-分かっていますか?何が問題なのか- ㊻高齢橋梁の性能と健全度推移について(その3)‐将来に残すべき著名橋になすべきことは‐
これでよいのか専門技術者
(一般財団法人)首都高速道路技術センター
上席研究員
髙木 千太郎 氏
3.供用下道路橋の疲労耐用年数
道路橋の健全度は、発生している変状(損傷:時間軸の短い変状と劣化:時間軸の長い変状)の程度と発生している変状の橋梁構造への影響度によって左右される。先に説明した大型車交通量が構造物に与える影響は、作用荷重によって部材や構造体が変位、変形しなければ全く無いはずだ。作用荷重によって発生する変状は、過荷重(設計荷重以上の作用力:過積載車両、無許可の特認車両、想定以上の衝撃荷重、地震力、地盤の変位など)、疲労、設計・施工の誤りなどが考えられる。これまで説明した今回の作用荷重による分析は、大型車交通量、特に疲労に着目した健全度分析である。
結論は、私が分析前に予想していた結果と概ね一致し、累積していく大型車交通量は健全度に影響があることを明らかにできたと思う。しかし今回の分析は、部材に発生した変状を、目視外観によって捉えた結果による健全度評価をベースにしている。外部から見ることのできない変状や、発生して初めて確認ができる疲労亀裂(塗膜割れや亀裂)は、100%フォロー出来ていない。このような理由から、疲労亀裂発生の予測、残存寿命(疲労亀裂が発生した時、それを発見できずに重大損傷、例えば、主桁破断などに至ることを想定)予測を実橋計測によって行ってみた。
追加分析は、供用下の鋼道路橋において、載荷試験、応力頻度計測等を行い、疲労亀裂発生時期を予測計算する方法である。対象として抽出した橋梁は、径間長が35m程度で構造形式が鋼単純合成鈑桁橋の4橋であり、G等級継手を対象に計測した。第一のA橋は、市街地の主要幹線にある全体4車線の高架橋(写真‐1参照)、総合健全度がBランクである。大型車交通量は、交通量センサスデーターによると、713台/日/車線、動的載荷試験実施時、576台/日/車線であった。第二のB橋は、同じく市街地の主要幹線にある全体6車線の連続高架橋(写真‐2参照)総合健全度がDランクである。大型車交通量は、交通量センサスデーターによると、4145台/日/車線、動的載荷試験実施時、2856台/日/車線と、A橋とは違って、交通量も大型車交通量も多く、過去には疲労亀裂が発生した橋梁でもある。第三のC橋は、市街地の主要環状線にある全体4車線の高架橋(写真‐3参照)総合健全度がCランクである。大型車交通量は、交通量センサスデーターによると、3039台/日/車線、動的載荷試験実施時、2356台/日/車線であるが、B橋との違いは、大型車交通量は多いが過積載車はB橋ほど多くはない。第四のD橋は、市街地の一級河川を跨ぐ全体4車線の道路橋(写真‐4参照)総合健全度がBランクである。大型車交通量は、当該区間の交通量センサスデーターは無いので、載荷試験時に行った調査データー937台/日/車線のみである。今回応力頻度計測及び残余耐用年数を求めた結果を表‐1に示す。
今回抽出した同一支間長、同一構造4橋の残存耐用年巣予測結果を見れば明らかにように、累積大型車交通量イコール耐用年数とは結論づけられない結果となった。私としては、自らの考えや先に説明した大型車交通量と健全度関係から、大型車交通量が道路橋の耐用年数の主要な要因であることが、追加で行った4橋の載荷試験及び分析で明らかとなると考えていた。また、疲労亀裂の発生の主要な因子は大型車交通量であり、同規模、同構造の橋梁であれば当然、残存耐用年数は大型車交通量の少ない橋梁は長いと考えていた。
しかし、表‐1を見れば明らかなように、私の想定とは異なった結果となっている。健全度と大型車交通量の関係については、寿命予測を行った対象橋梁数が4橋と少ないこと、健全度調査結果との関係を掘り下げていないことなどから、2つの分析結果を結びつけるのは困難と判断した。二つ目の4橋の対比であるが、対象橋梁の主桁本数、桁断面、床組み剛性、床版厚等が違っているので、両振れ応力(応力変動幅)と繰り返し回数が異なっていたと考えられる。より精緻に求めるのであれば、例えば、主桁のたわみ差や床板条件等を考慮し、再算定の必要性があると考える。今回、3度の定期点検によって求められた大型車交通量を因子とした健全度の推移と実橋の載荷試験と応力頻度計測結果による余寿命予測の2つの分析結果を説明した。最後に、地方自治体が管理する道路橋の余寿命予測や、高齢化による橋梁事故発生を防ぐにはどのように考えるべきかについて、もう少し考えてみよう。
私としては、適切な維持管理を行うには、全ての管理橋を対象に載荷試験を行うことで耐荷力を算出する考え方、実橋計測の有用性は十分に分かってはいるつもりである。しかし、全ての管理橋を対象に実橋計測するのは多くの時間を要するだけでなく、多額の費用が必要となるので不可能なのが現実である。そこで、以前は同規模、同一構造の橋梁を束ね、その代表橋梁をモニタリング橋梁として実橋計測し、その結果を活用することで道路網全体の安全性確保が可能と考えていた。しかし、今回の分析結果から、私の考えをそのまま進める事はリスクが大きく、他の因子を加えて再考することが必要であると判断した。そこで、第一に道路橋の作用荷重(大型車交通量等)に着目し、数度行った定期点検結果から求めた健全度推移によってリスクの高い対象箇所を絞り込む。第二に、その中から使用材料、構造形式、規模に加え、主構造断面、床版構造、防護柵(剛性防護柵、遮音壁等)や添架物の荷重分配効果などからモニタリング橋梁を抽出する。第三に、道路網を考慮したうえで対象橋梁選別し、実橋計測を行い、その結果から効率的に対象橋梁、橋梁群の対策必要時期や余寿命を予測する考え方である。
今回は、対象橋梁4橋のみの計測から算出した結果を基に関係性を考えたが、先に示した考え方をより精度高く示せるように今後は、対象橋梁の数を増やし、如何にすれば全ての管理橋を適切に予測できるかを再度考えてみたい。
最後に、地方自治体の道路橋を管理している技術者の方々に、疲労について留意点を述べよう。今回示した私の分析結果を見て、読んで、自らが管理する橋梁に対し危機感を抱き、いたずらに外部委託を出すことが無い様にとの、私の強い思いからの提言である。実橋計測結果から言えることは、G等級継手(A~H等級)であっても疲労亀裂発生までに最短400年程度であることを考えると、一般的な地方道の交通実態であれば、設計耐用年数内では疲労亀裂発生の可能性は極めて低いと考える。地方道の道路橋に、疲労亀裂が発生する確率は低いと言うことである。ただし、対象橋梁に、設計や施工の誤り、特に溶接部に大きな欠陥がある場合や、予想を超えるような過積載車両が頻度多く通行する状態は除けば、の話しであるが。
私の拙い経験から言わせてもらえば、既設の構造物を理解するには、机上で心配するよりは現場に出て、数多く見ると分かることが多い。私は思っている、貴方が心配している橋梁の、橋面上や桁下に立つと、貴方が持つ五感によって必ず橋の声が聴けますよ。読者の皆さん、橋の生の声を聴きに行きましょう!マニアックに。次回は、環境や構造の差異による健全度への影響について説明しよう。
(2019年2月1日掲載、次は3月1日に掲載する予定です)