避難坑の背面空洞量は調査時の6倍。空洞には発泡ウレタンを注入
NEXCO中日本 安房トンネル本坑・避難坑の補修工事を進める
施工数量は、ひび割れ塗布工1,332m、ひび割れ充填工618m
ひび割れ導水工が274m、小片はく落対策工が1,289m2
本坑吹付けコンクリート区間の補修
安房トンネル本坑はNATM工法で掘削された。建設中の1995年2月に、長野県(中の湯)側の国道158号への取り付け道路付近で火山性ガスを含む水蒸気爆発が発生したことにより、中の湯側の坑口が当初計画よりも西側に変更されている。そのため、本坑の線形も当初計画の直線から曲線へと変更となり、その対応のために中の湯側坑口付近の92mが吹付コンクリート覆工区間となっている。
本坑では高熱帯区間で縦断方向にひび割れ・浮きが発生して対策を進めてきたが、高熱帯区間に位置する吹付コンクリート区間でも、内部の支保工沿いに横断方向のひび割れと漏水が発生していた。そこで、NEXCO中日本では避難坑の補修工事とあわせて、小片はく落対策工に着手し、下り線側は2018年12月に、上り線側は2019年8月に完了した。
本坑の吹付覆工区間と損傷状況
施工前の吹付覆工区間(左:下り線側/右:上り線側)
対策工では、まず付着力による耐久性を確保するための下地処理を行ったが、吹付コンクリートで凹凸が激しいため、WJですべての汚れを落とすなどの表面処理工を実施した。
本坑の施工概要図
WJによる表面処理工(左2枚)/施工完了(右)
ひび割れに対しては、0.2~0.5mm以下ではひび割れ塗布工、0.6mm以上はひび割れ充填工を行った。塗布工では、無溶剤型のエポキシ樹脂「アルファテック388」を塗布している。アルファテック388は、微細なひび割れにローラーや刷毛で塗り込むだけで毛細管現象(自己浸透)によりひび割れに浸透し接着する。
充填工では、ダイヤモンドカッターなどでひび割れを中心に深さ約1cm、幅約1cmにU型にカットし、健全部と縁切りした後に、プライマーを塗布し、シーリング剤「コニシ UカットONE」を充填していった。
ひび割れ塗布工
ひび割れ充填工
漏水が発生しているひび割れについては、ひび割れ導水工を実施。ひび割れを中心に深さ約3~4cmでV型にカットしてプライマーを塗布後、φ12mmのメッシュホースを溝に沿って配置し、ポリマーセメントでホースを埋め込んでいった。
吹付コンクリート断面での施工で、注入器の固定が不可能なためにエポキシ樹脂等の注入工法は採用できず、上記のような対策を行った。
ひび割れ導水工(左は完了時)
小片はく落対策工でも、凹凸断面で繊維シート系での対策が不可能だったため、コンクリートに塗布するだけで強度を発現するコーティング材「MBSクリアガード」を採用した。同製品は透明であるため、施工後のコンクリート表面を目視で確認できることも特徴だ。
計画では0.3kg/m2の2層塗りとしていたが、含侵率が悪く試験施工を繰り返して、0.8 kg/m2の1層塗りで施工した。また、ローラーでの塗布では吹付コンクリートで毛羽立ってしまうため、エアガンによる吹付けに変更している。
小片はく落対策工。MBSクリアガードの塗布
エアガンで施工した
下り線側と上り線側を合わせた施工数量は、ひび割れ塗布工が1,332m、ひび割れ充填工が618m、ひび割れ導水工が274m、小片はく落対策工が1,289m2に達した。
落石が発生している狭小な急斜面での施工で難工事に
落石防護柵設置工
長野県(中の湯)側の上り線坑口付近では、切土部の風化にともない落石が発生しており、NEXCO中日本の調査で既存の防護柵では延長などが不足しているため、新たな防護柵をハイジュールネット工法で設置する。崖に近い急斜面に100mの足場を設置して、ボーリングマシーンで削孔後、アンカーを定着させて支柱建て込み、ワイヤーロープ、ケーブルネット、および金網を設置する。
来年の連休明けからの本格着手に備えて、2018年11月にアンカー引張試験を実施したが、2箇所のうち、1箇所で設計強度である170KNに達しなかったため、さらに2019年10月に2箇所で削孔長を長くして追加試験を実施している。現場は狭小で落石が発生していることから、「非常に難工事になる」(ケー・エフ・シー)という。
落石防護柵設置工概要図
作業構台の設置
アンカー引張試験の鋼棒注入と試験の様子。現場は急斜面だ
水抜き坑工事
本坑と並走し、在来工法により掘削された水抜き坑でも、覆工厚不足と背面空洞によりひび割れ、はく落などの変状が発生していた。水抜き坑が破損した場合、本坑との離隔が10mもないため、本坑のロックボルトに影響が及ぶ可能性がある。そのため、NEXCO中日本ではこれまで剥離箇所の断面修復やひび割れ調査を行ってきたが、覆工補強工事を早期に進めるため、本工事に追加して実施することにした。
対策内容はひび割れ補修、鋼製支保工による覆工補強を予定している。工事は2020年度に着手予定で、一部はケー・エフ・シーが施工する。
元請は、ケー・エフ・シー。一次下請けは、日進機工(本坑・小片はく落対策工)、小薮工務店(避難坑・背面空洞充填工)、篠田(落石防護柵設置工)
(2019年12月5日掲載 大柴功治)