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-分かっていますか?何が問題なのか- ㊼高齢橋梁の性能と健全度推移について(その4) ‐将来に残すべき著名橋になすべきことは‐

これでよいのか専門技術者

(一般財団法人)首都高速道路技術センター
上席研究員

髙木 千太郎

公開日:2019.03.01

関空連絡橋事故と自らの経験から考えること

 次に注目度の高い過荷重について、記憶に新しい船舶衝突事故と、私が経験したタンカー衝突事故を事例に考えてみよう。まずは、昨年の2018年9月4日に発生した、台風第21号の強風によってジェット燃料輸送用の大型タンカー『宝運丸』が関西空港連絡橋に衝突した事故である。
 当時、『宝運丸』が強風で流され、関西空港連絡橋に船体が挟まった状況と、関西空港への主要ルートが遮断され、孤立した空港ビル内が大混乱している様子は、緊急放送としてテレビ画面に何度も映し出された。事故発生後には、関西空港連絡橋の機能停止、完全復旧にはかなりの時間を要するとの見解と、直接の原因となったタンカーの錨泊位置(関空岸壁から5.5km)や方法が悪かったとの報道が流れた。
 事故発生後3日経過した後に、ようやく上り線を使った対面通行を開始したが、開始する時期をもっと早くできたのでは、と問題視する報道はなかった。事故後12日後に鉄道が運行再開、約1カ月後の10月6日にはマイカー等民間車両の利用が認められた。
 事故当時の報道では、今年のGW頃に道路部分の全面復旧予定であったが、関係者の努力によって時期が早まり、4月上旬には全面復旧の予定である。
 ここで、当時、道路管理者が行った通行止めの判断について考えてみよう。関西空港連絡橋の損傷は、写真-4を見れば明らかなように鋼部材は大きく破壊し、誰が見ても安全な交通機能確保が困難であることが分かる。


写真-4 大型タンカーの衝突で著しく損傷した鋼構造物

 台風の強風によって流されたタンカーの衝突事故は、全国放送で流され、利用者や関係者もビジュアルで衝突に至る経緯、破壊した状態を目にしていることから、道路管理者として全幅員の通行止めの判断も容易であったと私は思う。しかし、上り線の道路は鉄道桁が緩衝となり、ほとんど無傷である。私の無責任で安易な考えはお叱りを受けるかもしれないが、もし私であれば、損傷状態と空港の大混乱を考え、翌日には上り線での仮供用を決断、開始したと事故当時は思った。
 次に、私の管理者としての同様な経験談を話そう。前の話とはけた違いにスケールは異なるが、写真-5に示す隅田川を渡河する上路鋼アーチA橋にタンカーが接触した事故の話である。


写真-5 隅田川を渡河する震災復興事業・A橋

 その時私は、A橋の交通規制を行うか否かの判断で迷い、現地で主構造の変形やリベットの損失度などを目視で確認し、安全性が確保できているとの結論を出すまで半日を要した事故である。当時の状況を頭に浮かべ、可能な限り思い出して話をしよう。
 まず、私が事故情報を受けたのは、A橋を管理する事務所の担当技術者からである。幸いに、台風やゲリラ豪雨等の自然災害もない時のタンカー接触事故であり、道路規制も行わずに済んだことから、当然夕方のニュースにもならなかった。
 担当者の話では、隅田川を下る船舶が、A橋の桁下を通過する際、操舵を誤り橋体に大きな音を立てて接触したとのことであった。事務所が受けた情報も、通行人から通報が橋詰めの交番にあり、所轄警察署を経由して伝言ゲームのように受理したと記憶している。
 先の担当者の話は、「A橋にタンカーが当たったようです。橋を渡っていた人の話では、船舶が接触した時の大きな音を聞くと同時に、橋面が揺れたとの話です。私が直ぐに現地に行ってA橋の路面を確認したのですが、段差や伸縮装置のずれも確認できませんでした。ですから、規制等の処置はしていません。しかし、A橋が揺れたとの情報ですので、橋桁が損傷している可能性も考えられます。髙木さん申しわけありませんが、至急現地に見に来てくれますか? 船着き場にパトロール船を付けますので……」との緊急依頼であった。
 確かに、過去には何度も同様な緊急通報を受け、私自身3度の通行止め判断を行っている。とうとう、今回で4度目の判断を行うのか、それも主要幹線を規制するとなると大騒ぎになるな、と思うと同時に、大事にならないように祈った。
 私と同行者は、河川管理に使っている東京都所有のパトロール船に指定された船着き場から乗り移り、いよいよA橋の下流側に到着。遠望からA橋の黄色に輝くアーチの主構造に変形があるかを確認した。遠目ではあるが、A橋の外観に変化は見られない。私は、良かった! 助かった! と胸を撫でおろした。
 話は変わるが、その時、脳裏をかすめた同じ隅田川の話、B橋にタンカーが接触した事故の話をしよう。写真-6のB橋の場合は、タンカーが隅田川の潮位が上がっている時に、無理を承知でB橋の桁下を通ろうとして主桁に接触した事故である。写真-7にB橋の主桁(外桁)の変形状態を示すが、その時は一時的に路肩部分を交通規制せざるを得なかった。


