堀切・小菅JCT間約560㍍を4車線化
首都高速道路で免震と制震を合わせた橋梁全体の耐震設計を採用
首都高速道路東京建設局は、中央環状線の堀切・小菅JCT間のうち延長560㍍区間の改良を進めている。同JCT間は短い延長内に合流および分流が存在しており、1日交通量は8万台強に達するため、現在の1方向3車線では慢性的な交通渋滞が発生する状況にある。そこで渋滞を緩和し中央環状線の機能を向上させることを目的として、ダブルデッキの下層(内回り)について現行3車線を河川側に最大3.4㍍拡幅し、4車線化する工事だ。上層(外回り)はすでに4車線化を完了済み。
現状 完成イメージ
高架は2層構造でかつ下層桁は綾瀬川側になだらかに曲線状の線形が張り出すような形状にあり、従来であれば拡幅に伴い膨大な耐震補強が必要となる。一方で都道450号線と綾瀬川に挟まれており、ヤードが狭小であること、桁下クリアランスが低いこと、なおかつ単純桁、連続桁が輻輳しており複雑な耐震設計が必要になるなど様々な要因が相まって、設計・施工の難易度が高い現場となっている。そうした状況に対応するため、首都高速では「初めて免震・制震構造を全面採用した」(同社)。また、現行の小菅出口分岐部が合流部から程近く出口を利用する車が短い延長の中で車線を跨がなくてはいけないため、分岐部を現在の90㍍先に付け替える(出口の位置はそのまま)。工事の計画及び詳細、進捗状況を取材した。(井手迫瑞樹)
計画概要図(左)および改良区間(右)
約560㍍区間は、堀切側から3径間連続非合成箱桁の一部、3径間連結合成鈑桁、3径間連続非合成箱桁、単純非合成箱桁、2径間連結合成鈑桁、単純鋼床版箱桁×2という構成で、門型橋脚および張り出した梁上と門型橋脚のさらに上に配置された橋脚柱の上にそれぞれ上部工を載せている2層式構造である。今回は下層部について、門型橋脚の綾瀬川側にさらに拡幅桁支持用の梁を継ぎ足し、その上に拡幅桁を架設する工事を行う。なお上層桁は既に4車線化が完了している。
ヤードの幅員は17.5㍍と狭小
粘性ダンパーとせん断パネル型制震ストッパーを採用
構造
施工上の制約条件は、次の3点である。①綾瀬川および都道450号線に挟まれた狭隘な空間で施工しなくてはいけない。②基礎が河川の堤体内に位置しているため、橋脚の増設が困難。③既設基礎の補強を最小化する必要――である。
狭いヤード
①は具体的には施工ヤードの幅員は17.5㍍ほどしかなく、桁下の空頭は8㍍程度しかない。②は河川管理者(国及び都)との協議の結果、下層桁拡幅に伴う荷重増化へ対応するための橋脚の新設は不可となった。そのため、③の方策を追求するしかなくなったわけだが、従来の耐震補強では膨大な補強量が必要になる。
そのため首都高速道路として初めて免震と制震を合わせた橋梁全体の耐震補強を採用した。
地震時により大きな揺れが予想される上層(多主桁)については、桁端部(9か所)を1,000~1,500kNの粘性ダンパーで繋ぎ、免震支承(HDR-S)と組み合わせることで地震時の橋軸・橋軸直角方向のエネルギーを吸収することで下部工への影響を減らし、桁衝突の回避も行う。また、下層部では上層を支える既設橋脚柱との離隔が小さい。そのため橋軸方向には粘性ダンパー(「KVD」)を設置すると共に橋軸直角方向に鋼製ストッパー(「せん断パネル型制震ストッパー」(600~800kN))を全支点で配置し、橋軸は免震、橋軸直角方向は制震的な補強を行い、地震時のエネルギー吸収と桁同士および桁と(上層桁を支える)橋脚柱の衝突を回避、なおかつ当初必要とされていた橋脚の増設を行わずとも拡幅が可能となった。
すべり支承(写真左)、粘性ダンパー「KVD」(写真右)
拡幅桁を架設するため門型橋脚から張り出している既設の梁の先端部には箱状の梁を新たに配置する。そのままでは先端部が重い構造になるため、それを支える既設梁を補剛しなおかつ梁の根元部も補強するため大型の鋼板を両脇から板を当てウエブ状に配置する。拡幅桁は従来検討していた箱桁からより軽量な鈑桁とし、床版も既設と同様のRC床版ではなく軽量な鋼床版を採用している。
こうした免震・制震的構造や徹底化した軽量化(桁重は全体で約1,500㌧に抑制)を図ることで、既設橋脚の補強量ひいては基礎工の補強量を軽減する。