劣化した床版をグリッドメタル+接着塗布型PCMによって補強
栃木県日光土木事務所所管 国道120号乳の木橋の補修補強
床版の補強
下面増厚補強は、展張タイプのグリッドメタルを配置した接着剤塗布型PCM吹きつけを選択した。本来床版補強は、上面から行うのが望ましい。しかし桁補強に足場を用いることから、足場を設置しているうちに下面補強を行うことが工程的にも、コスト的にも合理的であると考えられた。
床版下面補修図
床版の損傷図例
そこで、下面増厚補強を実施するために、先ず、橋面の既設アスファルト舗装のひび割れに止水処理を施し、さらにその上面には防水として仮舗装を行ったうえで、床版の補修に入った。
RC床版の0.2mm以上のひび割れは460mに達していたが、コンクリート内部に存在する空気と注入樹脂を置換し、穿孔した穴の内部から放射状に拡散する事により、末端の微細クラックまで充填する事ができるIPH工法による樹脂注入補修した。
穿孔深さ計測/IPHの施工機械
ひび割れ損傷状況/IPH工法の施工
下面増厚補強に配置する引張補強材にはグリッドメタル筋を用いた。グリッドメタル筋に2タイプが市販されているが、本橋梁RC床版の下面増厚補強法には展張タイプのグリッドメタル筋(以下、展張格子筋)を用いた。この材料の製作方法は、鋼板或いは縞鋼板を用いて、設計寸法に併せてレーザでスリットを挿入し、専用のジャッキで展張するものである。その後、ハンチ部、継ぎ手部を折り曲げ加工し、防錆材を塗布して、必要なサイズに加工するものである。本橋梁には、凍結防止剤の影響を考慮し、亜鉛めっきによる防食を施している。
床版下面格子筋補強図
グリッドメタルの足場内への搬入
グリッドメタルの取り付け
取付が完了したグリッドメタル。端部にも施工している
同橋では26mmの床版増厚を行うことから、幅1,065mm、長さ2,500mm、厚さ6mm厚の鋼板を用いた。また、本橋梁の主桁間中央に増桁が設置されていたことから、橋軸直角方向の鋼材量に対して橋軸方向の鋼材量を多くした。よって、橋軸直角方向がD6@100、橋軸筋方向をD10@100に相当する幅を設定してある。設置においては、軸方向に400mmの重ね継手長を設けた。増厚寸法は既設RC床版コンクリートから10mmのマグネットスペーサーを展張格子筋に接着させて10mmのかぶりを確保し、6mm厚の展張格子筋を専用のボルトで固定し、その下に10mm厚のすきまを確保した。一方、継ぎ手部は重ね継手とすることから増厚層が6mm厚くなる。
施工法は、1面加工された展張格子筋を橋梁上面から足場に下ろし、専用の軽量ジャッキでRC床版下面に設置する。設置は全て加工されていることから短時間で取り付けが可能となり、施工の合理化・省力化が図られる結果となった。
その後、付着用の樹脂系接着剤KSボンドを界面に塗布し、その上で湿式PCM(リフレモルセットSP)を吹付ける。本工法では10mm浮かせてPCM吹き付け補強することから、1層目を5mm~10mm程度薄く吹き付けすると同時に展張格子筋の裏側に完全にモルタルが挿入するように、コテで押し込みながら補強した。翌日まで養生し、2層目を吹き付け補強した。吹付の角度はほぼ垂直で、離隔は1m程度。吹き付けた後はコテで押し込み、グリッド背面に空洞が起きないように念入りに施工した。グリッドメタル筋は鉄筋よりも高価であるが炭素繊維シートに比べるとコストは4分の1以下程度であり、配筋手間が少なくできるため、施工期間も短縮できる。
KSボンドの塗布状況
PCM吹き付け状況
丁寧にコテで押し込みながら仕上げていく
下面増厚完了状況
観光シーズンは車線規制できず、施工期間は限られており、その点からも評価された。PCM吹付の施工スパンは3.0m(1.5×2)×5.0 mを1ブロックとして順に施工した。
今後の予定として、補強されたRC床版上面には、主桁A1、A2の負曲げ対策として展張グリッドメタル筋を配置し、接着剤塗布型SFRC上面増厚補強法が計画されている。
更に、ゲルバー部上面については床版連結を行い、損傷した地覆のコンクリート打ち換えや床版防水工を施す計画である。
設計はピーシーレールウェイコンサルタント。元請は巴コーポレーション、一次下請はクリアテックレインボー、テクノヤゲタ、西村樹脂工事、優塗。
(2019年10月31日掲載)