シリーズ「コンクリート構造物の品質確保物語」㉟
「桑折高架橋の高耐久床版はなぜ実現できたのか」 官学民桑折高架橋高耐久RC床版打設座談会
日本大学 工学部 土木工学科
コンクリート工学研究室
教授
子田 康弘 氏
スランプ18cmで材料の分離が見られた場面も
ぶっつけ本番はかなり危険
子田 監督上または施工管理上で反省点、改善事項があれば教えてください
高橋大輔 仕上がりは合格点だと思います。今後の注意点としては、界地区と赤坂地区ともほぼ同時期にスランプ18cmで試験施工として模擬床版を施工しましたが、模擬床版のコア抜きをし断面を観察したところ粗骨材の沈降が見られたケースがありました。生コンプラントや模擬床版形状の違い(縦横断勾配)はありましたが、結果としてそうした事象が見られたことから、短絡的に扱いやすいコンクリートといって飛びつくと、RC床版の耐久性を低下させる可能性があります。
子田 試験施工では、そういう所も含めて確認せよという事ですね。
高橋大輔 そうです。
木戸 管理する側も勉強が不足しているところがあったと自省しています。そもそも当初はどういうコンクリートか分からない点があり、手引きを熟読して構えるべきでした。
施工は、どの工区もきちんと管理して施工出来ていたので問題はなかったと思います。
上野 施工者と一緒に取り組んできたということもあり、加えて一次下請さんの協力もあって、結果的に良いものができたと思います。
佐々木 打設の日は、本会社から6人ほど品質管理や施工管理の支援を受けました。これを施工の工夫で人員削減できれば、良かったと思っています。また、50cm間隔の締固めの際は、横断方向に目印を付けたロープ張って行いましたが、ロープを持つ人員2名が必要になります。佐藤建材工業さんや佐藤工業さんのように梯子状の枠の方が締固め要員が同時に梯子枠も扱えるのでその方がよかったのかなと思いました。
子田 この50cmの締固め間隔の管理の方法は、ロープ式と梯子枠式どちらが良いと思いますか。
菊池 最終的にはバイブレータを持っている人が梯子枠も持つ方法としました。すると2人で作業しながら移動できるもので、良かったのかなと思いました。
子田 余計な人員が要らなくなりますね。
菊池 専属で持つ人員が不要になります。
芳賀 その辺の話を聞いていましたので、当社は梯子枠で管理すると決めていました。
編集部 スランプ18cmで扱いやすいだけでは危険で、材料の分離に気を付けなくてはいけないというのは、大きな指摘だと思います。このトレードオフをどのように均衡させたのでしょうか
芳賀 現場(スランプ18cm)では(スランプ12cmの際に使う)同じバイブレータの径で同じ時間締固めました。それで多少の材料分離(骨材の沈降)が出たため、もう少し時間を短くして小さい径にしたらどうか、試験施工を行えば明らかにわかったと思うのですが、時間的な余裕がなく、材料分離への対応は別工事で試験練りや模擬床版により材料分離が確認されていないスランプ15㎝を採用して、施工しました。界地区と赤坂地区の違いはプラントが異なるという事です。生コンの性状によって対応しなければなりません。
高橋大輔 床版自体の勾配も違っていましたので。縦断が4%と横断が3%でした。他箇所は縦横断共に3%と、取り分け厳しい箇所でした。
編集部 マニュアル化はすごく難しいですね。
高橋大輔 手引きはあるのですが、結局のところ材料で左右されてくるのかなと思いますので、本施工をぶっつけ本番はかなり危険です。模擬床版による試験施工は行うべきだと思います。
表層品質試験を定期的に行う
定期点検で長期的な耐久性も確認していきたい
子田 表層品質試験は良好という結果を得ております。これは施工者さんの努力のたまものであると思いますが。いかがですか?
