3540㍍の海洋架橋を10年間で施工
伊良部大橋の建設を振り返る
主桁の断面形状を八角形に
上部工(主航路部)
主航路部の上部工形式は紆余曲折の末、連続鋼床版箱桁形式に決定した。従前は観光道路としての意味合いから際立ちのある意匠を重視し鋼中路式アーチ橋を構想していた。しかし、平成15年度の台風14号による被害が甚大だったこともあり、当時の風速を勘案した場合、同形式では耐風安定性が得られないことが風洞実験などから判明した。そのため再度橋種を選定した結果、連続鋼床版箱桁形式を採用した。なお、設計に際してUd10の設計基準風速は毎秒63.6㍍から73.0㍍、ガスト応答係数は2.5 から1.9にそれぞれ改めている。
耐風安定性の向上については、通常フェアリングなどを付けて対応する場合が多いが、防食上の観点から突起部は設けず、主桁の断面形状を八角形にすることで安定性を増すように設計した。
主桁の断面形状を八角形に
全断面溶接で防食上の弱点をなくす
主航路部は橋長420㍍の3径間連続鋼床版箱桁。中央径間が180㍍、側径間が120㍍ずつのスパン割だが、製作ブロックは各140㍍ずつに分割し、ブロックごとに発注した。鋼重は中央径間が約1500㌧、側径間が約1300㌧だ。
作業手順は、4000トン級フローティングクレーンにより、まず宮古島側の側径間を架けた後、伊良部側の側径間をセットバックした位置に架ける。最後に中央径間を架設し、伊良部島側の側径間をセットフォーすることで所定の精度を確保する。その後に内部からボルトで仮留めし、足場を使って外側から全断面溶接を行い連結する。
現場溶接の状況
桁連結施工時の足場高さは海面から33㍍あり、風の影響を非常に受ける。
そのため、大ブロックの運搬・架設は、冬季波浪と台風シーズンの合間になる3~5月を中心とした最も静穏な時期を狙って、外洋架設用の4000㌧吊FC船「洋翔」を用いて施工した。2012年度に架設予定であり、両側ブロック(120㍍×2)は同年度に架設していたが、中央部のみ風速・波高・潮流が揃わなかったことから1年延期し、2013年4月16日に無事架設した。
4000㌧吊FC船「洋翔」を用いて施工
溶射+重防食塗装を採用
鋼桁部の防食
鋼桁部の防食に関しては鋼橋の専門家から構成される設計・施工委員会を設置し、現行の防食技術の耐久性とLCC、品質確保および維持管理技術などについて審議した。その結果、主桁断面を塗り替えが軽減できる表面積を少なくした単箱断面とした上で、全断面溶接としている。また、足場用吊金具も従来の突起状の鋼板でなくアイボルト式とし、部材各部形状も全て3㎜曲面加工を採用し、角継手溶接を容易にしている。
その上で長期耐久性が最も期待できる防食下地として、金属溶射(Al・Mg溶射)が選定され、さらに防食下地の上にC5系塗装(ふっ素仕様)を適用した。なお、この防食仕様は桁外面部に適用され、弱点となる全断面溶接部の溶射膜厚は一般部より50μ厚くしている。素地調整も従来のSa2.5ではなく、最も厳しいSa3.0としている。
金属溶射(Al・Mg溶射)が選定され
さらに防食下地の上にC5系塗装(ふっ素仕様)を適用
Al・Mg溶射はアルミ95%+マグネシウム5%の材料を使っている。「犠牲防食作用による耐久性に優れており、メンテナンスし難い場所にあることからLCCを考慮し採用した」(同事務所)。なお、初期の塗装劣化部を補修する部分補修は5年目、全体的な塗装塗り替え(溶射部は除く)は30年目を予定している。
また、鋼・コンクリート桁の境界部は、そのままにしていると、飛来塩分が端部から内部に浸透してしまう。そのため、ゴム製の保護カバーで取り合い部を巻き、塞ぐ手法を採用した。このカバーについては紫外線劣化を想定し、10年程度での取替えを想定しており、L2地震時には損傷することも織り込み済みだ。
基礎工についても、塩害による防食に配慮している。具体的には全ての鋼管杭基礎にアルミニウム丸棒を犠牲陽極に用いた電気防食工法を設置し、100年間の耐久性能を期待している。