道路構造物ジャーナルNET

番外編 アスファルト舗装について

失敗から学んだコンクリート

株式会社ファインテクノ
調査計測部
マネージャー

平瀬 真幸

公開日:2023.07.14

はじめに
 「もしも示方書に意思があればどう考え行動するだろうか」

 子供の頃この時期、夏休みが待ち遠しく「あと何日で夏休みだろう、早く休みにならないか」と毎日楽しみでしたが、多くの方がそうした思い出があるかと思います。私は田舎育ちですから、一日を通して山・川・海や公園をフィールドに朝から暗くなるまで遊び回っておりました。ところが、中学生になって遊んでばかりとはいかなくなる場面に遭遇することになります。子供の頃は中学を卒業したら働きたかった事もあり「勉強は時間の無駄」と本気で考えておりました。そんな子供の考える事は親に丸わかりですので成績不振を理由に夏休みから塾に通う事になります。せっかくの夏休み、1日中遊ぶ思惑が外れガッカリしましたがモノは考えようです。塾に通うのは仕方ないと諦め、遊ぶ時間をフル活用する事に頭を切り替え、塾に行く時は学生服の下に海水パンツを履き、釣り竿・餌・着替えを忘れずに出発。塾の前後は川で泳ぎながら魚釣り、時間がきたら塾へ行くというスタイルで夏休みを過ごしました。塾では毎日宿題が出るのですが、それは友達の宿題を書き写してそのぶんフルに遊んでおりましたが、先生からは「毎日の釣果を報告するように」とだけ言われましたので、今にして思うと宿題をしていなかった事は先生にバレていたのだろうと思います。

 さて、釣果を報告するにも私含め友達も魚はあまり釣れず餌だけ食い逃げされてしまう状況。そこで竿に当りがあるのに餌だけ無くなって釣れないのは何故だろうと思いを巡らせ「市販の餌では粉状に散ってしまう事から容易に食い逃げされるのでは」と推測、餌をオリジナルの特別配合として魚が餌を突いても飛び散らないように工夫したところ、それ以降釣果が上がるようになりました。オリジナルの餌を考えるに当たっては釣り雑誌を熟読し魚の気持ちを想像しながら試行したのですが、これは今でも「コンクリートの気持ちを考えて」と指導する事がありますので、考える事、行動する事、結果を見て改善する事については子供の頃に自然と身についたのかも知れません。コンクリートに気持ちは無いでしょうが、それに加えて「もしも示方書に意思があればどう考え行動するだろうか」と想像しながら事に当たりますので、自然と誠実丁寧な施工となるのは当然のことかも知れません。

 遊びは、常に結果に拘って創意工夫の毎日でしたので気付きや改善の連続であり、今の行動に繋がっているのではないかと思いますので、何事も夢中になると言う事は学びが多いように思います。

 ところで、無理矢理の塾通いは長く続くことはなく秋なかばから通わなくなりました。このとき、勉強する動機や理由が理解されないままでしたので、仕方なく塾に通っても実にならないと経験したことから、それについては自分の事ながら反面教師としております。その反省から現場で指導するときは正しい動機付けとなるために「公共工事の在るべき姿」を自分なりに説明するようにしておりますが、そのような話は誠実なプレイヤーには受けが良い事から、集中して話を聞いていただける方々は短期間(1現場)で成果も大きなモノとなる事が多いようです。

 さて、前回記事の最後に以下のような紹介をしました。
 「先日、高山植物の自生する標高の高い地域において蝉が鳴いていました。同県の温かい海岸線で蝉は全く鳴いていなかったことから不思議だなと周囲を観察すると、10年前には硫黄が出ていなかったはずの箇所で硫黄が出た形跡が複数で確認でき、そこでは気温も高く、アスファルトについては5度以上熱かったので少し不気味に感じました。そこでは硫黄による構造物劣化が顕著でしたので、次回はそれについても紹介しつつ雑談形式で記事にできないかと考えております」と記載しましたので、それについて紹介したいと思います。

化学的浸食を受け側壁が圧壊
 側溝で浸食を受けた箇所と受けていない箇所で最大50℃程度の差

 私は昔から自分が携わった工事について休日や業務のかたわら経時・経年変化を確認する習慣があります。この行動は前回記事で紹介しました、「構造物が壊れる理由を理解した上で設計・施工しなければならない」と恩師に指導された事が脳裏に刻まれたからだと思います。社会に出て新入社員の時に初めて携わった現場を2年程度経過した時に確認した際、思いのほか経年変化が良くない事について「何故、こんなに早く悪くなるんだろう」と疑問に感じた事もあって、「何が原因だろう。どうしたら良くなるだろう」等、常々考えて行動しておりますが、そうした考えや行動によってもたらされるモノは言葉では言い尽くせない程の成果となる可能性が高いと思う事から動機付けはとても大事だと考え行動しています。

