第3回 アメリカ、中国、スイス、日本の事例
超緻密高強度繊維補強コンクリートによる橋梁の補修・補強
コサカ設計・アソシエーツ代表
(J-テイフコム施工協会理事)
上阪 康雄 氏
3.中国における橋梁のUHPFRC補修への適用例
次に取り上げるのは、中国においてUHPFRCを使用した事例である。中国では、鋼橋の直交異方性鋼床版(OSD)の疲労損傷が多く、その対策としてUHPFRCを鋼板と合成させる研究が進められ、2011年、湖南大学のShao Xudong教授らは、広東省肇慶(ザオチン)のMafang(馬房)橋(1984年建設、14x64m、幅12.1m)において、最初の2スパンは、従来の舗装補修としたが、残りの径間は舗装撤去の後、疲労対策として、図-13右に見るようなスタッドジベル+50mmのUHPC層をエポキシ樹脂処理面に施工し、その上にアスファルト舗装30mmを施工した(図-13,14a)。
図-13 OSD鋼板のUHPC層による補強
この補修から12年が経過した今、従来の舗装区間では、再び橋軸方向の亀裂が舗装面に確認されている一方で、UHPC補強区間は全く異常が見られない(図14b)。
図-14 Mafang橋のUHPC層+舗装施工直後 / 2023年のMafang橋
UHPCの中国コンクリ-ト道路橋への適用は、2016年陝西省のMiaozui橋(2015年架設、7x20m、幅8.5m、プレテンプレキャストホロー桁)に始まる(図-15)。この橋では施工直後から、長安大学の研究者らが、交通開放レーンのホロー桁に作用する応力のモニタリング調査を実施していた。その結果、Duan Lan教授らは、疲労安全性の観点から、防水性、耐久性、耐荷性に優れたUHPCオーバーレイ層の敷設を提案し、翌年の2016年に2方向鉄筋を敷いた後、厚さ40mmのUHPC層の表層全面への施工が決まった(図-16)。UHPC層にはスリットが入れられ、走行面として利用される。
図-15 Miaozui橋とその断面図
図-16 Miaozui橋のUHPC施工と完成面
さらにその後の中国では、大型吊橋や斜張橋へのUHPCの利用が数多く進められている。2018年には、新設橋として施工された湖南省岳阳に架かる杭瑞高速道路 Dongting Lake Bridge(湖底湖大橋,中央径間長1480m,全長1933.6mの鋼トラス吊橋)にUHPC複合軽量床版が採用された(図-17~20)。
図-17 湖底湖大橋、湖南省岳阳の位置 / 図-18 湖底湖大橋(新華社hp)
図-19 鋼板へのジベル,鉄筋,UHPC設置 / 図-20 鋼-UHPC複合断面
湖底湖大橋の鋼-UHPC複合床版の採用には、ローザンヌ工科大学と湖南大学研究者の長年にわたる交流、特にスイスでPhDを取得した研究者らの新材料に対する厚い思いと研究成果が生かされている。彼らの研究成果に基づいて、UHPCの採用によって床版厚さは薄く、軽量化が図られると共に、防水性・耐久性の大幅な向上によって、維持管理費のミニマム化が提案されたためにこの形式の採用が決定されたのである。以下に、工事の様子を示す(図-21~23)。
図-21 鋼板へのスタッドジベル取付けと補強鉄筋(D10)の組み立て
図-22 UHPCの製造ユニット / 図-23 UHPCの敷均し作業、後ろは養生シート
湖南省岳阳の左上、湖北省に位置する宜昌長江公路大橋(Yichang Yangtze River Bridge)は、2001年に架設された鋼箱桁吊橋(中央径間長960m,全長1187m)であり、床版上に劣化が目立ち始めたので、2021年に床版補修が求められ、LCCの観点から、鋼-UHPC複合床版への取替えが決定された(図-24)。
図-24 宜昌長江公路大橋(Wikipedia hp)
この橋の補修・補強対策へのアドバイスに対しても、湖南大学Shao Xudong教授チームらの貢献は大きいと言える。
以下に施工時の写真を示す(図-25~27)。
図‐25 UHPC施工風景 / UHPC施工前の湿潤作業
図-26 UHPC製造ユニット / UHPCの敷均し
図-27 養生シートの敷設 / 養生作業完了