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JR中央本線を横架する神領橋 合成鈑桁の庄内川橋

NEXCO中日本 東名道 庄内川橋・神領橋(下り線)の床版を取替

公開日:2020.03.23

 中日本高速道路名古屋支社は、東名高速道路の春日井市・名古屋市境に架かる庄内川橋とJR中央本線と引き込み線を跨ぐ個所にある神領橋(両橋とも下り線)の更新工事を進めている。現場へは7月中旬に入り、足場を設置した後、1月24日から3月12日までの50日間、上り線を対面通行規制にして、下り線床版の取替など行っている。両橋はいずれも1969年に供用されたのであるが、重交通(2018年の名古屋IC~春日井ICは58,000台/日で大型車混入率は約30%)下の疲労により、床版下面に鉄筋腐食によるコンクリートの剥落や遊離石灰、ひび割れなどの損傷が発生している。また、鉄筋近傍の最大塩化物イオン濃度は3.4kg/㎥(神領橋下り線)に達している。そのため抜本的な対策として、床版厚220mmのプレキャストPC床版に打ち換えるものだ。ここでは、部材厚を薄く抑えるため、エンドバンド継手(間詰幅は385mm)を採用している。また、補強鋼板を設置するための塗膜剥離処理にはIH工法を使用している。その現場を取材した。(井手迫瑞樹)

庄内川橋 過去に疑似箱桁形式化
 両橋とも主桁間の中間部に縦桁を設置して補強

 庄内川橋(下り線)は、橋長188.5mの鋼単純合成鈑桁橋(A1~P1)+鋼4径間連続合成鈑桁(P1~A2)で、平面線形はR=1,200、縦断勾配0.71%、横断勾配4%(右下がり)である。既設床版厚は最小170mmで最大(中間支点部)が210mmとなっている。桁は斜角(A1:66°、P3:79°、P4:76°、A2:69°)を有している個所がある。2004年には既設主桁を桁間の底部に板を付けて疑似箱桁形式するなどの補強を施している。今回の床版取替対象区間はP1~A2間167.45mで取替面積は2,086.98㎡となる。一方、神領橋は橋長114.95mの鋼3径間連続非合成鈑桁橋(P8~P11)である。平面線形はA=800、縦断勾配は0.32%、横断勾配は4%(右下がり)となっている。桁は多少ではあるが斜角(P8:74°、P9:76°、P10:78°、P11:84°)を有する。下り線は1997年に既設床版厚170mmから60mmの増厚を実施しており、01年には既設主桁の補強を実施している。
 両橋の主桁の補強は、いずれも主桁間の中間部に縦桁を設置したもの。なお横桁間隔は庄内川橋で2.6mピッチとなっている。

利便性確保目的に両橋間に長大仮橋を設置
 RC中空床版部に損傷が目立つ

 施工にあたって、庄内川橋の既設床版の搬出や資機材搬入等各種車両の利便性を確保するため、両橋の上下線の間に写真のような長大な仮橋を設置している。当日は、そこから現場に入ったが、その道すがら神領第二高架橋のRC中空床版部を見ると劣化がかなり進んでおり、一部でコンクリートの剥離、鉄筋露出も見られている。こうした個所も今後補修していくべきではないか? と感じながら現場入りした。


両橋間に架かる仮橋(井手迫瑞樹撮影)

RC中空床版橋の損傷状況(井手迫瑞樹撮影)

庄内川橋 床版撤去前に桁補強の必要
 補強部材は形状も大きさもまちまち

 さて、まず庄内川橋である。庄内川橋の床版取替工事上、最大の特徴は、同橋が合成鈑桁であることだ。桁だけでは成立しない構造であるため、事前に桁補強を施さなければならない。これに手間がかかる。格子解析により必要と見做された圧縮側の補強に用いるのだが、応力に応じて取り付けるため、一つとして同じ形状の部材がない。「枚数も幅も重量もまちまち」(元請の鴻池組・極東興和JV)なコの字型チャンネルの補剛材を高力ボルトで取り付けて、事前に桁を補強した上でないとそもそも床版の取替ができない。これを昨年12月からこの2月4日まで実に2か月かけて設置した。具体的には、既設床版撤去前に1次補強部材を設置し、既設床版撤去後に2次補強部材を設置した。また、各橋脚の頂部ある縦桁受梁(PC鋼棒を使用)があり、それと干渉する箇所については、その定着部を除いた上で補剛材を設置している。これもPC構造突出防止のための保護マットを設置した上で、慎重に施工した。また補剛材を取付けるにあたってはその部分の既設塗膜を除去しなければならない。