 実は今年の5月20日、勉強のために鹿児島市へ行くついでに私が携わった工事の経年変化を確認してまいりました。この日の鹿児島市は少し暑く、最高気温は27℃程度でした。用事が終わり、以前携わった現場へ車を走らせると霧島市山中にある温泉郡を通過してさらに山頂方面へ5㌔移動すると風が冷たく外気温は19℃、そこが携わった現場だったのですが、涼しいにも関わらず蝉が鳴いているのに気づきました。温泉の蒸気が出ている地域ですので少し温かく、それで蝉が孵化したのかと思いましたが暖かい海岸線では蝉が鳴いていませんでしたので不思議に思って車を降りて確認しました。一通り現場を見て回ると、雨上がりでしたので路面は濡れて(写真-1)いたのですが、蝉が鳴く付近のごく一部で舗装が乾いて(写真-2)おり、別日、何度か雨上りに確認しましたが同じ所だけ乾いていました。


写真-1 雨上がりの濡れた路面/写真-2 蝉がいる付近の乾いた路面

 そこでは路面の破損(写真-3・4)が確認できましたので近くを観察すると、側溝が温泉地特有と申せば良いでしょうか化学的浸食(写真-3・4・5・6)を受け側壁が圧壊。おそらく雨水が欠損した側溝の隙間から道路側へ漏れていると考えられます。

 
写真-3 路面の破損/写真-4 路面の破損部拡大写真

写真-5 化学的浸食/写真-6 化学的浸食で圧壊

 ここで温度計にて地熱の影響を確かめてみました。側溝で浸食を受けた箇所(写真-7)と浸食を受けていない箇所(写真-8)、舗装が乾いている箇所(写真-9)と舗装が濡れている箇所(写真-10)で温度を測定してみたところ、側溝で浸食を受けた箇所と受けていない箇所で最大50℃程度の差があり、舗装においても乾いた箇所と濡れた箇所で15℃程度の差を確認、写真は省きますが法面においても最大18℃程度の差を確認しました。


写真-7 浸食を受けた側溝の温度/写真-8 浸食がない側溝の温度

写真-9 乾いた舗装の温度/写真-10 濡れた舗装の温度

 13年前に私がこの地で工事をした時、こうした破損などありませんでした。何故ハッキリ覚えているかと申しますと、この場所で一部舗装が盛り上がっていたので危ないと感じて部分切削したからです。この乾いた舗装の下流には川が流れており、その川から下は常に蒸気が出て、地熱によって舗装も乾きが極端に早いのですが、私が施工した箇所はそうではなかったのです。この地域はいつ火山が噴火してもおかしくありませんので、地熱変化について不気味な感覚となったのですが、今後もこうした観察が今後に生かされると思いますのでこの作業を続けようと思います。

概算発注って理解してるの? こんな事で施工できるの?
 材料メーカーを巻き込んで、支持力を含む現場確認と設計の見直し

 ここで、私が携わった現場の設計概要(表-1)を覚えている範囲で紹介させてください。

表-1 概算発注内訳

 施工時期は2010年12月、この現場は全線で傷んでおり、疲労ひび割れ、横断方向の線上ひび割れ、亀甲状ひび割れ、ポットホール等があってアスファルトは各所で飛散し酷い状況でした。現場では応急的に簡易補修が幾重にも実施されており、そこではアスファルトが飛散、あちこちで水たまりが発生しその深さは5cm以上のところもあり、一部で谷側の路体が沈下した事が原因で舗装に段差が生じていましたので非常に危険でした。文字にしますとピンと来ないかも知れませんが、坂道を下り方面に30km/hで急ブレーキをかけると飛散したアスファルトで車がスリップして止まりきれず、段差やポットホールにタイヤがはまってハンドルを取られると同時に大きな衝撃も受けると言えばその程度が分るのではないでしょうか。そうした徐行運転しなければならない危険箇所が複数で存在しました。 概算発注でしたので、私はアスファルト舗装の基本的考えに基づいて設計をやり直そうとしたところ、上司から「縦横断測量が終わったら設計通りオーバーレイしなさい」と指示されました。

 私は概算発注であり、発注者は現場条件と設計が合わない事を想定しているかも知れないので設計の見直しが必要だと主張しましたが「いつも設計通りやっているし発注者もそれ以上求めていない」等の主張を受けて、私も県発注工事は初めてであり今までの経緯も知らない事から「郷に入りては郷に従え」かと縦横断測量成果を持って監督職員に報告しました。ところが、監督職員が報告書を見るなり「なにこれ、概算発注って理解してるの?こんな事で施工できるの?」等々、理にかなった鋭い質問をいくつも受ける事になりました。報告書を受け取らない監督職員に対して、私も当然のことだと反省と共に闘争心に火が付き「フルスペックで公益にかなう設計としますが宜しいでしょうか」と質問したところ、表情が朗らかとなり「よかど、持ってきてごらん」と言われましたので、私は特記仕様書に記載があった施工や材料等々に大きな疑義もあったことから、材料メーカーを巻き込んで、支持力を含む現場確認と設計の見直しに取りかかりました。

