美瑛町、南富良野町、新得町、清水町、芽室町を歩く
台風10号 北海道水害現場を巡る
杭までが大きく露出した芽室橋の橋台
芽室町管理は4橋被災
9時半に札幌を出発し、最初の目的地である芽室町に着いたのは、12時過ぎであった。道東道を走って、芽室ICを降り道道54号線を南下し、最初の目的地である北海道開発局が管理する国道38号芽室橋に向かう。十勝川支流芽室川に架かる同橋は左岸側上流部の橋台および背面の一部が大きく抉られ、フーチングはおろか杭までが露出していた。驚くべき水、または流木、土砂の威力である。
芽室橋は4車線のうち2車線を止め対面通行で供用していた/大きく被害を受けた付近の河岸
大きく抉られている橋台部
フーチングや杭が露出していた
芽室町が管理する橋梁で台風10号により被災したのは上芽室橋、西芽室橋、日進橋、西伏見橋の4橋である。まず芽室橋から近い芽室川上流の西芽室橋であるが、通行止めになっていた。理由を聞くと橋脚が傾いているためという。
西芽室橋は通行止め/橋脚が傾いているという
久山川が氾濫し、付近に大きな被害を与えた
道路も縦断線形的に一番低い部分が盛土崩落などの被害を受けたと考えられる/復旧はほぼ完了
上芽室橋は昭和42年10月に竣功した橋/一部の桁が落ちていた
橋脚部の支承損壊/桁は1972年に架設されたようだ/側面から撮影した上芽室橋の損傷状況
落橋部の拡大写真
次いでその上流にある日進橋は確認できなかった。後で芽室町に聞くと流失したとのこと。美生川に架かる西伏見橋も流失した。また、久山川に架かる北海道道55号の報徳橋は橋そのものは持っていたが、久山川そのものが大きく氾濫し、同橋近くの盛土を大きく損傷させていた。記者が訪れた時にはほぼ復旧工事を終えていたが、道の脇を見ると洪水の爪痕が大きく、そこに何があったか分からない状態だ。おそらく農地であったのだろうが……。さらに近くの芽室川上流に架かる上芽室橋は3径間の鋼鈑桁だが、橋脚が1基完全に倒壊し、もう1基も傾斜していた。また、片方の橋台も大きく損傷しており、桁が2径間分落ちていた。同橋については仮橋での復旧をかける方針。西芽室橋は当面通行止めで、流失した2橋については「めどが立たない状況」(芽室町)としている。
芽室川をさらに上流へ遡り十勝清水町内に入り、昭和あたりで立派なPC2径間連続桁を見つけた。千歳橋である。しかし、ここもカルバート化していた。橋脚、橋台、桁は無事だが、橋梁上下流の護岸と同じくアプローチ部が完全になくなっている。片方の橋台に至っては、背後の斜面がかなりの高さまで削られている。そこまで水が到達したのか、下部が大きく抉られ上部が崩落したのか、メカニズムは推定できないが、いずれにしても大きな力が働いたことだけは分かる。十勝清水町はこうしたアプローチ部の損傷を被った橋梁が、同橋、前日取材した石山橋を含めて21橋ある。
「カルバートのように」橋梁だけが鎮座している。背面の盛土、アプローチは両側とも流失している
千歳橋は1986年9月に供用されたようだ/橋脚を守るブロックが一部捲れ上がっている
橋台近くの斜面も大きく、しかもかなりの高さまで削られている
残り3橋は橋脚の沈下が2橋、そして初日に取材したペケレベツ橋の1橋である。橋脚が沈下した2橋のうち平和橋は芽室川上流にあり、橋脚の沈下により桁が下がっていた。また橋台部も背面の土が流失しておりアプローチ道路も流されていた。他に損傷したのは錦橋だが、残念ながら取材することはできなかった。
橋台背面の盛土、アプローチ道路の一部が流失
側面から見た平和橋。橋脚が沈下していることが分かる