高橋正晴 実際、共通仕様書の品質管理だとスランプや強度しか管理項目がないので、コンクリート床版として性能を見るうえで、たまたま東北技術事務所で表層品質試験を実施した例があることが分かりましたので、局の道路工事課経由で調べた結果、良いものができていました。参考文献をもとに皆様の叡智が結集した成果であるといえます。良い結果を次のステップに反映し、表層品質試験も定期的に行って、フォローアップするのが大事かな、と思っております。
子田 桑折高架橋は下部工も含め、品質確保の手引きに準拠した橋梁ですが、今後の維持管理の記録も施工の評価として重要になると思いますがいかがでしょうか?
高橋正晴 この取り組みを事務所の発表会でも事例紹介していますし、東京でも発表しています。その際の質問では「何年持つのか?」という数値を問う声が多かったように感じます。まずは、供用後2年、輪荷重も載っている状態と、その5年後も定期点検をそれぞれ行いますので、そこで高耐久床版として耐久性を評価していくのかな、と感じております。
子田 定期点検の際は、子田も立ち会うと引き継ぎ書に書いておいてください。
一同 (笑)
スランプに囚われず、コンクリートの経時変化を見よう
高橋正晴 子田先生にお聞きしたいのは、手引きの中でもそうですし、我々もそうなのですが、これまでの土木工事共通仕様書を読むと、スランプ値が結構重要に思えますが、今回の手引きを読むと、一切スランプの記述がありません。先生方もスランプ値は目安であって、絶対ではないとおっしゃりますが、その考えをお聞きしたく思います。
子田 先ほど、施工しやすいフレッシュ性状で打設させてもらえることをお願いしたい、という言葉がありました。スランプ値を至上とする概念が独り歩きしていたと思っていて、桑折高架橋では先行2工区の施工の苦しさを見て、学術的な根拠の裏付けは現時点では持ち得ておりませんが、単位水量を上げました。それに関しては工学的な定量評価を行う研究を次年度から始めます。しかし、今回は単位水量を上げるとともに、水結合材比一定より粉体量が上がったことによって、明らかに施工性が改善されているわけです。スランプ12cmでも別によいのです。それが品質確保が可能な施工性に合致していれば。その観点において、特に床版の場合のフレッシュ性状というのは、作業性、仕上げ性能が極めて重要であり、品質を大きく左右します。施工管理しやすく、最終的な天端も設計高に近づくことができる。そのコンクリートがどういうものかというのが必要です。
今は、ワーカビリティーを表す値がスランプ値しかないですが、スランプ8㎝でも締固めが容易なコンクリートもあると思います。ただし、床版の場合は、スランプの値のみで施工に最適な良いコンクリートとはいえないと思うようになりました。試験練りから試験施工、そして現場施工に立ち会ってきて、得られた見解です。床版の施工においては、スランプ値が優先する概念を変えて行きたいと考えています。
相馬福島道路(霊山~福島)間の別の橋でも高耐久RC床版を適用
子田 福島河川国道事務所として、桑折高架橋の結果も踏まえ、目指す方向性を教えてください。
高橋正晴 桑折高架橋の下部工から床版を施工している中で、昨年『東北地方におけるRC床版の耐久性確保の手引き(案)』が出ました。相馬福島道路(霊山~福島)間12km区間で、RC床版の施工が必要な橋が数箇所ありますので、今回と同様の高耐久床版への取り組みをして、実績を積み重ねていきたいと考えています。振り返れば一昨年8月の子田先生の講習をスタートとした今回の工事は、私も良い経験をさせていただきました。昨年の4月5日に、横浜国立大学 細田先生と子田先生が最初の打設を見た時に、「これは配合を検討しなくてはならないね」と言われました。それが残ったのか、地元業者の創意工夫と様々な知見を含めて、高耐久コンクリートはスランプを15cmや18cmにすれば施工できる、というのを桑折高架橋の取組みの中である程度成果が出たことは素晴らしいことだと思いますし、来年度以降の工事に展開していければ良いなと思います。今回施工に携わった会社さんも、後発の施工者にアドバイスをしていただければ、と考えております。
子田 これから高耐久床版の施工に臨む発注者や施工者に伝えたいことは
高橋大輔 高耐久床版に携わることが決まった時に、正直「重いな」と感じました(笑)。なぜ高耐久床版に取り組まねばならないかということを理解する必要があります。今後携わる発注者・施工者の皆さんも、目的を理解した上で取り組んでいくのが非常に重要ではないかと思っています。
芳賀 高耐久床版の品質を確保するには、実際に試験施工後の下請技能者との意見交換を行うことが一番大切であり、それが自然と丁寧な施工に繋がります。
編集部 福島河川国道は小山田桂夫さん(現三陸国道事務所副所長)や佐藤正さん(現仙台河川国道事務所道路管理二課長)が下部工にせよ、高耐久床版の計画にせよ、引っ張ってきました。高橋正晴さんもその系譜に連なると思うのですが、逆に他の事務所に移った時、今回の経験をどのように生かし、伝えますか?
