新たに発刊した「道路橋防食便覧」のポイント
①塗装による防食技術
公益財団法人 東京都道路整備保全公社
一般財団法人 首都高速道路技術センター
髙木 千太郎 氏
はじめに
道路橋は、安全・安心な暮らしと快適な交通環境の実現に欠かすことのできない社会基盤施設の一つである。我が国では、道路に関連する悲惨な事故発生や急速に高齢化し、通行規制せざるを得ないインフラストックの現状がニュースとなる機会が増え、安全性や耐久性向上を行なうことが喫緊の課題となっている。このように安全・安心なくらしを確保するうえで重要な位置をしめる道路橋は、金属、コンクリート、石及び木材などを主要材料として使っている。
中でも、金属の鋼を主材料としている鋼道路橋は、国内において数多く供用され、今後も永く使われ続けると考えられる。ここにあげた鋼道路橋の性能劣化につながる主な損傷・劣化としては腐食が挙げられ、安全性、耐久性向上をするには腐食を如何に制するかが重要なポイントである。鋼道路橋に使われている主たる材料は、鉄を主成分とした鋼である。鋼は、酸化鉄、水酸化鉄を含んだ安定化している状態で地球上に存在している鉄鉱石を還元、これに鋼としての種々な性能を満たす目的で炭素、珪素、マンガン、リン、硫黄などを加えた合金である。
鋼自体は、自然環境のもとでは、不安定な状態で存在していることから、空気中の酸素、水と結合して安定な状態である元の水酸化鉄に戻ろうとする酸化還元反応(腐食)を起こし、それによって生成される腐食物がさびである。鋼材を水と酸素がある状態に放置するとさびが発生し、さびが雨水や塵埃を留め、鋼材自体に凹凸が発生することから空中に暴露する部分は増加し、さびは加速度的に進行することになる。
さびによる損傷 放っておくと層状さび、断面欠損を招く
特に、海岸近くの道路橋は飛来する塩分、積雪のある道路橋は凍結防止剤に含まれる塩化物イオンによって塗膜や不導態皮膜を損傷する局部腐食作用の孔食が発生し、放置すると腐食部分が貫通する最悪の状態となる。ここに示す鋼材の断面を欠損させるさびを防ぐ方法が防食である。鋼道路橋の防食に関する我が国の技術解説書は、「鋼道路橋塗装便覧・日本道路橋会」として昭和46年に刊行され、その後昭和54年、平成2年と2度改訂され現在に至っている。塗装を中心とした防食法を解説した「鋼道路橋塗装便覧」以外の防食技術書としては、平成17年に塗装以外の鋼材防食法である耐候性鋼材、溶融亜鉛めっき、金属溶射を加えて「鋼道路橋塗装・防食便覧・日本道路協会」を発刊し、それを補足する技術書として「鋼道路橋塗装・防食便覧資料集・日本道路協会」を平成22年に発刊している。
一方、道路橋に関する技術基準である「橋、高架の道路等の技術基準」は、東北地方太平洋沖地震による被災を踏まえた対応や急速に高齢化が進む既設道路橋の現状などを踏まえ、平成24年2月に改定された。これを受けて、先に示す基準を解説する「道路橋示方書」は、技術基準の趣旨を生かし、新たな調査研究成果や知見を盛り込み平成24年3月に改定された。このように、鋼道路橋を取り巻く環境の変化や高まる安全性・耐久性向上のニーズに対応すべく「鋼道路橋防食便覧・日本道路協会」を発刊する運びとなった。ここで、新たに発刊した「鋼道路橋防食便覧」のポイントについて塗装、耐候性鋼材、溶融亜鉛めっき、金属溶射の順に解説することとする。