RC床版を鋼床版に交換し、スピーディーに軽い構造へ変換
国道2号淀川大橋を軽くして耐震性能を向上しつつ、健全化するリニューアル
安全は100%保障されなければならない
部材が必要な耐力を有しているかを把握
技術提案
技術提案は3つのテーマを設定した。①床版撤去時と完成後の橋の構造体としての安全性の確保、②交通規制の期間の短縮、③維持管理費の低減と効率化(ライフサイクルコストの低減)である。
それについて元請のIHI・横河住金JVは「安全は100%保証しなければならない」(同社)中で、優れた提案を行って受注。現在工事を進めている。
今回の工事は非出水期施工で期限が区切られている。そのため安全第一でなおかつ工程に順守する方法が必要となる。まず設計的手法を用いての安全担保の提案を行い、あとは現場で計測手法を使って安全の確保に努める。但し、トラス部材の一部取替え工事があるため、施工ステップの中で一時的に不安定になる部分がある。そこに関して手を当てる形で提案してもらった。具体的にはバイパス材を設けるオーソドックスなものだ。
設計する上で、「一番知りたいのは部材が必要な耐力を有しているかを把握することである。材料、材質、有効断面積がどこまであり、それに対して現在の応力がどの程度部材に加わっているか、各ステップの施工時に対してどれだけの応力変動があるかを確認しつつ、プラスアルファ何ができるかを考えて提案をしている」(同)。ただ、机上の応力計算だけでは、シビアな数値はわからないため、現実的な対応は現場で判断する。床版を外したり、部材を交換する必要がある箇所で、構造的に不安定になる部分については、バイパス材をつける。そのバイパス材について付け易さや、力が流れやすいように工夫したものを提案している。
大型橋梁点検車による点検/既設桁の詳細点検・計測
鋼材の損傷については腐食や孔食を起こしている部材を適宜取替ないし補修していく。ただ、鈑桁の上フランジについてはRC床版に巻き込まれているため撤去前は状況が目視できない。特に事前の調査では大阪側(左岸側)の鈑桁で錆汁が多く散見されており、桁の損傷が懸念されていた。最悪の場合、埋まっている上フランジやウエブの一部が孔食ないし、消失している可能性もあった。そのため、事前にフランジの片側とウエブの一部を模したアングル材のような補強材を(損傷していれば)すぐに手配できるように製作できる体制を構築した。幸いなことに現状ではそうした損傷は見つかっていないようだ。
それにしても現場に行くと非常にクリアランスが厳しい。最小では200mmしかないところもあり、実際に作業に携わる技能者は非常に苦労しそうだ。足場にはSKパネルを採用している。
アングル材/大きく損傷している鋼材の一部
しっかりとした防護柵・ネットを設置
切断・はつりに使用する水量は毎日4,000ℓ
工事の特性上、床版撤去・取替時は供用中の車道脇で作業員が作業することになる。そのため、しっかりとした防護柵(コンクリート基礎)を設置し、さらに現場内からものが飛んで車に当たらないように、2mの高さまでネットを張っている。既設コンクリート床版撤去時のダイヤモンドカッターやワイヤーソーを使った作業時は特に入念に周りを全部覆い、車道側にシートを重ねて貼って、ガラやほこりが飛ばないようにしている。カッターやワイヤーソーは湿式を採用しているが、使用する水量は毎日4,000ℓにおよび、毎日給水タンクで運んでいるということだ。撤去はまず桁間を切断し、次に桁の上フランジ上部にあるコンクリートを切断、最後に上フランジとウエブを巻き込んでいるコンクリートをはつり取る。既設桁を傷つけないように丁寧な工程と施工を心がけている。
しっかりとした防護柵・ネットを設置(井手迫瑞樹撮影)
吊上げ用の削孔作業(井手迫瑞樹撮影)/ダイヤモンドカッターによる既設RC床版の切断
歩車道境界部はワイヤーソーで切断/35tセンターホールジャッキ4台で床版を剥離
鈑桁部主桁上フランジ下面のはつり状況
トラス部のRC床版を取り払った状況(井手迫瑞樹撮影)
