中日本高速道路は、北陸道滑川IC~魚津IC間の早月川渡河部にある早月川橋下り線について損傷した床版の取替および床版補修、床版防水の設置を行っている。凍結防止剤による塩害が主因で特にP5~P9についてはプレキャストPC床版(以降PCaPC床版)へ取り替える。また、A1~P5については、部分的に床版上面へ断面修復を行う。床版防水は全面に高性能床版防水を施工する予定だ。現場ルポをまとめた。(井手迫瑞樹)
早月川橋の位置(NEXCO中日本提供、以下注釈なきは同)
橋梁概要
床版取替部の概要
床版防水は現在まで未設置
上下線毎に10000台超の交通量、大型車混入率は3割弱
損傷状況および対策概要
同橋は1983年12月に供用された橋長299㍍のRC4径間連続中空床版+鋼単純鈑桁+鋼4径間連続鈑桁橋。RC中空床版部が67㍍、鋼単純鈑桁部が34㍍、鋼4径間連続鈑桁部が198㍍という構成だ。凍結防止剤散布による損傷状況は塩害が顕著。塩害の原因は凍結防止剤散布によるものが主因と考えている。損傷は走行側の右タイヤの部分に集まっているが。その原因は分かっておらず。今後原因を突き詰めていく。貫通クラックはところどころ生じている状態だ。断面交通量は21,000台(大型車混入率27.7%)。ジョイント部も損傷しているが、これは鋼部材の腐食が原因と見ている。床版は供用以来、防水工を設置していない。そのため凍結防止剤を含んだ水が床版や端部に浸透している可能性がある。実際に凍結防止剤を含んだ水が中分側に流れ込み、G1桁のコバ面に錆を発生させている。ただし他の主桁は床版を剥がしてもフランジ上面に錆はほとんど発生していなかった。
事前点検状況
鋼連続鈑桁部RC床版の損傷が顕著
取り替え面積は2,150平方㍍
また、損傷した個所が走行載荷による作用によって損傷を促進され、コンクリートのひび割れや路面損傷が進行している状況になっている。特に鋼4径間連続鈑桁部では、損傷が進んでおり断面修復や床版増厚などで補修補強しても再損傷することが考えられるため、PCaPC床版への取替を行う。取替面積は約2,150平方㍍。また、その他の径間は床版上面の損傷箇所を断面修復する。その上で高性能床版防水を床版全面および地覆立ち上がり部まで設置し、高性能舗装を設置するもの。
早月川橋の損傷状況
システムカディウォーターを用いて交通安全性を向上
1日で200㍍分の舗装を切削、仕上がりは非常にきれい
現場は9月15日~11月3日までの間、滑川IC~魚津IC間の上下線を昼夜連続対面通行規制(下り線を通行止めし、上り線を対面通行にする規制)した上で、施工された。工事手順はフロー図通り。人数は元請側職員16人、一次下請以下の職人50人と「ちょっとした長大橋の架設と同じくらいの人員を配置して、時間を買う」(川田建設)規模となった。
具体的には、まず準備作業としてSKパネルを用いた養生足場を設置した後、中分改良に5日間を費やした。橋の前後のすりつけ部分の中分をレベリング、ガードレールを抜けるようにする改良行い、薄い部分は切削もしてすりつけた。その上で、上下線には、東名用宗高架橋の床版取替工事の際にも使っていた、「システムカディウォーター(樹脂性防護柵の中に水を入れるタイプの緩衝バリア、一個当たり約300ℓ注水する)」を再び用いて安全性を向上させている。切り替えは初日の朝方(6時前)に行った。切替区間は約1㌔あるが、切替時の渋滞はそれほどおきなかったということだ。
中分改良の事前工
中分をレベリング/ガードレールをすぐ抜ける状態にしている
システムカディウォーターの設置
車線切り替えを完了した状況
対面通行規制のイメージ
切り替え終了後は床版上の舗装切削に入る。1日で200㍍の舗装を剥いで調査するタイトな工程だが「NIPPOに施工して貰いましたが、手早く施工していただき、出来あがりも非常にきれいなものでした」(川田建設・山岸氏)。
舗装切削工/舗装切削を完了後の床版面