高橋正晴 私がバトンを受けたのは、施工が下部工から上部工へ移行するタイミングでした。高耐久床版については、先ほども申し上げました通り、一昨年8月の講習会がスタートでした。こうした講習会を開くことが重要です。また、昨年9月には局道路工事課と相談しまして、近隣事務所に案内を出し、山形と仙台のインハウスエンジニアが現場を見学に来ました。このような行動を起こすのが大事なのかな、と思っています。 他にも、子田先生をはじめとした学識経験者に事例紹介をしてもらえれば、技術や経験の水平展開が図れるのではないかと思っています。
高耐久床版の目的を理解して取組もう
各社とも会社全体の力を結集
子田 大手ゼネコンでなくとも高耐久床版の施工はできる、ということをアピールしてください。
高橋正晴 全体を振り返りますと桑折高架橋の高耐久床版の第一期施工は、JR委託部で鉄建建設が一昨年10月に行いました。後は地元業者の施工です。床版施工は佐藤工業さんが言われたように30人ぐらい人員が必要です。結果として地元業者は大手である鉄建建設と何ら遜色なく施工出来ていたと思います。強調したのは、極力、先行現場の施工を見に行ってください、と真摯に呼びかけることでした。何の情報もなく配合を決め、試験施工を行うとなると、何をしていいのか分からなくなります。こうした提示も発注者の重要な役割ではないかと感じています。先行する現場を見ることで、課題が分かり、各社とも社を上げて対策を練った結果、良い床版が実現できました。この「現場を見て学ぶ」という姿勢さえあれば、地元業者でも十分品質の高い床版を打設することができると考えます。
佐々木 通常の心意気では高耐久床版の施工は乗り越えられませんでした。自分や現場の職員・職人だけではなく、会社全体の力を結集したからこそ、工事を無事終了することができたと思います。下請け業者も高耐久床版という事で、経験したことのある業者であればスムーズに施工できると思うのですが、新しい業者になると、手引きだけでは難しいので、やはり他業者がやっているのを直接目で見て、試験施工を行うというプロセスを経ないと物は上手く作れないのかな、と思いました。
菊池 鉄建建設さんの現場を見学し、勉強会を開き、施工に備えました。最初は難しいな、と思いましたが、小野工業所さんの施工を見ながら、学ぶことができて良かったと思います。
佐藤 最初はやはり見学会で鉄建建設さんの試験施工、本施工を見た時に、元請の人数を見まして、果たして当社の人員体制で、ここまでの現場を組めるのか、という危惧がありました。しかし、先行している小野工業所さんの代理人さんや監理技術者さんに教えを請いながら進めていって、試験施工は現場単位では対応できませんので、会社に応援をお願いして、増員して完成することができたかな、と思っています。
高橋大輔 鉄建建設さんが施工されている時は、私はこちらに着任していませんでした。そのため結果しか見ておりませんが、仕上がりを見ても、地元業者の施工した床版の方がむしろ品質が高くなっています。
子田 佐藤建材工業さんは、初めて橋梁床版の施工を会社として経験されましたが、施工した床版品質は間違いなく合格点の品質になっていると思います。初めての床版施工でこのような高耐久床版の品質確保がなぜできたのでしょうか。
菊池 床版施工自体が初めてなもので、鉄建建設さんや他の地元業者の施工を見ながら、これが普通なんだと、逆に思っていました。均しにくくて、被膜養生剤も通常の倍は用意していたのに足りなくて、急遽、隣の工区の小野工業所さんに分けてもらったなど、様々な苦労もありましたが、何とか施工することができました。
