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NEXCO西日本 関西国際空港連絡橋復旧への軌跡

公開日:2019.05.31

桁撤去(9月12、14日)
 桁撤去には、深田サルベージ建設の大型FC船「武蔵」(3,700t吊)、台船はオーシャンシールⅡ(載荷重量24,000t、長さ140m)、深洋(載荷重量14,500t、長さ110m)を用いた。前日までにFC船を繋留(20tのアンカーを陸上に2箇所、海中に6箇所配置した。同地は人工島の周りを「潮汐に関係なく川のように最速3knot(約1.5m/s)で流れている潮流であり、さらに海ヘドロがほとんどないためアンカーも効きにくい」(深サル)海域であり、そうした環境に負けないような設備にする必要があった。A1-P1間は空港島部分60mの干渉を考慮して、桁の芯から武蔵まで65mほど間隔を取り、吊り上げることにした。ブームの高さ制限があるため48°より上の角度に挙げることはできない制約の中で施工しなくてならなかった。


桁撤去工事概要書(NEXCO西日本提供、拡大してご覧ください)

武蔵とオーシャンシールⅡ(井手迫瑞樹撮影)

 また、吊り上げ方法も工夫した。「A1-P1は、(鉄道桁への影響を見て)少し引き気味に操船しながら吊り上げました。P1-P2は、鉄道桁はもちろん、P2-P3桁への干渉を考慮して南西側に引きながらの吊り上げを行いました。5日に現場を見た成果です」(深サル)。

直前の様子。写真中央下部に吊り金具が見える(井手迫瑞樹撮影)

進入した武蔵(井手迫瑞樹撮影)

玉掛作業(井手迫瑞樹撮影)

 施工は12時前に始まり、13時ぐらいまでに吊り具の玉掛けを行った後、13時過ぎから吊り上げを開始した。桁端部のクリアランスはジョイントを撤去したことでA1、P1どちらとも500mm程度余裕ができた。路面から15mほど吊り上げた後に、FC船を海側に後退させ、15時半ごろには、現場に進入してきたオーシャンシールⅡに呼応して武蔵も動き、台船の直上まで桁を移動させた。30m弱吊降ろし、夕方には積み込みを完了。13日には海南市の工場(高田機工)に運んだ。同様に14日にもP1-P2を施工し、15日にIISの堺工場へ深洋で運んだ。


桁撤去(9月12日:A1~P1)桁が上がり始めた状況(井手迫瑞樹撮影)

桁が下面も含めて完全に露出した状況(井手迫瑞樹撮影)

完全に吊り上げ少しずつ離れていく(井手迫瑞樹撮影)

オーシャンシールⅡへ桁を預ける(井手迫瑞樹撮影)

桁撤去(9月14日:P1~P2) 桁への玉掛作業(NEXCO西日本提供)

桁を吊り上げて、引いていく(NEXCO西日本提供)

台船(深洋)に搭載し、武蔵は離脱していく(NEXCO西日本提供)

損傷した桁の点検(9月13日~17日)
 運ばれた桁の点検は、再利用することができないか、2日間にわたって健全性が診断された。IISに運んだP1-P2桁は「再利用が困難」(NEXCO西)と診断した。一方で、高田機工に運んだ桁はP1側の3ブロック(約35m)は損傷が激しく再製作する必要があるものの、A1側の4ブロック(約55m)は損傷がない、あるいは軽微であったため、一部を部分補修する程度で再利用する方針が決まった。
 さらに鋼床版の探傷試験や部材精度を測定し、再利用に問題がないことを確認した。

製作~地組(~2019年2月初頭)
 製作用の材料手配は9月11日から始めた。半ば国家的な復旧プロジェクトということもあり、折からの高力ボルト不足であったが、39,000本の高力ボルト、1,000t強の厚板、鋼製支承製作も含めてただでさえ短い納期を各サプライヤーとも守り切った。IISは堺工場の内3ライン、高田機工は1ラインを関空桁専用ラインとして稼働させ急ピッチで製作した。「延べ人員も増やし、残業や他の現場との工程調整も行って、関空連絡橋の復旧を少しでも前倒しできるようにしました。当社では通常夜間施工は行いませんが、今回は昼勤・夜勤のシフトを組み、深夜も自動切断はずっとかけておく」(IIS)など努力した。


桁の搬入から製作、地組まで(左)IHIインフラシステム堺工場、(右)高田機工和歌山工場
(NEXCO西日本提供、拡大してご覧ください)

 設計も、旧橋の基本構造を維持しながら、一部材・一断面にすることで部材数を低減した。また、鋼製地覆についても「建設当時のように骨組みを型鋼で作って板を張り合わせていくようなやり方では時間がかかりすぎるので、ある程度ユニット化して製作し、鋼床版上で溶接する手法を採用」(IIS)し、工期の短縮に努めた。一方で疲労耐久性や防食性能については、最新の基準を適用した。鋼床版は従来の12mmのUリブタイプから変えなかった。重量増を嫌ったわけではなく20年以上使ってきた既存の鋼床版に疲労損傷が出ていなかったことを確認しての判断である。
 仮組には松和工業も参加した。「現場で施工する前に実物大の桁が見られたのが良かったですね。設備面や施工面も確認できた。これが架設両日のスムーズな施工の大きな助けになりました」(松和)。


製作が完了したP1-P2桁(左)全景、(右)鋼床版上(井手迫瑞樹撮影)

製作が完了したA1-P1桁(左)全景、(右)一部のブロックは再利用した(井手迫瑞樹撮影)

次ページ 浜出し~架設(2019年2月7日~14日)

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