既設高欄は5㍍長さずつ切断
床版はP7から前後に開く形で撤去
舗装切削後はまず壁高欄を撤去する。今回は中分側がガードレールであり、ガードレールは取りますが、中分側は縁石のみ撤去する。そのため床版の撤去は左右で少しバランスが違う形となる(後述)。既設高欄の撤去は、1ブロックあたり長さ方向に5㍍、幅員方向は地覆から100㍉のところで切断している。「地覆と張り出し床版の根本が厚いので、結構重量があり(6㌧)、斜めにして10㌧車で持っていくような形で運搬している」(同)ということ。切断はワイヤーソーとダイヤモンドカッターを使って施工している。
ワイヤーソーとダイヤモンドカッターを使って壁高欄を切断
壁高欄の撤去
壁高欄を全長撤去した後に、床版撤去に入る。撤去は2台のクレーンを用いてP7から前後に開く形で2班に分かれて進められた。
既設床版は、橋軸2.16㍍×幅員10㍍(14.7㌧、版厚240㍉)ずつダイヤモンドカッターやワイヤーソーなどにより切断していく。このままではトレーラーに積めないため、撤去後さらに、幅員方向に6㍍、4㍍部分で2つに小割切断した上で積み込む。バランスがいびつなのは、先に記したように中分側に地覆が残っているため。わざと主桁間の真ん中で切って、床版のど真ん中では切っていない。切断後は、ジャッキアップして桁との縁を剥がして撤去するが、ここでも一苦労あった(後述)。クレーンは壁高欄撤去に50㌧クレーン、既設床版撤去に200㌧と220㌧クレーンをそれぞれ使用した。
既設床版の切断は、版厚に対して10㍉残す形で切断する。RC床版内部の下側の鉄筋まで切断し、後はジャッキアップの力で剥がすという考え方だ。地覆が残っている中分側については大型のダイヤモンドカッターで切断していく。床版の撤去、PCaPC床版の設置は初日のみ5枚、2日目以降は6枚ずつ撤去・設置していく。2班で一日12枚施工していき、1日約20㍍ずつ取り替えているということだ。
設計図の位置にない軸方向の補強鉄筋が切断の障害に
当該鉄筋をガス切断した上でジャッキアップ
ジャッキアップは50㌧ジャッキ4基で施工する。今回大変だったのは、主桁の上フランジの上にD19だとかの鉄筋が残っていたので、上手く剝がれなかったことだ、位置的にカッターで切ろうとすると主桁を切断してしまう恐れがある。さらにこの鉄筋がハンチ筋を抱き込んでいるため、そのままでは既設床版が上がらない可能性があった。普通であれば既設床版6枚をジャッキで剥がしてから、全部撤去する手法を採るが、今回は1枚とって、鉄筋の端部を切って、ジャッキで上げるという工程を繰り返した。
主桁の上フランジの上にD19だとかの鉄筋が残っていた
既設床版の撤去(遠景)
既設床版の撤去(近景)
この鉄筋は何のためにあるのか。元請の川田建設によると「たぶん軸方向の補強筋ではないか」という。ハンチ筋の上に、多い個所では5本ぐらい軸方向に床版のハンチ筋を抱き込む形で配置されており、そのままにした状態で先に剥がしてしまうと、主桁の上フランジに損傷が生じてしまう可能性があった。強引に剥がしていくと、この橋軸方向の通し筋が全部つながっているので、クレーンで挙げられなくなってしまう可能性があり、それでもクレーンで引っ張って無理やり縁を切断しようとすると、床版が跳ね上がり、事故を起こしてしまう可能性がある。
そのためこうした鉄筋をガス切断した上でジャッキアップした。一カ所目は構造上つながっている両側を切らなくてはならないが、2枚目以降は片側がフリーになっているため、片側の鉄筋の根本を切断するだけで済んでいる。
こうした既設床版の軸方向補強筋は今回の現場だけの特殊例ではなく、早月川橋のような比較的供用年次の新しい版厚の厚い橋(同橋は1983年12月供用)で床版の負曲げ対策として入っている可能性があるため、今後、早月川橋のような供用年次、形式の橋梁については注意を要する点と言えそうだ。