目視評価法による品質向上の効果は、既報1)、 3)、 4)でも紹介されているが、品質が数値で評価されると、人間とは次に向けて改善したくなるものなのである。また、4点満点という分かりやすい評価なので、満点を目指したくなるものなのであろう。東北地方整備局の管内の多くの構造物で、打込みを重ねるごとに目視評価の結果が向上したというPDCAの効果が見られている。
図-2に示したのは、本稿の冒頭に示した2012年12月25~26日に実施した山口県の構造物群の目視評価の結果である5)。ひび割れ抑制システムの運用前の橋台4基と、システムの運用後の橋台4基に対して目視評価を行った。山口システム運用後の構造物群の品質が高いことが、この結果からも一目瞭然である。山口県は、目視評価法を用いたわけでは全くないが、施工の基本事項の遵守をシステムとして達成する努力を重ねた結果が、目視評価の結果に明瞭に表れたのである。
写真1~8には、2012年12月の山口県の構造物群の調査の一連の様子を示した。初日の冒頭には、座学にて筆者が目視評価法の意義や手法について説明した。この「目視評価祭り」には、目視評価法の開発者の坂田昇博士も参加し、山口システムのコアメンバーはフル参加し、さらに東北地方整備局の道路工事課から手間本康一氏も参加した。東北地方整備局での展開を見据えての参加であることは言うまでもない。座学を終えてからの実構造物での目視評価においては、田村教授から山口システムについての説明もなされ、坂田氏が手間本氏に実構造物を活用して品質について語る姿も見られた。
筆者らの間では良い思い出話になっているが、調査初日(25日)の懇親会が盛り上がったことは言うまでもないが、その終盤の挨拶で、手間本氏が「山口県の橋台等のコンクリートを見させていただきました。それほど品質が高いという印象は持ちませんでした。」という発言をし、一同はびっくりした。鹿島建設の坂田氏が間髪入れずに挙手して反論した。「手間本さん、私はこれまで日本中のコンクリート構造物を見てきた。その目で、山口県のコンクリート構造物の品質は素晴らしいと思った。手間本さんは、どれくらい現場で構造物を見ておられますか。」手間本氏は元来、構造畑の人間であり、PC橋梁の上部工などと比較してのイメージについて述べられたようで、「すみません、イメージで言ってしまいました。」と発言を訂正された。そして、ごく一般的な配合のコンクリートを使っての、一般的な構造物の出来栄えについて、二日目もしっかり勉強しましょう、ということで和解し(写真7)、二日目には手間本氏も「山口県の構造物の品質が良いということが本当によく分かりました」とお別れの挨拶をして山口宇部空港に一足先に向かうこととなった。ちなみに、手間本氏は現在、南三陸国道事務所の主任監督官を務めており、目視評価法も活用した品質確保の最前線で大活躍している。