沈下した橋脚部の拡大写真/1974年11月に豊平製鋼(現:JFE条鋼豊平製造所)に架設された桁のようだ
今回の取材で最後に行ったのが、国道38号の小林橋だ。小林橋は国道38号と道東道が交差する箇所のほんの僅か北側、小林側の渡河部に架かる橋梁。残念ながら立ち入って見ることはできなかったが、遠目から見ても桁が落ちているであろうことは分かった。北海道開発局によると下部工の一部が洗掘により倒壊し、桁が一部落下しているとのことである。国が管理する道路で被災したのは国道38号で4橋、国道274号(日勝峠)で10橋である。38号の4橋は取材した小林橋(十勝清水町)、芽室橋(芽室町)、太平橋(南富良野町)のほかにペケレベツ川渡河部にある清見橋(十勝清水町)で橋台背面盛土が流失しているとのことである。芽室橋は4車線道路を一部区間暫定2車線にすることで対応している。清見橋は仮橋の設置工事を進めている。
小林橋の被災状況と/清見橋の被災状況(いずれも国土交通省発表資料より)
9月15日に取材時の小林橋
心残りは国道274号日勝峠付近の被災状況を我が眼で確認できなかったことだ。タイムリミットが最大の理由だが、時間があっても規制のため入れなかったとは思うが、現場を見たかった。国土交通省によると落橋が3橋で、7橋が橋台の背面盛土の一部流失などの損傷を被っている。損傷した橋梁は10橋のうち9橋が「峠の室蘭側」(北海道開発局)。室蘭側は沙流川に沿う道路線形になっており、水害の影響をモロに受けたものとの見られる。千呂露橋は仮橋で復旧したものの、他の橋梁や崩落した斜面や損傷したトンネルの補修、土砂の排除などに必要な道路が付近にないため、「道路全体の復旧にについてはめどが立たない」(同)としている。
千呂露橋の被災状況(国土交通省発表資料より)/仮橋の架設状況
(国土交通省北海道開発局室蘭開発建設部 提供)
供用された千呂露橋の仮橋(両写真とも国土交通省北海道開発局室蘭開発建設部 提供)
ニセクシュマナイ橋(左)や岩瀬橋(右)の被災状況。室蘭側は川に沿う道路線形であることが被害を大きくした
(両写真とも国土交通省発表資料より)
被災状況:(左)日高町千栄付近、(中)日勝峠7合目付近、(右)同8合目付近(全て国土交通省発表資料より)
一方、北海道が管理する橋梁は14橋が被災した。背面盛土の流失が13橋で内訳は、松平橋(南富良野町、ルーオマナンソラプチ川渡河部)、第一号橋(同町、シケレベナイ川)、清流橋(同町、ルーオマナンソラプチ川)、上美生橋(芽室町、美生川)、中島橋(帯広市、戸蔦別川)、栄橋(清水町、小林川)、旭山橋(同町、芽室川)、芳名橋(同町、九山川)、樹海橋(上士幌町、ヤンベツ川)、幌鹿橋(同町、同川)、北広内橋(新得町、九号川)、光雲橋(鹿追町、シーシカレベツ川)、ヌビナイ橋(大樹町、ヌビナイ川)となっている。また、1橋は橋脚の河床洗掘による沈下により桁に影響が出ているもので、風雲橋(音更町、然別川)となっている。
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地球温暖化の影響により、北海道も今後こうした水害が起こるリスクは高い。そのため堤防の整備や道路上の排水能力の強化など、本州以南並に水に対する抵抗力をつけることは急務であろう。橋梁の橋台背面への浸食や、橋脚の沈下は洗掘に対してどのように対策するか、日頃の点検も含めてエンジニアの対応力を問うている。
また、ハード対策はもちろん、監視カメラの設置による避難や通行規制の早期化などソフト的にも対応しなくてはならない。今次水害の教訓を生かした対策が求められる。