道路構造物ジャーナルNET

シリーズ「コンクリート構造物の品質確保物語」⑰

南三陸国道で行われる受発注者の協働思考 「対話」の重要性

横浜国立大学
大学院 都市イノベーション研究院
准教授 

細田 暁

公開日:2017.04.04

 インタビューシリーズの第五回目は、全国的に有名になった釜石山田道路小佐野高架橋A2製作工事にスポットを当て、同現場で代理人を務めたテラの菊池美富氏および同社で工務係長を務める菊池啓明氏に話を聞いた。新しい技術や品質確保技術を導入していく中で、如何に受注者側と発注者側が対話することが重要かということが、透けて見える内容となった。(聴き手:細田暁・横浜国立大学准教授)(編集:井手迫瑞樹)

小佐野高架橋A2現場での工夫
 テラ 様々な品質確保のための印

 細田准教授 小佐野高架橋A2の成果は全国の様々な講演会や講習会で頻繁に紹介させていただいています。
 菊池美 ありがとうございます。
 細田 まず小佐野高架橋のP1~P3、P7~A2を施工され、よく話に出てくるのはA2ですが、一連の下部工の施工で、手間本監督官と連携されながら、施工されてきたコンクリート品質確保のための工夫について、思いも含めて内容を教えてください。
 菊池美 現場では、教科書通りに簡単に誰でも目で見てわかるように工夫するためにはどうすればよいかと考えました。例えば、誰でも簡単にわかるように、コンクリートを打つ厚さの目印を鉄筋に印を付けたりとか、ポンプのホースを下ろす高さ高さの目印、バイブレータに印を付けて10cm挿入するための目印などを分かりやすく示しました。



様々な場所につけられた目安となる「印」

 細田 そういう工夫について、以前はなされていなかったのですか。
 菊池美 10年ぐらい前からバイブレータに印を付けることは行っていました。
 細田 何のための印ですか。
 菊池美 一つ下のコンクリートの層に10cm入れる印ですね。型枠や鉄筋を基準にして、印をここまで差し込んでやれば、バイブレータの先端は下の層に10cm差し込んでいるな、という目視確認方法です。
 細田 こうした手法は誰が考えたのですか。監督官と話しながらですか?
 菊池美 いいえ。自分たちで考えてやっています。監督官と話しながら考えていったのは、ひび割れ抑制鉄筋です。
 細田 設計には誘発目地もないのでしたっけ。
 菊池啓 ないです。
 細田 あれ(A2)を誘発目地なしで作れという設計ですか?
 菊池啓 そうですね。
 細田 それでは真面目に施工しても補修基準を超えるひび割れが出て仕方ないですね。

ひび割れ抑制鉄筋 配置は試行錯誤
 材料・施工費は追加

 細田 ひび割れ抑制鉄筋の採用はどういうふうにやっていったのですか。
 菊池美 最初に手間本監督官から山口県の品質確保ガイドを紹介されて、これを参考にひび割れを抑制していこうと促されました。その結果、ガイドを勉強して、現在のような鉄筋配置になりました。
 細田 自分で勉強するだけでできるようになるものなのですか
 菊池美 ガイドは読みやすく、十分理解でき、応用しやすいとものであったと感じています。
 細田 鉄筋量、鉄筋比まではすぐ出てくるかもしれませんが、配置とかは?
 菊池美 配置も自分たちで考えて施工しました。適正な鉄筋比となり、施工もやりやすい鉄筋ピッチとなるように配置したつもりです。大工さんからは主鉄筋と結束する配力筋を増やすのは少し困るという風な話をされて、それも考慮しました。


小佐野高架橋A2橋台鉄筋配置図/A2橋台たて壁補強鉄筋状況


A2橋台鉄筋配筋図(胸壁部)/A2橋台胸壁部補強鉄筋状況

 A2は橋脚と比べるとほぼスカスカ状態でしたので、鉄筋比を増やすというのが少し苦しくて、それで元からの配力筋を増やすタイプの鉄筋(タイプB)も入れました。コンクリート打設を考えると、棚筋のように配置するタイプAが増やしすぎたくない。
 細田 だからタイプAの鉄筋を少し端に寄せたのですね。
 菊池美 そうですね。中央には、人が入らなきゃならないし、ポンプのホースも入れていかなくてはならないし、という辺りを考慮しました。
 細田 表面のひび割れ幅を抑えようとすると、両脇に寄せた方がいいようにも思いますが、適切な鉄筋配置は今後も皆で勉強していきたいですね。
 菊池美 そうですね。
 細田 今回、通常の工事だとみてもらえない費用のサポートがあったと思うのですが、その具体的内容を教えてください。
 菊池美 まず(ひび割れ)抑制鉄筋の追加分は見てもらいました。また、試験体を3個作りましょうという依頼が手間本監督官からありましたので、その製作費用も見てもらっています。
 細田 ひび割れ抑制鉄筋は材料の費用だけですか。
 菊池啓 材料だけでなく加工費も込みです。鉄筋屋さんには喜ばれましたね。

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