P6からP8へ片押し施工
P6側中空床版桁はクレーン反力に対する耐力が確保できない
床版の撤去・再架設
床版の撤去、架設は200t吊オールテーレンクレーンを1台採用し、P6からP8方向へ片押しする形の施工方法を採用した。上り勾配側に順次移動する手法を採用したのは、同橋のP6側に隣接するRC中空床版橋では、クレーン反力に対する耐力が確保できないため、最終的にクレーンをPC合成桁構造で、耐力を確保できるP8側に載せるしかなかったためだ。
片押しで施工した
また、現地条件として民家が近接しているため、午前7時にスタートして午後10時には音の出る作業は止める必要がある。午前中に既設床版の撤去を行い、午後にプレキャストPCパネルを架設するというサイクルで施工し、延長105m、47枚のパネルを9日間で撤去・架設した。
1日当たりのタイムスケジュール
なおジョイントの撤去は、隣接する橋梁の床版鉄筋をはつりだす必要があるためWJを採用している。WJは新設高欄と既設高欄のすりつけ部の鉄筋はつり出しにも採用している。
ジョイント撤去にはWJを使用した(井手迫瑞樹撮影)
予期しない箇所に入っているスラブアンカー筋
台座の部分を打ち直してからジョイントをセット
さて、既設床版の撤去である。橋軸直角方向にコンクリートカッターにより2.1m間隔で切断していく。床版撤去前には橋軸方向(中桁間の大よそ中心位置)に切断し、油圧ジャッキを使った専用剥離機械を用いて、既設床版を引き上げて剥離させる。場所によってはスラブアンカー筋があるため、その場合は鉄筋をガス切断し、剥離作業を再開した。「スラブアンカー筋は予期していない箇所に入っていることも多く、特にジョイント部においては、撤去した後の下面でコンクリートの劣化が進行しており、逆に脆弱な部分を撤去して、台座の部分を打ち直してからジョイントをセットするというようなことも起きた」(NEXCO東日本)という。
既設床版の撤去
剥離した床版は200tクレーンによりトラックに載荷し、場外へ搬出する。撤去時のパネル一枚当たりの寸法および重量は、5,450mm(橋軸直角)×2,100mm(橋軸)、約7tで、1日当たり上り線で最大10枚、今回の下り線で最大12枚撤去した。最終的な撤去総重量は合計約1700tとなる。
既設床版撤去後は、主桁の上面をケレンし、新設床版架設の準備工を施工する。具体的には主桁に錆止めを施し、モルタルが漏れないようにハンチ型枠およびノロ止めを設置する。パネルの据え付けをよりスムーズに行うため、事前の測量結果を反映した高さ調整用の仮沓を設けて施工に臨んでいる。
斜角だが、プレキャストPCパネルは直角配置
端部は1m程度 RC現場打ち構造
架設するプレキャストPCパネルの1枚当たり寸法は1,850mm(橋軸)×9,850mmで地覆立ち上がり部100mmまでを一体化している。床版厚は240mmと既存床版とほぼ同等とした。重量は12t強。これを1日当たり上り線で最大5枚、下り線で同6枚架設していった。斜角が発生する端部の床版は現場打ちで吸収するため、パネルの配置は鈑桁に対して直角。元請のオリエンタル白石は中国道菅野川橋(リンク先記事参照)などで端部も考慮した斜角パネルを製作し、架設した経験もあるが、「PC床版内部には排水桝やスタッド用孔、高さ調整ボルトなど配置するものが多数あり、これらの配置スペースを確保する上でも主桁に対し直角方向に版配置することが有効」(NEXCO東日本)と判断した。なお、場所打ち床版部はRC構造であり、現場作業を低減するため、桁端から1m程度までプレキャストパネルを配置している。
プレキャストPCパネルと現場打ち床版の配置図
床版パネルを吊って所定の位置に移動させる(井手迫瑞樹撮影)
端部と通常部でパネルの形状が異なっていることが分かる(井手迫瑞樹撮影)
