-分かっていますか?何が問題なのか- ㊼高齢橋梁の性能と健全度推移について(その4) ‐将来に残すべき著名橋になすべきことは‐
これでよいのか専門技術者
(一般財団法人)首都高速道路技術センター
上席研究員
髙木 千太郎 氏
3.制限荷重を守らなければ、橋は落ちる!!
国内の道路を通行する車両には、道路の構造の保全と交通の危険を防止するため、道路法に基づいて重さの制限があり、総重量20t、軸重10t、輪荷重5t以内などの重量が決められている。
さらに、高速自動車国道および指定道路を走行する車両は、車長および軸距に応じて最大25t、また、バン型のセミトレーラー連結車等の一定車種のセミトレーラー連結車およびフルトレーラー連結車は、軸距に応じて高速自動車国道で最大36t、その他の道路で最大27t以内との規定がある。
道路を通行する車両がこの範囲内で収まれば問題はないが、実態はそうではない。国内の物流や社会基盤整備等に必要な車両、例えば、自走できるクレーン車などの建設機械、コンテナ用セミトレーラーなどの特例5車、重量物運搬用セミトレーラー、自衛隊の所有する特殊車両などは条件を付して走行を認めている。
詳細には、車両の構造または車両に積載する貨物が特殊であるため、道路管理者が止むを得ないと認める場合は、特殊車両通行許可申請に基づいて通行条件を付して特殊車両の通行を許可することができるとなっている。
道路管理者の間で一般的に言われている『特認車』がこれである。『特認車』の申請は、国(地方整備局等)、各高速道路会社、都道府県・政令市に窓口があり、道路指定や走行条件を付して『特認車』の走行が許可される。ここまで説明するとお分かりと思うが、各道路管理者の行政技術者は、少なくとも自らが管理する道路や道路橋の実態を正しく把握しておくことが必要で、誤った許可を出せば当然事故にもつながることになる。ここまでは、一般的に供用されている道路橋を対象に、国内で使われている車両が通行する際の条件について説明した。
供用している管理橋に、顕著な変状があり、古い設計基準で設計・建設され耐荷力が不足している場合は、管理者は車両の通行を制限する規制を行うことになる。
例えば、写真-15の場合は、総重量5tの規制が掛けられた山間部の道路橋である。この道路橋の規制看板を無視して総重量20tの車両が走行することは、道路交通法違反となるばかりでなく、落橋事故を起こせば運転者の責任を問われることはお分かりだと思う。
逆に、道路管理者が、耐荷力が不足する道路橋に荷重制限規制(道路標識等の設置)を行わなければ、総重量20t、軸重10tの車両は、何ら制限なしに何時でも通行できるはずだ。であるから、写真-16のような落橋事故は、道路管理者の怠慢である。当該事故は、規制看板も無い道路橋に車両が通行、落橋瞬前に通り抜け人災とはならなかった。もしも、落橋に車両や人が巻き込まれれば、全国放送となり、管理者の重大な瑕疵となった。
さてこれからが今回の話題提供のメインだ。
アメリカ合衆国の道路橋は、基本AASHTO LRFD橋梁設計基準に規定されているHS20-44荷重によって設計トラック荷重と設計レーン荷重を車両活荷重として設計されている。例えば、設計トラック荷重は総重量325kN他軸重や軸重配置、設計レーン荷重は3m幅で等分布の9.3kN/m等となっている。
当然、日本と同様に高齢化した道路橋も数多くあり、道路管理者が、定期点検データなどから安全性が危惧される場合は、当該橋梁の耐荷力を算定することになる。その結果、一般車両が通行できない場合は、重量や幅、高さ等を設定、道路橋の前後に規制看板を建てて、注意を喚起している。
アメリカ合衆国に行かれ、道路を走行された方は目にしていると思うが、郡や市が管理する道路の橋梁には、規制看板が設置されている事例が数多くある。写真-17は、ミシシッピー川を渡河するD道路橋であるが、主構および路肩位置を示す道路標識設置し、通行の安全を確保している。当該橋梁は、比較的交通量の少ない郡管理の道路橋であるが、写真-18で明らかなように床版は、国内では考えられない木製であった。
左:写真-17 ミシシッピー川を渡河する鋼トラスD道路橋
右:写真-18 D道路橋の桁下から見上げた状況
写真-19の道路橋は、先の事例と同様な地方の道路橋であるが、車両総重量5t、速度15マイルと主構位置を示す規制看板が設置されている。この橋梁も、国内であれば利用者や周辺住民からお叱りを受けるような、貧弱な木製防護柵と取り付け防護柵ではないか。しかし、橋門構の飾りや醸し出す雰囲気がアメリカらしいと思いませんか?
写真-20の道路橋は、先の事例と同様だが、総重量10tの規制と走行レーン1車線との道路標識がある。当然橋の先をドライバーが見て、安全を確認してから走行するのが原則だ。
左:写真-19 重量5t、速度15マイルに規制された道路橋
右:写真-20 重量10tに規制された道路橋
しかし、どう見ても10tを超える一般車両が数多く通行していた。どこの国でも法規を守らないドライバーは多いが、アメリカ合衆国の考え方は、自らの命は自らが守るが基本である。ここが日本とは大違いで、それを良く理解しない人が多いのも困りものなのだが。
1)『Dale Bend Bridge』の落橋事故と諸元
2019年1月30日(水曜日)の夜8時頃、アメリカ合衆国・アーカンソー・Arkansas州のYell Countyの北東部にある『Dale Bend Bridge』が落橋した。『Dale Bend Bridge』の位置は、図-5に示したが、アーカンソー州のウォシタ国立森林公園(Ouachita National Forest)の北側、田舎町オーラ(Ola)の近郊にある。
そもそもアーカンソー州は、アメリカ合衆国南部、私が何度か訪問したバンダ―ビルト大学のあるテネシー州、ミシシッピー州、ニューオリンズのルイジアナ州、ケネディー大統領が狙撃されたダラスのあるテキサス州、オクラホマ州そして北側にセントルイスのあるミズーリ州に取り囲まれた日本人にあまりなじみのない州である。
落橋した『Dale Bend Bridge』は、今から89年前の1930年にインディアナ州のVincennes Bridge Co.によって設計・建設された鋼製ピンプラットトラス橋である。写真-21は、落橋する前の『Dale Bend Bridge』である。写真を見て、何処にでもありそうな、しかし、歴史を感じる素敵な橋と思いませんか?
写真-21 落橋前の『Dale Bend Bridge』・Yell County
橋長は、159.1フィート(最大支間長:119.1フィート)、幅員12.1フィートである。『Dale Bend Bridge』は近年、ハンター、釣り人や森の中を散策する人々に使われ、2010年1月21日には、アメリカ合衆国の歴史的建造物(NRHP 09001263)として登録された道路橋でもあった。