西日本高速道路九州支社鹿児島高速道路事務所が所管する九州道姶良IC~薩摩吉田IC間に位置する思川橋(下り線)および、本名川橋(下り線)の床版取替を主とする大規模更新工事が進んでいる。両橋とも1973年12月の供用以来45年が経過しており、床版の疲労損傷に加えて、冬季の凍結防止剤散布に起因する塩害が発生している。加えて建設当時の骨材に十分に脱塩処理されていない海砂を使っていたことからそれによる塩害も進行している。そのため抜本的な対策として床版の取替工事を行うことにしたものだ。現場を取材した。(井手迫瑞樹)
現場を取材したのは2月20日だった。前日はあいにくの雨で羽田を出発した時に「羽田に引き返すか、福岡空港に降りる可能性もある」というアナウンスが流れるほどの豪雨で肝を冷やした。幸いにして鹿児島空港に降りることができたが強い雨。この時期の鹿児島には多いらしい。しかし取材日は一転、快晴となった。
鉄筋近傍の塩化物イオン濃度は3kg/m3近くに達することも
現場につくと思川橋(橋長66m、2径間連続非合成4主鈑桁、右写真、井手迫瑞樹撮影)は独特の線形を有していた。サグの一番下に位置しており、水は橋面からも来るが、橋台方向からも来る。これはパラペットに凍結防止剤を含む水がたっぷり供給されるな、と感じる。同橋は舗装上のポットホールが頻発するため舗装を剥がして確認したところ、床版上面が砂利化していた。増厚は未施工で、床版防水は2012年に施工している。床版防水をしていてもポットホールが頻発するのだから、床版防水の施工時に床版上面がすでに劣化していたことは想像に難くない。また、鉄筋近傍の塩化物イオン濃度は3kg/m3近くになることもあるという(これは本名川橋も同じ)ことで、凍結防止剤だけなくそもそもの塩分量も大きかったことが予想される。被りが損傷しひび割れが鉄筋に到達すれば、あとは水の供給→鉄筋膨張→ひび割れの拡大に一直線だ。事ここに至れば床版を取り替えるのも是非もなしと言ったところか。なお既設床版厚は200mmだった。
思川橋の変状/本名川橋の変状(NEXCO西日本提供)
思川橋を取り巻く縦断図と原設計図面(NEXCO西日本提供)
本名川橋 線形の厳しい構造
既設床版厚は200~297mmと大きく変化
本名川橋はさらに厳しい線形を有していた。8%の横断勾配と4%の登坂車線、横断的には折角を有している。縦断も5%の急勾配であり、R350mの曲線も有している。床版防水は設置しており、床版上面は比較的健全である。下面は2012年に20mmのPCMによる増厚を実施した登坂車線部分はほぼ健全な状態を保っていたが、未対策部は浮き・剥離による劣化が著しく、ここも床版取替が選択された。既設床版厚は登坂車線の勾配変化もあり、200~297mmと大きく変化している。
縦断もRも傾斜も厳しい(井手迫瑞樹撮影)
本名川橋原設計図面(NEXCO西日本提供)
思川橋 67°の斜橋
思川橋は67°と比較的厳しい斜角を有している。既設床版の撤去は壁高欄をワイヤーソーで切断した後にクレーンで撤去し、その後に既設床版(幅員10.5m)を橋軸方向2mピッチで2分割(1ブロック当たりの重量は約5t)して切断して220tクレーンで撤去していった。但し斜角を有する同橋の既設配筋を考慮して両端部は扇型にカットし、中間部を桁に対して直角に切断撤去するという手法を採った。
思川橋一般図(NEXCO西日本提供)
思川橋プレキャスト床版割付図(NEXCO西日本提供)
思川橋のプレキャストPC床版架設。形状が斜めになっていることが見て取れる(NEXCO西日本提供)
次いでプレキャストPC床版は両端部のみ台形のパネルを配置し、その他は70°の角度を付けたパネル(橋軸2m×幅員10.5m)を31枚配置した。面積は合計670㎡。通常部のパネル重量は約12t。
撤去・架設はA1からA2方向への片押し施工である(右下図、NEXCO西日本提供)。1日当たり10枚の既設床版を撤去し、5枚のプレキャストPC床版パネルを設置する工程を繰り返した。間詰部の打設はパネルが橋梁全体の半分ほど設置された段階でまとめて施工している。継ぎ手はエンドバンド継手を採用しているため、間詰幅を385mmほどに縮めている。また、プレキャストPC床版の強度は50N/mm2であるが、間詰部も同様の強度の高炉スラグ(50%置換)微粉末入りコンクリートを採用し、継手部にはエポキシ樹脂塗装鉄筋を用いて塩害に備えている。間詰部の打設に際してはひび割れを抑止するためハイパーネット(太平洋マテリアル製)を配置していた。
昼間に既設床版や壁高欄の切断および撤去や、主桁上フランジ上面のケレンなど音の出る作業を行い、夜間に新設床版の設置およびスタッドの溶植、桁・床版接続部のモルタル打設を行った。桁は耳桁の発錆が比較的進行していたが、著しい腐食にまでは至っていなかった。内側の桁は比較的健全であった。
壁高欄は、通信管路などを入れる必要があることや線形が厳しいため場所打ちで施工した。ここでもPC床版との打ち継ぎ目のみエポキシ樹脂塗装鉄筋を用いて塩害に備えている。
思川橋の既設床版撤去状況(NEXCO西日本提供)