写真-6 隅田川を渡河するB橋/写真-7 タンカーの接触で変形した主桁・B橋

 A橋と同様に、私が船舶で桁下に入り、橋面上を通過する車両による路面のたわみや異音発生などを確認、その後交通規制を解除した事例である。主桁の変形程度は、中心線から約50㎜程度内側に押し込まれた状態であった。確かに主桁の損傷度は大きかったが、B橋の架かる路線の交通量や大型車通行時のたわみなどから、規制解除が適当との判断をした。
 B橋の場合は、変形した主桁の上が歩道であったこと、床版や他の主桁が分配してくれたことが影響を最小限に留めたようだ。この事故後、B橋は、種々な箇所の変状(腐食による断面欠損等)が進行し、最終的には架け替えている。
 話を戻そう。私は、直ぐにA橋の桁下に入り込み、損傷した主構造に接近し、損傷程度を確認した。損傷は写真-8に示すように、主構の2箇所に薄板が捲れ上がったような状態であった。


写真-8 タンカーの接触で損傷した主構・A橋

「髙木さん、鋼材が捲れ上がっていますよ! 大丈夫ですか? 交通規制しますか!」
 担当者が声を出す。私は、彼の声を聞いても全く動揺はしない。何故ならば、捲れているのは主構に巻いた防錆シートであるからだ。これも以前、私が、隅田川を上り下りする船舶の立てる波や飛来塩分から、鋼材を守るために措置した防錆シートだったのである。写真-9は、私が船舶上からA橋の損傷した箇所の腐食防止シートを剥いで、リベット等に浮きや空隙がないか点検ハンマーで叩いている状況である。
 A橋は、幸いにもリベットの頭部が一部削り取られてはいるが、動きや浮きは見られず、胸を撫でおろした。最終的な判断は、当該部材を固定しているリベットの5本が損傷(写真-10参照)しているのみで、母材の変形は全く見られなかったので交通規制も行わず、その後、損傷したリベットを交換して無事終わりとなった。


写真-9 損傷した主構とリベットの確認状況/写真-10 大きく損傷した1箇所の状況写真

 今回紹介したふたつの事例から、行政技術者としての判断の難しさが少しでも伝わったであろうか? 私は前文で、関西空港連絡橋の通行止めの判断について問題を提起したが、それは直接現場を見ていない、当事者でもない技術者の戯言である。
 私の体験談と関西空港連絡橋事故概要を読んで、現場で指揮する技術者の辛さが分かっていただけたであろうか? 万が一の事故を防止し、隠れた損傷(上部工および橋脚)の有無を確認し、万全の態勢で臨むのが管理者としての使命だからだ。報道や周囲の雑音で、安易に供用開始させることは、管理者として無謀なのだ。石橋を叩いて渡るような安全確認行為が、安全・安心を提供する、行政技術者の真の姿なのである。
 長くなったが、いよいよ本題の環境の違いによる健全度の影響について分析結果を説明しよう。

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2.環境の違いが道路橋の健全度に与える影響

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