さらに、下流には天然ウナギの漁場があるため、下には1滴も水やガラを落とさないよう万全の養生体制を採用している。
施工順序を当初案より変更
「FARO」を採用して精度を向上
交通規制短縮に向けた提案は、「工程が遅れる要素を極力施工前に判断できる態勢を整えておくことが一番」(同)。まず提案で施工順序を下流、上流、中央の順番に変えた(右図参照)。設計当初は下流側から上流側へ施工する順番としていたが、工程短縮という意味では、両サイドの歩道や高欄の付属工事を先に終わらせておいたほうが計算しやすいためだ。いったん床版を撤去・鋼床版に再架設した際は、撤去前の部位と比べて極端に当該箇所の死荷重が軽くなるので、左右を先に、次いで中央を施工する手順がバランス的にも有効と判断した。また、同橋は歩道使用も多く(毎日5000人以上が使用している)、先に歩道に手を入れたほうが良いとも考えた。
デメリットは同時に2つ継手しなくてはいけないこと。そのため中央部と左右の間隔の計測を非常に精緻に行わなければならない。計測ソフトは「FARO」を採用して、3Dスキャンし、点群データとして取り込んで画像処理した上でCADに落とし込んでいる。この際、振動している部分は厚く表現されるので、注意しつつデータ化した。精度は高く、「10mで±2mm、25mで±3.5mm程度」(同)としている。継ぎ手部だけでなく、既設の桁の通りや、床版の高さ、桁下のクリアランスなどのデータを取得して、工場製作に反映し、手戻りを極小化している。一方、隠れている部分は、スキャナできないため、細かいところは手で測ることが必要だ。こうして精度を確保することにより、「交通規制期間短縮に加え、品質も向上し、維持管理の低減にも効果を齎せられる」(同)と見込んでいる。
「FARO」を採用して、3Dスキャンし、点群データとして取り込んで画像処理した上で
CADに落とし込んでいる
疲労を意識し一部でSFRCを施工
トラス桁の一部で斜材および垂直材を交換
鋼床版への取替
鋼床版の一枚当たりのパネルの大きさは、当初設計から桁上でハンドリングできるサイズを想定しており変えていない。鈑桁部は幅が6.4m、橋軸方向が2.935~3.2。トラス部は幅が6.016、橋軸方向が3.194。トラスが6径間×41パネル、鈑桁が24径間×27パネル、全部で実に894パネルを架設する。その許容誤差は±4~5mm(継ぎ手の長さ)。なおトラス基層には通常のグースアスファルトの代わりに疲労耐久性の向上を企図してSFRCを50mm打設する。こちらも設計段階からの仕様だ。
鋼床版の仮組検査/鋼床版の架設状況
鋼床版の添接作業/設置された鋼床版下の様子
その他(維持管理上の詳細構造)
同地は、汽水域でもあるため、防食選定は重要だ。基本的に今回の現場では全面塗替えではなく、鋼床版の工場塗装(40,640㎡)および取り合い部の現場塗装(7,410㎡)、一部劣化した個所の補修塗装(280㎡)のみを行う。また、戦災を含め、著しく損傷が進んでいるトラス桁のP15~P16間(約33m)のGⅠ桁のみ、垂直材と斜材を全面的に交換している。
トラスの斜材取替/トラスの垂直材補修
補修塗装部に関しては、塗膜剥離剤(ネオリバー泥パック工法)で下地を2種ケレン相当に仕上げたうえで、C-5相当の重防食を採用する予定だ。
補修塗装部は塗膜剥離剤(ネオリバー泥パック工法)を採用した
また、水回りからの損傷が大きくみられるため、橋面全体に鋼製排水溝を設置、各橋脚にひとつ排水桝(亜鉛めっき防食)を設けて、確実に桁や下部工に懸からないよう、雨水を処理していく方針だ。
工期はH32年3月末までの予定だ。基本詳細設計はエイト日本技術開発。一次下請は横河ブリッジ、深田サルベージ建設、神農工業、テイケイ、松和工業、成和工業、共栄電業、鹿島道路、アスク、光明工事、サイガ、平野クレーン、喜多重機興業、磯部塗装、イースト、日本工業試験所、鳥谷電気商会、日本ミクニヤ、ダンテック、程内工業、ヨシオカ。最盛期には1日150人以上が工事に従事する予定だ。