道路構造物ジャーナルNET

番外編 アスファルト舗装について

失敗から学んだコンクリート

株式会社ファインテクノ
調査計測部
マネージャー

平瀬 真幸

公開日:2023.07.14

ありもしない機能を発注者が勘違いするよう誘導する行為は許されない
 最後の砦は施工者だが......

 舗装修繕工事の設計費用については、予算が少ない発注者におかれては計上が難しい時代が過去にあったと聞いた事がありますが、私の施工した現場は発注者職員と材料メーカーが協力して設計を考えていたようでした。私が担当した現場は急勾配の坂道にも関わらず、乳剤タックコート0.8L/㎡でアスファルトのひび割れ抑制できると言う誤った設計、しかも施工不可能な項目が計上されたのはそうした経緯から選択肢が限られたからでしょう。発注者からメーカーへの相談は多くが無償だったと推測できる事から、そうした相談に対して「コンサル料金の代わりに自社製品を採用いただいて補填しよう」といった考えも理解できるものですが、ありもしない機能を発注者が勘違いするよう誘導する行為は許されるものではないでしょう。この材料メーカーは私の所へ営業に来ましたが、発注者への不誠実な対応に思う所もあって見積もりも依頼しませんでした。

 ここで、最後の砦は施工者となると思うのですが、施工者に舗装の概念を理解する技術者がほとんどいないので期待はできないと思います。技術者に公益を確保しようとする気持ちがあれば努力次第かも知れませんが、時間と費用がかかりますのでそうした費用もままならない厳しい環境、そして努力と結果を評価いただけない時代が長かった事から技術力を継承できず書類スキル継承に移行せざるを得なかった事から技術者が事務職レベルに成り下がっている現状があります。

 舗装工事は手軽で簡単といった施工者からしたらやっつけ仕事に分別されているかのような状況もそうした現状に拍車をかけて現状の打開が難しい状況かと推測します。実際、私が所属した地方建設会社では、舗装工事は複数現場の掛け持ちが当たり前、受注者の舗装に関しての意識は「簡単で手っ取り早い」程度のモノで例外はありませんでした。私の認識では、アスファルト舗装が難しい事から、一流メーカーを選別して助言をいただきながら徹底的に勉強しましたが、同僚達からは「簡単な舗装で何してるの」といった反応しかありませんでした。アスファルト舗装は難しい反面、簡単に見えてしまう事からいい加減な設計照査・施工・維持がまかり通っている現状が国内全体においてあるのではないかと、傷んだ道路と幾重にも無駄と思われるやっつけのパッチング等を見ながら感じております。それだけ予算がないのか、予算があってもアスファルトを熟知した技術者が圧倒的に足りないのも一因でしょうが、アスファルト工事に関する考えを改めていかなければ今後もアスファルト工事は無駄なやっつけ仕事となるのではないかと危惧しております。

打設の1日でライフサイクルコストが決まる
 当然の経費・工費・材料費など計上が必要

 このサイトをお借りし、何度もコンクリートは生コン打設の1日でライフサイクルコストが決まる事を主張しておりますが、アスファルトも基本的に似た考えで、大きく違うのはコンクリートより短いスパンで定期的メンテナンスが必要と言う事があると思います。しかし、アスファルトだから短期間で壊れても仕方ないと言った事はあり得ず、適正な設計と施工がなされれば不適切な場合と比較して数倍以上にライフサイクルコストは違ってくるのは間違いないと言えます。

 舗装工事は路床支持力が一定以上あれば、交通量と支持力に見合う舗装厚を算定し、施工においては乳剤の散布量とそれに見合う養生、そして解放するタイミング等の判断を間違えなければ相当のモノとなると思いますが、アスファルト舗装は交通規制を伴う事が多いため規制時間を守る事を絶対としなければならず、品質よりアスファルトを更新する事が目的となっている事がほとんどだと思います。これは誰が悪いと言う事ではなく、発注時に、そうした時間的余裕や材料も相当の考慮がなされていない事が多い事から施工者が無理をするからだと思います。効率化や働き方改革以前に、当然の経費・工費・材料費など計上しなくては、誇りある現場とする事もかなわず技術者として公益に貢献している手応えを得られないように思います。

 ここで、同じ工法で施工された2つの舗装現場において耐久性が大きく違う対照的な事例を紹介したいと思います。この2つの現場は同じ工法であり路床支持力に対して、適正な舗装厚・路上再生路盤が採用されております。一つは私が2012年9月に設計照査・施工した現場(写真-13)、もう一つは前者の数年後に施工されておりますが、施工から3年程度で亀の甲状のひび割れが目立ってきた現場(写真-14)です。


写真-13 2012年施工僅かのひび割れ/写真-14 施工から3年で亀甲割れ

(写真-13)より数年後に施工された現場(写真-14)が圧倒的に早く壊れている事から両者の差は何か原因があるだろうと思いますが、舗装工事ではこうした事が良く起こる事についてよくよく考える必要があると思います。少なくとも適正な設計と施工がなされたならこうした極端な差は見られない、もしくはやるべき事がなされたら悪くなる原因も絞り易く対応し易いと思います。アスファルト舗装の数年後の品質について、もっと長期間の保証義務とすれば施工者から様々な意見や協議が上がってくると思いますし、そうなれば、さらに良いモノ造りに繋がっていくと思いますが皆さんはどう感じるでしょう。
 個人的にアスファルトは難しいと思う事から一部しか理解出来ておりませんので、要領を得ない記事かと思いますがその点は専門の皆さんにとっては物足りないかも知れません。いつかそういった箇所についてご指導いただけたらと思います。

 最後に、技術者不足に加えて働き方改革等々の問題が山積している事から、発注者・設計者・施工者全てのプレイヤーは現場を見て回る、省みる時間がほとんど無い状況ではないでしょうか。私は現場へ行く理由があって頻繁に現場へ行きますし、片道4時間かけても気になる事は確認しに行きます。端から見たら時間の無駄でしょうが、気付きがあれば、その時に解決した方が技術力は高まるはずですし、長い目で見た場合、技術獲得には時間短縮だと感じております。もちろん、現場へ出てもマニュアル通りでしか考えられない技術者にとっては、マニュアル以上の事は考えられないので現場へ行く時間は無駄かも知れませんが、それでも現場へ頻繁に行く事で様々な疑問が生じてくるかと思います。

 そうした疑問を解決する為に思いを巡らせ、現場で試行錯誤・検証するだけで自然と技術力は向上すると思いますが、そうした事をする資金・時間・人的余裕がない状況では難しいでしょうか。せめて良いモノを評価する仕組みさえあれば、施工者が成長し、最後の砦として機能するかと思います。

 公共工事ですので、できる限り費用対効果・ストック効果等を考慮しなければ国は疲弊する一方ですので、品質の高い現場とすれば、国民の安全な通行も担保されるでしょうから、それこそ安全第一に見合う行動かと思います。建設時の現場の安全も大切ですが、構築される土木施設の品質は工事期間の数十倍の期間において国民の安全を保証する事を考えたなら、さらに品質の在るべき姿を追求する必要があるかと思いますが皆さんはどう考えられるでしょう。

 今回も独り言にお付き合いいただき、まことにありがとうございました。

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