慎重に配置作業を進める。厳しい目線が交わされ、声が飛び交う(井手迫瑞樹撮影)
床版上面はプライマー塗付し、施工中の表面劣化防ぐ
上り線と下り線の施工数量の差は、上り線施工時と下り線施工時の車両の搬入向きが異なることが要因だ。これによりクレーンの作業半径による架設能力が変わるため下り線の方がより多くの枚数を設置することができる。但し、搬入車両の調整を春よりも綿密に行った。例えば上り線ではWJとクレーンや各種車両搬入などでかなりロスを生じてしまったが、下り線ではWJの施工をしやすいように搬入計画を改めている。
床版上面には高性能床版防水「ハイブレンAU」に用いるプライマーを塗布し、防水層施工までの床版上面の劣化を防いでいる。PC床版の品質確保に寄与する。
プレキャストパネルの設置完了後は、間詰め部(幅400mm程度)の施工を行う。間詰め部の鉄筋は、エポキシ樹脂塗装鉄筋を採用している(エポキシ樹脂塗装鉄筋のメーカー:安治川鉄工株式会社)。ここに50N/mm2(スランプ12cm)の間詰めコンクリートを打設していく。ループ構造より鉄筋配置が容易であり、現場では直角方向の鉄筋を配置するだけで良く、配筋作業を省力化できる。同様の理由でコンクリートも回りやすく、良好な間詰めコンクリートの品質が期待できる。エンドバンド継手を採用していることで、かぶり厚も取り易くなっているようだ。
端部にはエンドバンド継手を採用している
壁高欄は、床版を全部設置した後に現場打ちで施工していった。ここでも凍結防止剤の影響を受けやすい道路側はエポキシ樹脂塗装鉄筋を配置、外側は通常の鉄筋を採用した。
壁高欄部の鉄筋 外側は裸鉄筋、内側はエポ鉄筋を採用していることが分かる(井手迫瑞樹撮影)
間詰部の施工
間詰と壁高欄の施工は約3週間で施工を完了した。具体的には間詰部46箇所を3分割して施工した。壁高欄の鉄筋・型枠は間詰部と同時に施工し、コンクリートは全体を2分割して施工した。
床版防水工は全体で1,974㎡(上り線986㎡、下り線988㎡)を高性能床版防水(グレードⅡ)にて施工している。ここではハイブレンAU工法を用いている。舗装は前後の橋梁との擦りつけ区間を含めて2,916㎡(上1,425㎡、下1,491㎡)施工する。基層はFB13、表層は高性能舗装Ⅱ型を採用している。上り線では床版防水~表層舗装までを4日間で施工した。
床版表面のプライマーを一度ショットブラストで取り除く
高性能床版防水の施工
舗装工を行い
広瀬川橋のリフレッシュが完了
交通規制・安全
交通規制については、工事の規制延長として2kmを確保した。広瀬川橋自体は105.3mしかないが、前後300mほどの施工ヤードを確保した。その結果渡り線の延長も含め、規制区間は2kmを必要とした。仮設防護柵については、当地が平面線形、縦断線形ともにきつい箇所であり、昔から事故が多い箇所でもあるため、警察との協議の結果、プレキャスト製の防護柵を採用した。但し橋梁上については、プレキャスト防護柵を入れると幅員構成上、路肩を取れないことや床版防水時に(防護柵設置のための)アンカー孔が残ってしまうことからH型式のガードレールを使用した。切り替えについては慎重に車線規制を行いながら、渡り線および本線の開放を各1週間ずつかけて行った。
防護柵配置図および配置状況写真
上下線の改良点
昼夜間連続での集中工事で施工を行ったのだが、夜間はどうしても安全確保や作業効率が日中に比べて劣るため、日中に作業を集中的に行い夜間は比較的難易度の低い作業に工程調整することにより、安全でスムーズな施工を目指した。
本工事の元請はオリエンタル白石。一次下請けはトラスト工業(カッター、WJ、床版架設工)、タカラ重機(クレーン)、アイハラ重機(クレーン)、大林道路(舗装、防水)、有賀組(足場)が担当した。