②橋軸方向変位制御方式の検討
長大斜張橋では、耐震固定法として弾性固定あるいはオールフリー形式を採用した場合、異常時の橋軸方向の変位を制御するために、ストッパー(生口橋や櫃石島・岩黒島橋のストッパー)を設置したり、ダンパー(東神戸大橋や鶴見つばさ橋)等による減衰を負荷する方策が採用されている。多々羅大橋では、橋軸方向の変位制御として従来型のストッパー方式、減衰付加方式(ダンパー)に加え、PC桁の本設支承を有効活用した支承摩擦方式を検討した。
③ストッパー形式と減衰付加方式
多々羅大橋でストッパー形式を検討する場合、その設置位置は端橋脚や中間橋脚では下部工の耐力が不足することから主塔部に限定される。この形式は、遊間の設定で大きくストッパー反力が異なり、上部工の構造減衰等の変動により反力が変動する恐れがある。その結果、主塔基部の応力超過を招くこととなり適さないと判断した。減衰付加方式は、端部橋台(1A)、橋脚(4P)に必要減衰を負荷しても下部工に与える影響が限定されるために候補の一つではあった。しかし、敢えて別構造(ダンパー)で減衰を負荷するまでもなく、BP支承の沓摩擦を期待することで設計可能であるならば非常に合理的な構造となる。このため、以下④に示す沓摩擦を考慮したパラメトリック検討を行った。
④沓摩擦の検討
1)解析条件を以下に示す。
・対象振動(遊動円木モード) 固有振動数0.132Hz(固有周期7.58s)
・入力地震動 設計用入力地震動
・上部工の減衰定数 h=0.01(通常h=0.02であるが、1/2で検討)
・(地震動)入力倍率 α=1.0、1.5、2.0
・沓摩擦係数 μ=0.00、0.05、0.10、0.15、0.20、0.25
解析モデルを図-7に示す。
3)解析結果のまとめを以下に示す。
・沓摩擦を期待することにより、変位応答値は著しく減少。
・赤破線で示す地震時の設計移動量(EQLL)以下に抑えるために必要な沓の摩擦係
数μは0.05以上有れば十分。
・不測の事態(例えば、設計用入力地震動の2倍程度)を想定した場合でも設計移動量
を大幅に下回る。
・沓摩擦の効果は非常に大きい。
4)BP支承の摩擦係数の実態
国内各機関で実施された面圧載荷時等の摩擦係数測定結果は以下の通り(表-2参照)。BP-A及びBP-Bの摩擦係数は、道路橋示方書に示された数値より小さいが、形状寸法の違い、環境条件等の差など、一律に比較対象とは出来ない。
(4)最後に
長大斜張橋の耐震固定法は、一点固定法から多点固定法(フレキシブルピアやダンパー)、弾性固定法(皿ばねや弾性拘束ケーブル)、オールフリー構造と多種多様である。これは、地形・地質条件や構造・景観設計やコストに加え、設計者の好みが加わっている。優雅なオールフリー構造は耐震設計上、長周期構造という面で非常に優れている。反面、主塔及び主塔基礎に大きな負担がかかることとなる。東神戸大橋の端橋脚に設置されたベーンダンパー(想定外の地震時挙動を制御)は、阪神大震災時に被災した(ジャーナル2020.7.1号掲載)(図-9参照)。直接的に被災したわけではないが(ウインド沓やペンデル沓の損傷に伴って被災)、心配ではある。阪神高速の設計課長時代に耐震補強(高減衰ゴムダンパー)は完了したが、その際、ベーンダンパーは補修して残した。油漏れである。メンテナンスの大敵は、部品の多さであると私は考える。福岡県の課長時代に技術士二次試験の口頭試問で答えた。
減衰付加物を付けない、つまり本設支承を有効に使うことで合理的な構造を実現したと。
最後に、これまで多くの先人が苦労して検討した成果を本当に継承出来ているのだろうか。そういう思いもあり、今回の記事を書いた。何とか今後の技術の継承に繋がればと考えて! 期待します。(2021年3月1日掲載、次回は4月1日に掲載予定です)