 
庄内川橋 橋梁一般図(NEXCO中日本提供)

庄内川橋の主桁補強図(NEXCO中日本提供)

桁補強施工状況(NEXCO中日本提供)

補強部材は1枚ずつ形状が異なる/桁補強箇所例(井手迫瑞樹撮影)


既存塗膜の構成(NEXCO中日本提供)

補強箇所の既設塗膜除去にIH(RPR工法)を採用
 下り線は10日、上り線も20日で完了

 そこで問題になるのは既設塗膜の除去であるが、現在は昨年11月の火災事故の影響で塗膜剥離剤が使えない状況下にある。そこで、沖縄自動車道で従事しているIH(RPR工法、一次下請:日本橋梁、二次下請:オーシャンテック)の技能者を、数週間だけ借り受け、塗膜剥離に従事させた。また、TCBボルトを用いる予定であったが、入手困難な場合はHTBボルトを代替として使用した。施工面積は下り線で350㎡、次回工事する上り線で915㎡であったが、下り線は10日、上り線も20日で除去できた。詳細に言うと、塗膜構成は写真の通りで、IHでジンクより上の有機塗膜層を剥離し、下地のジンクはディスクサンダーでケレンした。寒さに関わらず、養生も必要なく素早いスピードで施工できるため、「基本的には火災安全対策が済み次第、塗膜剥離剤を用いて施工するが、現場に応じて安全で施工しやすいものであれば、それを用いることを否定するものではない」(NEXCO中日本)としており、添接部や隅角部では施工しにくさが残るものの、それ以外の平滑部においては有効な塗膜除去法の一つと言えそうだ。


IHにより塗膜を軟化させ(井手迫瑞樹撮影)

スクレーパーによりスムースに剥がす(井手迫瑞樹撮影)

既設床版と桁をつなげていた馬蹄型ジベルが撤去上の課題に

 床版の撤去・設置はひと手間を有する。基本的には150tクローラークレーンを用いる。オールテレーンではなくクローラーを用いるのは、補強を要する合成鈑桁であり、できるだけ桁への荷重を分散させたいためだ。但し最初の撤去は合成鈑桁の外から100tオールテレーンクレーンで既設床版を撤去する。その後、1発目のプレキャストPC床版を載せて再合成桁化した後に150tクローラーを載せて、以降は同クレーンで撤去・架設していく。庄内川橋は桁と床版を結合している部材が存在しているため、高欄、張出床版、主桁中間部(3ブロック)、主桁直上(4ブロック)と小割にして撤去していく。特に主桁上においては、桁に損傷を与えないようにワイヤーソーを水平方向に向けて縁切りした後にクレーンで吊り上げた。その際、大きな課題となっているのが、主桁直上の馬蹄型ジベルである。当初主桁直上のコンクリートは湿式の水平カッターでジベルごと取り除く方針であったが、馬蹄型ジベルは、実に最大で120mm高に達し、厚みも相当に有するため、コンクリートを拘束し、最終的には、人海戦術を用いたブレーカーでのはつり、ガス溶断を余儀なくされた。


庄内川橋の床版撤去および床版架設要領図


馬蹄型ジベルは最大で120㎜高さに達し、厚みも有しており撤去上の障害になった(井手迫瑞樹撮影)

ガス切断およびブレーカーによるはつり状況(NEXCO中日本提供)

既設床版の撤去およびプレキャスト床版の架設(NEXCO中日本提供)

新設パネルは1日最大8枚架設
 合計73枚を施工 端部は橋軸方向分割版を設置

 その後、新しいPCaPC床版パネルを1日当たり最大8枚(1枚あたりは1.755m×12.77m、12.2t)架設していった。但し、斜角に対応するため、端部片側にはポステン方式の橋軸方向分割版を採用し、横締めした。こうすることで現場打ちに比べ、端部の工程を3日ほど縮めることが可能となった。床版撤去および架設は1方向(A2→A1)とした。これは神領橋も同じでプレキャストPC床版の搬入路が橋梁の片側に限られているためだ。撤去パネル数は173枚(1,252t)、設置パネル数は73枚(984.5t)となっている。取替面積は総面積で2,086㎡。


端部は縦割り分割床版を架設した(NEXCO中日本提供)

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