道路構造物ジャーナルNET

第95回 点検から補修へ、インフラ・マネジメントへ

民間と行政、双方の間から見えるもの

植野インフラマネジメントオフィス 代表
一般社団法人国際建造物保全技術協会 理事長

植野 芳彦

公開日:2023.12.16

3.今後のインフラメンテナンスは?

 笹子から、10年が過ぎた。第2ステージであるはず。なのにまだ点検の話しか出てこない。異常な世界である。点検はしなければならない。しかし、点検は点検である。点検で物は直らない。良くはならない。新技術の導入とは言われているがほとんどが点検に関するものだ。

 富山に赴任しすぐ(10年前)、「橋梁トリアージ」と唱えたら、多くの方が異を唱えた。「点検しないつもりか?」とまで言われた。しかし、トリアージを行うには、1度は診て、全体を把握してから、トリアージしていくのが定則である。そして10年前に道路法の改定により、橋梁などの全数近接目視点検の義務化が行われたときには、心ある管理者は、少なくとも重要橋梁(15m以上)に関しては点検を実施していた。15m以下に関しては遠望目視などで概要は把握していたはずである。そうでなければ、平成24、25年頃に全国で制定された各自治体の「橋梁長寿命化計画」は作れていないはずである。まあ、これも、実施したコンサルタントの力量が大きく影響していることは、精査すれば明確である。

 なので15m以上に関しては、もう3回は診ているのである。ここで問題なのは診断結果である。いくら何度も点検しても的確な診断ができていなければ、行った意味はない。したがって、管理者は診断を、他人任せ(コンサルタント等)にしないで、自ら責任をもって行うべきである。この診断と言う行為には、責任が伴うことはもちろんであるが、複雑な要素が絡むはずである。なので、セカンドオピニオン的な「診断協議」は重要である。今後はますます、効率的で安価で正確な点検・診断が必要となるので、このセカンドオピニオンは実施していただきたい。

 これには時間と労力、根気がいる。残念なのは今ほとんど補修補強に関する議論が聞こえてこないことである。自己満足の話は聞こえてくるが、本当にそれでよいのか? 補修材料や工法に関しては、あまり議論が無いというのは情報が不足している。業者さん側はNETISに登録しているからそれでよいと思っているかもしれないが、NETISに関して役所はいちいち勉強していない。さらにこのNETIS、国土交通省などでは推奨しているが、これは“認証”ではない。認証とはもっと、過酷な審査を経てされるべきものである。私の考えでは、「技術審査証明」程度の審査は必要である。NETISは「登録」であり「認証」ではない。これも何度も書いているが、一向に理解されないようである。カタログに登録されていれば安易に使ってよいのかどうかは使う側に有る。いわゆるカタログ値を信ずるのかどうか?公共事業に採用するのかどうか?と言うことが本来議論されるべきである。議論し納得したのならば採用してもよいと思うが品質の保証はないのである。その時は自己責任である。前述した、JICA研修では研修生から補修工法・補修材料に関しての質問が多かった。しかし、我が国ではこの手の議論はない。

 では、補修材料・工法として重要な評価されるべき項目は何か?初期建設時も同様であるが、施工性、維持管理性、耐久性、経済性である。この中で、耐久性に関しては様々な議論があるが、最低で5年であろう。10年もてばかなり良いとなるのではないだろうか?よく、何十年という数値を目標にしても、ことは補修である。新設時とは違うので、次の点検サイクルまではもってほしい。しかしよくあるのが2年程度で劣化してしまうケースである。これは早すぎる。こういう耐久性の評価が重要となる。もちろんバカ高い補修方法も使えない。ある程度の経済性が無いと公共工事には向かない。しかし、多くの補修方法がその、性能を含め耐久性の評価がされていない。
 ひび割れ注入が多分一番多く実施されていると思うが、早期劣化してしまうものもある。なので、管理者としては補修材料補修工法の性能の評価が欲しいところであるがなかなか出てこない。多くのコンサルが提案してくるものは、カタログ値である。実証に基づく性能が示されなければ意味がない。予防保全とか言ってはいるが早期再劣化を繰り返していると、何の意味も尾たなくなってしまう。なので、損守具合に応じた補修工法の適切な判断ができるような資料もしくは評価制度が欲しいわけである。申し訳ないがNETISではカタログ値程度のものである。
 ということで、「補修オリンピック」と言う物を富山で実施している。これには、北陸地区の多くの大学の先生方に参加していただいている。富山市の管理する橋梁などのフィールドを使い、実際に試験施工をしていただき評価を実施している。これも、5年目になるので、そろそろ最低の耐久性が実地で確認できることになる。

 しかし、できればこういうことは一自治体で行うのではなく、国もしくは業界で行っていただきたい。そして何よりも、「ネーミングが悪い」などと言ったつまらない評価をするのではなく、そういう仕組みを作ってほしい。実は国土交通省には「技術審査証明制度」と言う物がある。私も何件か担当させてもらったが、NETISとは違いきちんと委員会を作り評価していく制度である。これが民主党政権の時に忘れ去られ、今やほとんど機能していないのでは荷だろうか?この制度にも、審査費用が高すぎる。期間がかかりすぎるというデメリットがあるが、きちんと評価している点は素晴らしいと思う。現在これがあまり知られてはいないが、公共事業で使用される新技術を評価するということはそういうことなのではないだろうか?

