾向は信用して±3㎝程度の誤差で施工していくと腹を決めた。その誤差は本管ではなく継手管のクリアランスを調整することで対応した。懸案の閉合杭は、「確実に入れるために7本ぐらい前からゴールに向かって調整をしていくことによって対応した」(安藤・間)。しかし、2カ所の閉合杭の内、1カ所はカプセルホウ・パイラ工法のみで閉合できたが、もう1カ所はピッタリとは嵌らなかった。「元々65mはカプセルホウ・パイラにより圧入できると直感しており、15m弱は高止まりする可能性があると懸念していた。高止まりして圧入できなくなった場合は、事前に国土交通省と相談し、油圧ハンマーを使用する許可を得ていた。実際の高止まりは4mほどしか発生せず、油圧ハンマーで打ちこみ、無事施工を完了することができた」(安藤・間)。傾斜精度も100分の1どころかおおむね250分の1以下の精度に収めた。
この測定技術はマニュアル化できないのか、単純にハードの開発という点では難しいようだ。「率直に言って、本工事の施工の経緯が端的に示す様に、工事に携わる全ての技術者の経験、技術力、判断力に今後も頼らなくてはいけない。一足飛びに80mまでも確実に測れる機械を開発するとか、既存の機械で、様々な現場で普遍的に測定できるマニュアルを作るというのは難しい。これまで蓄積された技術や知識を大事にして、現場に即応できる『人』を育てることで対応していくことがまず重要だと考えている」(横山基礎工事)。
「夜を日に継いで」施工
精度管理が容易なカプセルホウ・パイラ
上記のような様々な試行錯誤を経て、最終的に1本あたりの杭の施工は1接ぎ12時間、合計7接ぎを要したため都合84時間程度かかるものとなった。当初計画では1本当たり7日間での施工を想定していたため、ロスを取り戻すべく、実際は夜を日に継いだ。鉛直精度を管理するため抜いてやり直しすることも度々あった。測量も(施工者とは)別に用意し、必ず2方向から見て、少し下げるたびに精度を確認し、必要であれば修正した。実務的には、その修正もカプセルホウ・パイラ工法は容易だったようだ。「パイラーは鋼管を掴んで上げ下げすることは簡単にできるし、油圧ジャッキで傾斜も修正できる。バイブロハンマーでは抜く際はまっすぐ抜けるが斜め前に倒すなどの細かな修正は難しい。パイラーはそれもできる」(安藤・間)。その結果が、目標値をはるかに上回る250分の1以下の精度の実現と鋼管矢板井筒基礎の無事完成として実った。
施工が完了したP2橋脚の鋼管矢板井筒基礎
記者が取材した3月末には矢板内の水が抜かれ、 エポ鉄筋(明希製『MK-エポザク』)が配筋され、コンクリートの打設が始まっていた
今後
下部工の工期を取り戻すために、中空橋脚の内型枠は超薄型鋼製埋設型枠『E-パネット工法』を採用している。また、桟橋の撤去を早めるために100~150t吊級の起重機船を用いて海上作業を行う予定だ。
また、上部工の中央径間部は大型起重機船『武蔵』(深田サルベージ建設)や『海翔』(寄神建設)を使って一括架設する予定だ。
下部工の元請は安藤・間。一次下請は横山基礎工事など。 (2020年6月3日掲載)