佐藤 何も分からないところからのスタートでした。最初は下請けさんの選定から頭を悩ませました。経験のある下請けさんから、逆に教えてもらい、施工するという場面も多々ありました。発注者や監督支援の方に分からないことは聞いて、何とか施工を進めたことが、良い結果につながったのかな、と思っています。
子田 やはり情報共有というか、風通しが良いという事が、大きなポイントですね。これが高耐久床版の良好な品質確保につながったのかな、と思います。
現場は左官屋の経験に委ねる
編集部 左官がすごく重要だという話がありましたが、左官屋をどのようにコントロールしましたか
菊池 最初のうちは、左官屋さんがならしていくより、コンクリートが硬化していく方が早く、やきもきしました。そのため工事の中盤以降は、こちらで均すタイミングを早くするように指示し、適正な時間で仕上げることができました。左官屋さん自身も、このコンクリートを一緒に勉強しました。
佐々木 試験施工の時にN式の貫入量を目安に、左官の乗り込みのタイミングを決めたのですが、時すでに遅しという感じで、左官屋さんから、もうこれは均すことはできないよ、と言われました。やはり左官屋さんの経験も重視して施工することが重要だと思いました。
芳賀 小野工業所さんと佐藤建材工業さんの現場が終わっていましたので、左官屋さんにその出来栄えを最初に見せました。試験施工の時に、たまたま高橋建設専門官に今回の左官屋さんは、コン天棒(コンクリート仕上がり高さ目安棒)を取るタイミングも早くはなく丁寧に高さと不陸を確かめながら仕上げているという話を偶々聞きまして、左官屋さんを褒めました。すると左官屋さんはさらに丁寧にやってくれることがわかりました(笑)。
古関 うちの工区の左官屋さんも先行工区を見て、仕上げるタイミングのコツをつかみ、うまくいったと思います。当社のコントロールというよりは、左官屋さんの経験に委ねたというのが正直なところです。N式貫入試験も行いましたが、それをやったから左官屋さんが入るというのではなく、逆に左官屋さんが入った時のN式の値はいくらかな、ということを測り、左官屋さんを入れるタイミングが確立されてきたというのが実際のところです。
地元業者が大手に勝るのは意思決定のスピード感
技術を伝承する「現場」が必要
編集部 この現場には、上北建設の音道薫さんも来て、ゼネコン的見地からの現場の指導を行われていました。今後、この3社がどのように県内の他の業者に伝えていこうと考えていますか
青柳 上部工の床版打設は、本来、上部工業者に付随することが多く、なかなか地元ゼネコンが施工する機会に恵まれません。経験を蓄積するには場数を踏まなければならず、今後、発注者さんには経験を含む場を地元向けに発注していただきたいと思います。
地元業者が大手業者にまさっているのは、意思決定スピードの速さです。タイムリーに発注者と協議しながら施工していく強みがあります。
高橋正晴 危惧しているのは、来年までは相馬福島道路(霊山~福島)の橋梁床版工があるので、今のメンバーの知見を継続できるのですが、それが終わると、福島西道路は土工事の段階で下部工も未施工であり、次に床版工を施工するのは4,5年先になります。我々もいったん、技術継承がストップしてしまいますし、生コンプラントも技術継承がストップしてしまいます。それを防ぐためには国交省だけでなく県や市町村、NEXCOも伝承する努力を行ってほしいです。得た知見が寂れるのは技術者として寂しく思います。
子田 皆様、本日は本音の話を聞けて感謝しております。ありがとうございました。
(2020年4月2日掲載)
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