 とにかく制度や仕組みの話は、考えてもらうとして、我々がやるべきは、第2ステージでは、如何に補修していくか・その後の全体のマネジメントをどう考えていくかを決める時期になる。そうすればおのずと包括管理も群管理も見えてくる。そしていかに新技術を導入していくか?新技術を導入するということは、点検の質を上げていくことにも通ずる。非破壊検査法などの活用も重要である。より損傷を深い部分で確認する必要もある。

 いずれにしても、第2ステージは、改めてインフラマネジメントを考え直す契機だろう。

4.まとめ

 ここで、私が何を言っても、おそらくは何も変わらないだろう。少数派の同調者の方々がせめてもの救いである。しかし、一つ言いたいのは、インフラ構造物に関わるということは厳しいことである。もちろん自分の意見など通るはずはないが、きっちりやらなければならない。思い付きや、目立とうということではない。厳しい世界だということ。

 これまで、様々な政策を構想し取り組んできたが、そのたびに批判された。まずは「橋梁トリアージ」「補修オリンピック」「再劣化」・・・・とさまざまであった。が結果10年たってみれば、それぞれそれなりに評価されている。これらは実は、「富山市橋梁マネジメント基本計画」の中の1つ1つの、1項目なのである。全体のマネジメント計画の中でやるべき施策として挙げたものである。全体の目的が有って、それを実現するために、作戦的な項目である。戦略を考え戦術を示すこれが、重要である。これが、ごっちゃになっている。1つの戦術では、目的は達成できないが1つにこだわってしまうのが、この国の姿。マスコミもそれを取り上げたがる。負けのパターンである。日本人はこれが昔から強い。良く「大本営発表」と言われることだ。誰か声の大きい人影響力のある方が「すごい」と言い出すと、それのみにこだわっていく。それでは、勝てないのだ。戦略も戦術も変化する。生き物なのである。マネジメントも同様である。

 新技術にしても1つの技術ではだめで多くの技術を常に勉強していかねばならない。意外とこれが理解できない方々が多い。インフラ・メンテナンスは1つの手法で取り組んでいけるような、甘いものではない。「多くの手法でやる」しかないのである。例えば皆さん、あまり知識がないから取り上げようとはしないが、非破壊検査技術を、1つとっても、複数の手法で実施し答えを導き出すくらいの気持ちが必要である。構造物の標準化が、きちんとなされていれば、点検にしても維持管理も、もっと効率化がしやすく楽だったはずである。自動化もロボット化も楽だった。しかし、そうはしてこなかった。その辺が逆に単純な思考と言うか自分たちの都合の良い理由で、複雑化してしまっている。とてもとてもこういう思考では新技術の導入も進まないだろう。

 さらに最近は包括管理や群管理と言うことが言われている。これは、自分の管理物を管理しようと思えば、あたりまえの発想である。当たり前なのだが、「分からない」とか「どうすればよいのか」とか言っているようでは先はおぼつかない。結局は「管理者」(アセトオーナー)としての意識が無いからである。管理者であれば当たり前の思考が停止状態になっている。新設時は1件1件である。しかし、運用・管理する時点では複数の物を一度に見ていく必要がある。この思考は、マネジメントや管理をしたことのない人たちには、難しいであろう。つまり民間にはなかなかなじめない。1つ1つの知識はあっても全体を管理する知識は未だに無いのが一般的である。これは机上論では難しい。確かに合理的に実施するために高度な知識や技術は必要とはなるが、全体を管理するという意識、マネジメント力はそれとは別物であるが、これがごっちゃになっている。これではうまくいかない。

 先日、ある会議で話していて感じたが、新技術を相手に説明するときに(開発するのも同じ)、自己満足では、使われないということがわかっていない。自分たちでどう思おうと相手がた(採用する側、官庁など)の立場で考えないと、使われないのだが、それがわかっていない方々が多い。開発したという自負があるのだろうが、相手の立場で考えられないと、永久に採用はされない。話していると結構強情な方が居る。相手には相手の立場もあるし、時間的制約もある。コストもある。これが理解されなければ全くダメ!それを簡単に聞き取るために、大手企業では官庁OBを雇っているのだと思うが、もっと、相談し、意見を伺えばよいと思う。

 私は、相手から、聞かれたことや頼まれたことは、ウエルカムで基本的に応じる。しかし、これは相手にもよる。どうも、真摯に聞かれもしないし頼まれもしていないと感じれば、お断りする。まあ、頼む方も少ないが。

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