脆弱層の切削を追加 地盤沈下した箇所やポットホール等をレベリング
 アスファルトを220℃以上に加熱 液体として直接切削面全体に散布

 まず測量で判明したのは、横断方向に凹凸があって、アスファルトフィニッシャーで合材敷き均しが不可能である事は事前に分っていました。どういう状況かと申しますと、道路中心線と路肩を直線で結んだ時、凹凸があるので平均3cmとはならないのは当然ですが、深い箇所では10cmの舗装厚、浅いところは山のように盛り上がっており横断線の上に飛び出していましたのでアスファルトフィニッシャーのアイロンが当たって合材の敷き均しが不可能でした。それに加え、各所にて舗装のゼロ擦り付けがありましたので品質も確保できません。例え無理矢理平均3cmでオーバーレイしても水たまりは解消できませんし、すり付け部や下地が悪い箇所から舗装が損傷し易くなります。そこで私はそうした凸凹を無くす為、アスファルトが一定の厚さで下層の支持力を均一に得やすくするよう脆弱層の切削を追加する事、地盤沈下した箇所やポットホール等をレベリングして基面を平坦とした上で均一な厚さで表層を敷均す事としました。 また特記仕様書で、ひび割れ抑制として「ひび割れ抑制乳剤」なる聞き慣れない材料が入っておりました。ここで乳剤0.8L/㎡を散布する事でひび割れ抑制とできるのか不思議でしたので、メーカーの技術研究所などとやり取りしたのですがそんな材料は見つかりませんでした。

 また、急勾配の山道で乳剤0.8L/㎡を散布すると乳剤が坂道を下って大量に流れますので、通行車両に迷惑となるばかりか川に大量に流出するので環境汚染も伴います。急勾配での舗装をした事がある技術者なら分ると思いますが、そうした坂道でタックコートするとなると流れ出さないようにするのに0.3L/㎡程度が限界かと思います。それに加えて分割で乳剤を散布するにしても1層目は0.3L/㎡程度としても、2層目からはアスファルトに浸透しませんので0.2L/㎡以下でしか散布できません。それでも多い場合は少なく調整しなくてはならず、それはやってみなくては分らない領域です。乳剤を大量散布すると養生時間に数時間を要しますので、それを何層も実施するとなると全面通行止めとしなくてはなりませんがそれはできない条件でした。私の知る範囲で、層間付着力を最大に得られるのは0.4L/㎡程度でしたので施工不可と言って良い状況に思えました。

 使用するアスファルト乳剤の養生は通常工事では十分な時間が確保できない事から、そうした養生がなされないアスファルトは層間の付着強度が弱く、層間剥離が発生した後に荷重が加わる事でアスファルトは破壊に至ります。 乳剤を多く散布した場合において養生が不十分であると、乳剤が少ない事より悪い結果を招く事が多いと思いますが、現場では多く散布する事が優先されて養生が不十分な状態で舗装される事が圧倒的なので、乳剤は速乾性の方が値段は高くなりますがアスファルトの品質を確保し易いので費用対効果は圧倒的に良いと思います。

 この現場での乳剤の位置付けはひび割れ抑制する事でしたので、頭を切り替えてひび割れ注入するアスファルトそのものを220℃以上に加熱して液体として直接切削面全体に散布する事にしました。アスファルトを高温で散布しても、速乾性があるので流出はありませんし均一な散布量が確保できます。また、乳剤を過剰に散布すると品質が悪くなりますが、アスファルトの直接散布では品質低下がない実績を書面上ではありますが確認しましたし、メーカー担当者や研究所の職員も対応が誠実で納得のできるデータを出してこられたので信用して発注者へ提案しました。この材料はひび割れ注入剤と同じ成分ですので、乳剤と比較しても品質の優位性もあり、費用についても材料代だけを考えると高くなりましたが、ひび割れ注入しなくて良い事など総合的メリットの方が大きくなりました。

 このアスファルトを直接散布する工法は特殊工法でNETISにも登録されていない新技術でしたが、監督職員に対して詳細に説明して納得いただき採用してもらえました。 この路線においては、予算が少ない事からパッチングやオーバーレイがなされて全線を通して傷みが酷い状況でしたが、私が修繕して13年経過し現況(写真11・12)からは、一部ひび割れは生じていますが、アスファルトに異常は見られず経年劣化も小さいので費用以上の高いパフォーマンスを今も維持していると言える良好な状態ですので、測量してオーバーレイしようと間違った行動で監督職員に不興を買いましたが、こちらの対応に満足いただき高得点を頂戴した事に加え、この現状にとても満足するとともに高く評価していただいた監督職員・検査官に感謝しております。 この現場以降、同じ職員の方が発注された隣接工事においては当初設計からオーバーレイではなく、切削オーバーレイに変わった事をここに記します。


写真-11、12 切削オーバーレイから13年が経過

ご広告掲載についてはこちら

お問い合わせ
当サイト・弊社に関するお問い合わせ、
また更新メール登録会員のお申し込みも下記フォームよりお願い致します
お問い合わせフォーム