岩手県・田瀬大橋補強補修工事
古い吊材の基部が破断、全吊材を取替え
大型車通行荷重、渦励振の繰り返しが要因
仮吊材2本で支持しながら
1本ずつ丁寧にSPWCへ交換
【吊材の交換】応急処置は平成24年の1~3月に実行され、桁中央部に近い吊材12本を仮吊材(仮ブラケットを設け、鋼製ロッド2本で吊る)に交換し、応急復旧した上で通行止めを解除した。
応急復旧時:全景(クレーンによる吊材取替作業) 応急復旧時:全景(吊材取替完了)
今回の恒久対策工事では応急交換した箇所も含め、疲労耐久性と部材取替えに伴う構造の安定性に着目して、疲労等級がK1程度(損傷した鋼製丸型ロッドはK4)で疲労耐久性の高いセミパラレルワイヤケーブル(以降SPWC、神鋼鋼線工業製)を用いて全ての吊材を交換する。
吊材交換前 ブラケット内部で微調整
夜間の張力確認
2本のPC鋼棒を使って仮緊張させながら施工
上部も定着ブラケットを新設
交換に際しては、損傷しやすいケーブル基部の点検をし易くするため、桁から高さ1㍍程度の箱状の定着ブラケットを突起状に新設し、SPWCを定着した。
ブラケットは突起状にして点検をし易くしている。ケーブルは止水ゴムカバーなどを取り付け、鋼材は一層分増塗りして凍結防止剤を含んだ水などによる損傷を防止する
定着に際しては、定着部を製作後、2本のPC鋼棒を使って仮緊張させた上で既設の鋼製ロッドを撤去し、新たにSPWCを2本の仮設PC鋼棒の中央に取り付けて張力を導入し、仮設PC鋼棒を外して、張力を調整するという手順で一本ずつ取り替えている。
施工手順
C1~C6、C15~C20の施工要領図 C8~C13の施工要領図
応急復旧箇所の取替えは旧の鋼製丸型ロッドの撤去跡を利用して仮の吊材を設置し、応急処置用のPC鋼棒および仮のブラケットを撤去。その後は同じ手順を踏んで取り替える。1本ずつ取り替えているのは、施工誤差を最小にして変形を極力小さくするため。取替えの繰り返しに伴って張力が変動することもあるため、最終張力・変形の再確認も行っている。
同橋は全面塗り替えも合わせて行うため、その段取りも考慮して吊材はまず左岸側から全て交換し、その後右岸側を交換している。
課題は防食。定着部および定着ブラケットのうち下部である補剛桁上に設置している部分は冬季の凍結防止剤を含んだ水がもろにかかる。そのため、ブラケット部分については1層分増し塗りして腐食に備える。ケーブルについては、腐食し易い基部に止水ゴムカバーを取り付け、塩分を含んだ水による損傷を防いでいる。
【その他の補修補強】
詳細は下表のとおり。
塗装についてはRC-1で塗り替える。5月31日の厚生労働省の通達により、旧塗膜は検査の上で所定の対策を行い除去する必要があるが、同橋の既設塗膜は下塗りがOZプライマー鉛酸カルシウム (鉛酸カルシウムさび止めペイント)中塗がタイコーマリンペイント中塗(合成樹脂調合ペイント)、上塗がタイコーマリンペイント上塗(合成樹脂調合ペイント)で中・上塗については、鉛は含有せず下塗りのOZプライマーに非常に少量ではあるが鉛を含んでいることを確認(ブラスト後の研掃材を採取・成分分析を実施した結果、研掃材1m3当たり鉛含有量0.11mg)した。当該箇所が田瀬ダム上での作業となることから、湿式による塗装剥離作業は雨水による剥離材溶液のダム湖への流出等を考慮し、十分な飛散防止対策と作業者の健康安全配慮を行った上でブラスト作業による塗装剥離を実施している。