第3回 アメリカ、中国、スイス、日本の事例
超緻密高強度繊維補強コンクリートによる橋梁の補修・補強
コサカ設計・アソシエーツ代表
(J-テイフコム施工協会理事)
上阪 康雄 氏
4.EUと日本における橋梁のUHFPRC補修に関するワークショップの紹介
本年8月26日には大阪で、8月28日には札幌において、表記のワークショップが開催された。大阪ワークショップは、(一財)災害科学研究所J-ティフコム技術研究会の主催、札幌のワークショップは、鋼道路橋研究委員会複合構造小委員会・コンクリート研究委員会国際交流小委員会主催によるものであった。ここでEUとは言え、招かれたのはスイスローザンヌ工科大学のブリュービラー教授のみであったが、世界が認めるUHPFRCの第一人者であり、その内容には興味がそそられた。
なお大阪では、会議の前日にブリュービラー先生に対して、阪神高速道路のUFC床版を使用した現場の案内があったので、北海道大学の松本高志教授とともに、筆者も通訳として同行させてもらった。現場付近にある阪神高速先進技術研究所において、阪神高速道路の小坂崇課長から、UFC床版の概要と阪神高速道への適用についての説明があった。日本特有の施工速度を得るために、プレキャストUFC床版の橋軸方向支間を2.5mとし、小型クレーン等で順次、架設していく技術は、汎用性が高いと言える。鋼桁の床版取替えに対応した平板型UFC床版を以下に示す(図-28,30)。橋軸方向はポストテンションPC構造、橋軸直角方向は、プレテンションPC構造としている。また、新設橋への適用として、ワッフル型UFC床版の開発も行っている(図-29)。
図-28 平板型UFC床版 / 図-29 ワッフル型UFC床版
図-30 プレキャストUFC床版の架設と現場での説明
スイスのブリュービラー教授の講演には、聴講者らの熱い視線が注がれた。講演は英語であったが、予め筆者が講演資料に邦訳を併記しておいたので、おおかた理解は得られたはずである。その中で先生が最も強調されていたのは、床版増し厚として、鉄筋入りのR-UHPFRC補強を強調されていたことが印象に残った。日本ではまだまだUHPFRCのコストが高く、鉄筋入りだと増し厚量がかさみ、発注者は採用を見合わせてしまう。いかにしてR-UHPFRCのコストを下げられるかが今後の課題である。さらに、目地充填材としての活用も橋梁の寿命を延ばすツールである(図-31,32)
図-31 鉄筋入りUHPFRCの長所 / 図-32 一体性確保のための目地充填(いずれもJ-ティフコム技術研究会)
北海道大学の松本高志教授(J-ティフコム技術研究会会長)からは、RC床版の押し抜きせん断補強に関する研究成果が発表された。試験体は図-33に示す形状であり、供試体-2が昭和39年基準に準じた厚さ160mmの基本供試体(圧縮強度23.0N/mm2)、供試体-1は、平成29年基準に準じた厚さ200mmの供試体(圧縮強度28.2N/mm2)で、他は供試体-2を基本としている。試験結果(図-34,35)によれば、基本供試体を20mmはつって、J-ティフコムに置き換えることで、H29基準にかなり近づくことがわかる。
図-33 押し抜きせん断試験体の形状と種類(J-テイフコム技術研究会)
図-34 押し抜きせん断試験状況とひび割れ状況(J-テイフコム技術研究会)
図-35 押し抜きせん断試験結果とH29試験体との比較(J-テイフコム技術研究会)
松本教授の上記報告は、大阪会場ではウェブナー機器不具合により短時間となり、札幌での報告会動画があとから配信された。札幌会場では、武者浩透氏(大成建設)より、我が国におけるUHPFRCの展開動向が報告された。これまで日本では、酒田みらい橋や羽田空港GSE橋梁など、工場製作のUFCプレキャスト桁が利用されてきたが、今後は全国の道路橋RC床版のリニューアルに向けて(図-36)、UHPFRC増し厚工が急ピッチで研究・開発されてきているとのことである。
図-36 高速道路ネットワークが果たす役割と課題
(高速道路資産の長期保全及び更新のあり方に関する技術検討委員会)
5. あとがき
本稿では、UHPFRC床版補修に対して、アメリカ・中国において急速に進められてきた施工技術改良と、既設・新設橋へのUHPFRC床版の適用について紹介した。両国では、UHPFRC技術が大学研究室のみでなく、国立研究機関や民間の技術者に広く知られてきており、特に維持管理面での優位性がLCC評価において補修工法選定での決め手となっている。
我が国の既設橋においては、第4章で取り上げたように、今後RC床版の劣化は急速に拡大することが予測される中、ようやく大手建設会社技術者が現場練りUHPFRCに着目するようになり、来年からは、場所打ちUHPFRCによる大規模な床版リニューアル工事が高速道で始まると言われている。本報告が、道路を管理する維持管理技術者の参考になれば幸いである。
最後に4章のワークショップ参加をはじめ、これまでJ-テイフコムの開発にあたって、常に貴重なアドバイスを頂いているブリュービラー教授、松井繁之大阪大学名誉教授、松本高志北海道大学教授に感謝を申し上げる。